明日は来ない
―レストラン 夜中―
(結局、今日は誰も取りに来なかったな)
片付けが終わった後、僕はあの小さくて黒い箱をレジの下のスペースに置いた。大事な物であれば誰か取りに来るのではないかと思ったのだが、その前に店は閉店時間を迎えてしまった。
完璧とは言い難くモヤモヤとするものもあるが、とりあえず無事に久々の仕事は終わった。その後に皆で賄いを食べて、疲れを癒した。
他の従業員は賄いを食べてすぐに帰宅した為、もう既にここにいるのは僕ら三人だけだ。
「お疲れ様。タミ達と来たら、休めって言うのに休まないんだから。いいかい? 今日はしっかり休むんだよ」
どの口がそれを言っているんだろう。ずっと厨房にこもって、二人だけで料理を作り続ける疲労は普通に考えて半端なものじゃないだろう。
「はい。でも、それはお互い様じゃないですか? デボラさん達の方こそ、ちゃんと休んで下さい」
「ガハハハ! 俺達には料理作ることの方が、よっぽどいいんだよ」
トーマスさんは、料理を美味しそうに食べながら言った。
「そうですか……ハハ、では、僕は寝ます」
疲れ過ぎて、トーマスさんの作った料理は身に染みた。僅か十分程度で完食してしまった。もっと食べられたが、あまり食べ過ぎると胃の弱い僕には堪える。
なので、朝にまた食べようと思う。今日はもう寝て、備えるべきだろう。
「若いんだから、しっかりと食ってしっかりと寝ろ! お休み」
「今日もよく眠れるだろうさ、お休み」
「はい、お休みなさい」
僕は二人に軽く頭を下げて、住居スペースのある二階へと向かった。あまり話し込む元気も残っていない。とにかく、今日は疲れた。
「ふわぁ……」
眠たい、階段を上りながら眠ってしまいそうなくらい。疲れ過ぎると、こんな状態でも眠くなってしまうのだろう。
(あ、そういえばあの忘れ物のこと……まぁいいか。どっちみち今日はもう誰も来ないだろうし。また朝に伝えればいいか……)
もう階段を下りる気力も、声を張り上げる気力もなかった。今すぐにベットに飛び込んで、夢の世界に逃げ込みたかった。
(そろそろ探さないとな、僕が前住んでいた場所。いつまでも、お世話になる訳にはいかない。どこか、多分近くにあるんだろうけど)
マシューさんの言っていたことが気になる。到底嘘とは思えないし、気のせいだとも思えない。現に変なおばさんに絡まれたりしている訳だし、一刻も早く元の居場所に戻るべきだ。一回こうなる前に絡まれているみたいだが、それは気にしないでおこう。
(まぁ、それも含めて朝に……)
今の僕に、深い所まで考える気力はない。ようやく寝る部屋に辿り着いた。急いで眠りたいと思っていたのに、眠過ぎて体が石のように重く思うように動かなかったのでかなり時間を要した。
「おやすみ……なさい……」
窓から近い場所にあるベットは、月明かりに照らされて神秘的に僕の眠る場所を示しているようだった。僕は、そこに飛び込むように寝転び目を瞑った。
陽の光が僕に目覚めを促すと、朝が来ると、二人の作った朝食を食べることが出来ると信じていた――その全てを破壊する爆発音と熱に襲われるまでは。




