罪と冤罪
―街 朝―
朝日が昇った頃、ようやく火が弱まった。あれだけの大きな炎だったのが嘘のように、恐ろしさなんてものは感じさせなくなった。
それによって、ようやく僕らも近付けるようになり再び消火活動が再開された。魔法などを使うと再び火が強まる兆候が見えた為、バケツを使って少しずつ行われていた。そうすると、何故か火は消えていった。
「真っ黒だ……」
一階は完全に潰れて、二階が一階になっていた。爆風で飛ばされなかった部分が辛うじて残っている程度で、レストランだった頃の面影は全く残っていない。
あるのは炭だけ。そこに、僕らがいたことも皆が料理を楽しんでいたという痕跡は微塵もない。
「あ、ぁあ……」
何とかピーターさんに支えられてここまで来たものの、その惨状を見せつけられて心は酷く痛んだ。
「……酷過ぎますね、これは。魔法で火が消えなかった辺り、普通の火事とは思えません。誰かが……悪意を持って特殊な火をつけたとしか思えないです」
ピーターさんは、怒りと悲しみが入り混じった口調で言った。いつもの冷静な表情を崩さずに。本当は、僕以上に動揺して悲しんでいるに違いないのに。僕がこんなのだから、気を遣わせているんだ。
「僕のせいです……マシューさんが言っていたことが現実になったんです。僕が、さっさと出て行っていれば……こんなことにはならなかった! 二人を、僕が殺したも同然です……」
自分の全ての行動が、最悪の結果をもたらした。回避する為の方法は間違いなくあったはずなのに、僕の油断が甘えが全てを狂わせた。何もかも奪った。僕が一番の罪人だ。僕さえいなければ、僕さえ二人の前に現れなければ――。
「ふざけたことを言わないで下さいっ!」
瞬間、鈍い音が周辺に響いた。頬に痛みが走り、支えを失った僕はその場に崩れ落ちた。一瞬何が起こったのか、理解出来なかった。
「二人を変えたのはタミさんです! もしも、現れなければ……彼らは廃人のままでした。ただ無心で料理を作り続ける、ロボットのようなもの。昔の楽しさを忘れ、悲しみと後悔に囚われていました。それを変えてくれたのは、貴方なんです。私にも成し得なかったことを、貴方は成した! その事実は変わりません!」
「そんなの……」
たまたまで、知っててやったことじゃない。今回のことは、知っていたのにやらなかった――その差はあまりにも大きい。
「恨むべきは自分自身ではありません。悪意を持って火を放ち、思いでも何もかも燃やし尽くした人物にそれを向けるべきです。どれだけ自分を責めても、何も変わらないでしょうから」
「でも、僕は二人から離れなくてはいけなかった! その事実も、こうなった以上変わらない!」
「一緒にいたいとお互いに思っていたのに、どうして離れなければならないのですか? そんなの間違っているでしょう!?」
「だって……だってっ! ううぅっ……」
それが運命だったから、と言い切ることは嗚咽が邪魔をして出来なかった。
一緒にいたくても、それで誰かが不幸になるなら離れなくてはいけなかった。それから逃げ続けたのは、僕の弱さだ。自身の運命を、身に降りかかる呪いを誰よりも理解している僕が自ら身を引かなくてはならなかったのだ。
「――見つけたぞ、連れて行け!」
その時だった。スーツを着た集団が現れたのは。わざとらしく足音を立てて、状況を乗り込めない僕を包囲した。
「何ですか、貴方達は!」
ピーターさんは身を構える。すると、スーツの集団の中でも少し年老いた男性が薄笑いを浮かべながら、内ポケットから黒い物を取り出した。
「警察!? どうしてタミさんが!?」
「理由は言うまでもないが……タミ、お前には魔術違法使用違反と、放火の容疑がかけられている。言い訳は署で聞かせて貰う」
薄ら笑いの男性がそう言うと、彼らは僕を拘束した。身に覚えのない容疑だったが、それに抗う気力は残っていなかった。
僕の代わりにピーターさんが何かを言っていたが、それが届くことはなく僕は連行された。




