小物に銃を
―取調室 昼―
「――なぁ、お前がやったんだろう? 遺体すら見つからないおぞましい方法で、あの老夫婦を殺したんだろ? 状況的に考えて、お前しかいないんだよ。爆発のあった時間、レストランに三人しかいなかったことくらいは、私の素晴らしい捜査で明らかになってる。周辺に誰もいなかったこともな。簡易の魔術でこれだけ調べられる、外国人のお前には恐ろしいことだろう」
(僕がもっと精神的に強ければ、こんなことにはならなかったんだろうか? 何もかも、僕のせいで……)
「放火に加えて殺人、魔術違法使用違反……罪は重いぞ」
(僕が、僕さえ……)
「おい、聞いてんのか!」
僕を連れて行った時、薄ら笑いを浮かべていた男性は、何も答えない僕に腹が立ったようで苛立ちを隠し切れていない。
答えなければ、自身が不利になるということはよく分かっていた。けれど、もう何もかもどうでもよくなっていた。
(ずっとここにいることになっても、僕の国にはゴンザレスがいる。この国にだって、もう居場所はない。いっそ、このままでいた方が誰も不幸になんてならないんじゃないだろうか。それに、禁忌の技術のこともこんな僕には解き明かせない。嗚呼……絶対的な僕の居場所は、どこにもないんだ)
「てめぇ――」
男性の手が、僕に振り下ろされようとした時であった。
「暴力行為で失職……うん、悪くないね。出世欲に囚われた、小物らしい最後と言える。でも、そういうの良くないと思う」
気が付くと、ドアの前には男性とも女性とも取れる中性的なグレーのスーツを着た人物がいた。その人物を見ると、男性は一瞬驚愕の表情を浮かべた後、わざとらしく舌打ちをして手を振り下ろすのをやめた。
「アシュレイ、お前いつからそこに……」
「そんなのレディじゃない君には関係ないよね。いつからいようと、私がその行為を目撃しかけたことに変わりはないんだし」
肩まで伸ばした黒髪を一度手でなびかせ、嘲笑するような笑みをアシュレイさんは浮かべた。
「相変わらず舐め腐った態度だな。カラスの分際で」
「古い偏った思想の持ち主になんと言われようと関係ないね。それより、出世大チャンスの君に残念なお知らせだよ。上からの命令で彼の釈放が決められた。異論は認めないって。さ、さっさとしないと命令違反で失職しちゃうかもよ?」
「な……適当なことを……」
「聞けない?」
アシュレイさんは、仕方ないとでも言わんばかりの表情で内ポケットから銃を取り出した。そして、銃口をしっかりと男性に向けた。
「納得がいかない、その気持ちはわかる。でもさ、君の捜査の方が納得がいかないよ。それのどこに素晴らしい捜査要素があるのか、私に詳しく教えて欲しいものさ。どうする? 私の言うことを信じない? それとも、信じてくれる?」
「カラスの言うことなど……」
強がりを言っているが、彼の体は露骨に震え始めていた。
「命令を聞かないから撃ちましたって言えば、正直許されそうな気配はあるんだ。レディじゃないし、私はそもそも君が嫌いだし……これも、運の巡り合わせって奴かな」
彼か彼女かは不明だが、アシュレイさんは撃鉄を起こすと引き金に指を持って行った。
(本気だ……)
警察という組織は一体何なのだろう。捜査の専門機関ではないのだろうか、それにしても物騒過ぎる。
「ひええええっ!」
尻尾を巻いて逃げるようにアシュレイさんを押しのけ、ついに彼はドアを開けて飛び出した。彼の姿が見えなくなるまで、銃口を向け続けていた。
「はぁ……」
すぐに姿が見えなくなったと同時、アシュレイさんはわざとらしく息を吐いて銃を下ろした。




