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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十三章 邪悪な手
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未来はあるのか

―クロエ 学校 朝―

「はぁ~……」


 巽君を助けてそれなりの日数が経過した。すぐにボスか、周りの組織の人間にバレると思っていた。だから、死ぬ覚悟は出来ていた。

 けれど、私は生きている。学校に平然と通い、授業を受けている。恐ろしいくらいに穏やかで平和な日々、私の犯した裏切りという行為を忘れてしまいそうだ。


(泳がされてるのかなぁ? それとも本当に気付いていないのかな?)


 最も驚くべきことは、あの後にモニター室に監視役が数名ついたこと。私より低い階級の者達がその任を任されたのだろう、ずっとそこに居座っている。

 巽君が囚われていた部屋の確認をしていないのか、それともいないということを知っていて私を見ているのか。こんなこと、あっていいのだろうか。


(分からない……何も。私をもて遊んでいるのかな、試しているの?)


 生きた心地がしない。ずっと死に怯えている。覚悟は出来ているはずなのに、怖いと感じている。私は、生きたいと思っているのだろうか。


「はあぁぁ~……」


(それに、巽君は無事なのかな? 確かめたいけど下手に近付いて、それでバレてしまったら……最悪だわ)


 ここ最近、ため息がとまらない私を心配してか、クリスティーナが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、そんなにでかいため息ついてどうしたの? 最近、ずっとそんな調子だけど」


 私が命の瀬戸際で悩んでいることなど、クリスティーナは知る由もない。いや、知る意義もない。これは私の事情でしかない、彼女を巻き込んでしまう訳にはいかないのだ。


「いや、別に……」

「も~ずっとそればっかり。友達でしょ。悩んでることとか、迷ってることがあるなら言ってよ」


(友達……私にはいらない。それに人間は醜く愚かな生き物……友達になるなんて論外だわ。例え、この子でもね……)


 悪い子じゃないことは分かってる。でも、どうしても超えられない壁がある。鳥族なら、カラスなら刻み込まれた人間への恨み。それは、そう簡単に克服することが出来ない。


「う、うん。でも、大丈夫。個人的なことだから。それより、研究の方はどう?」


 これ以上、この話は続けたくなかった。今日までずっと、逸らすことで誤魔化し続けてきた。


「え? あぁ~何かね! 研究の手助けをしたいっていう人が現れてね! 電話だけだったから、もしかしてからかわれてる!? って思ったんだけど、実際に色々最新魔術機器とか貰ってね。今までより質とか上がって、負担も減りそうな感じなんだ!」


 こんなに話を切り替えたというのに、彼女は怪訝な表情一つすることなく自身のシステム介入型魔術について語り始めた。本当に、自分のやっていることが大好きなのだろう。


「へ~なんでまた?」

「分かんない! まぁ、そういうことやってるよっていうのは一応色んな人には言ったりしてたから、人伝にそれを聞いたりしたのかもしれないなぁ。本当にすっごいの。精密な計算も出来るし、ますます研究にのめりこんじゃって!」

「その機器って今まで買えなかったの?」

「買っちゃ駄目ってさ、そんなことをやってる暇があれば家の方を手伝えって。でも、その人が知らない間に親に会って直接説得してくれたみたい。まぁ、タダで貰えたし結果的にラッキーってね」


(凄い人がいるもんね、相当権力とかあって口も上手い人なんだろうなぁ)


 ふと、ボスの顔が浮かんだ。あらゆる所に権力と顔を持ち、簡単に人を言いくるめることが出来る人だ。


(いやいや……流石に)


 しかし、それは流石に考え過ぎだと掻き消した。

 それにしても、どこにチャンスがあるかは分からないものだ。何にしても、彼女の努力が報われる時が来て良かったと思った。あの魔術にはかなり助けて貰った訳だし。

 魔術の更なる発展は、どの種族にも受け入れられることだ。だから、彼女が機会を得たということは祝福すべきことだろう。


「じゃあ、これからどんどん使いやすくなる訳だ」

「うん、頑張るよ!」


 彼女の笑顔は、とても明るい。未来があると信じて疑わない、そんな人間の表情だからだろうか。

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