必然を運命に
―取調室 昼―
(この人は、さっきの人と同じ警察? 同じスーツを着ているし。ただ、恐ろしいくらい仲が悪いみたいだ。それにこの人、カラスって……)
この国では珍しい黒髪を堂々とさらけ出している辺り、比喩的な悪口ではないようだ。目の前にいる人物は、本当にカラスで何らかの事情で警察という組織にいる、そう考えるのが妥当であるように感じた。
「何かな? ジロジロ見て。レディなら大歓迎だけど、男の君に見つめられても精神的に苦痛だよ。まぁ、今は文句を言ってる暇はないか。おめでとう、巽」
発せられるはずのない名前、それが目の前の知らぬ人物が言った。その衝撃と動揺は、未熟な僕には隠し切れるものではなかった。
「どうして僕の名を!?」
「そんなリアクション、前にもしたよね? 再放送は勘弁だよ」
「え?」
この国で、僕はこの人に会ったことがあるらしい。しかも、本来なら知るはずもない僕の本名を把握している。警察という組織は、王にも繋がりがあるということだろうか。でなければ、かなりの情報流出だ。
「……妙だな。まぁ、いいか。私らにとっては些細な問題。さて、どうして君の名を知っているかということだが……今は教えられないね」
怪訝そうな表情を一瞬浮かべたものの、それは大したことではないとすぐに余裕そうな表情に切り替えた。そして、人差し指を自身の唇に当てて小さく微笑んだ。
「何故? 知られている側としては、それくらい知る権利があるはずです。貴方達が正当な手段で、それを把握しているのならば」
もしも、目の前の人物が普通でないとしたら――そう考えるだけで気持ちが焦った。機密にも等しい情報を知られているなど最悪だ。
だから、知りたい。目の前の人物が、どんな存在であるのか。
「フフ、なんだ。まだそんな口が利ける元気があるんじゃないか、さっきまでの死んだ顔が嘘みたいだよ。ちょっとだけ安心した。で、何故教えられないかと言うとだね、ここを出れば分かることだからさ」
しかし、この人は今言うつもり一切ないらしい。
「……ややこしいです。教えられるなら今教えて下さい」
「君は知りたがりだね? 待つことが出来ないタイプかい? 何度でも言うけど、ここから出ればすぐに君は理解する。私の立場も、何故君の名を私が知っているかも……ね」
前髪を掻き上げ、僕を見下ろしながら怪しく微笑んだ。
(ここから出なければ……分からないというのか。けど、ここから出ても僕には居場所はない。でも、ここで色々突きとめなければ国にも迷惑がかかるかもしれない……くそっ)
「分かりました……ここから出れば分かるんですね? すぐに」
「うん」
「なら、行きます」
「外に連れてってくれる人がいるからね、ちゃんと一緒に行くんだよ」
僕は立ち上がり、ドアに向かって歩いた。そして、ドアを開き外に出た瞬間だった。
「……運命的な出会いには演出が必要さ、それが必然なら尚更。すぐにとは言ったが、君の思うすぐとは少し違うかもしれない。だが、今日中には必ず……出会える」
ドアが閉まる直前、そう聞こえた。その声色は明るくも、どこか悲しそうにも聞こえた。
「行くぞ、ついて来い」
ただ、それを確認する間もなかった。あまり不審な動きをしていては、この案内係に怪しまれるであろう。致し方なく、案内係に従って僕は取調室の前から離れた。




