邪悪な力
―遊園地 朝―
僕はジェットコースター乗り場を出て、ぼんやりと歩いていた。
(あの力は……あの子が? 力の源であるはずの彼女が消えたというのに、しばらくその場に留まっていた。圧倒的な力……凄まじかった。それに、あれは瞬間移動か? いや、でもあの歪みはそれとはかなり違うような。もっと他の何か……)
少女があの空間を発生させた瞬間、今まで経験したことのないような圧倒的な力を感じた。それは禍々しさを含んだ淀みのある力、そんなものをあの幼子が発生させたという事実が信じられなかった。
(あの子は人間なのか? それとも別の種族? 鳥族? って、どうしてこんなこと……どうしてこんなにも気になる? あの子は、係員の代わりに僕を見てくれていた……ただそれだけの認識で十分であるはずなのに)
奇妙な出会いだった。「また会いましょう」と、妙に大人びた少女は言った。僕らが出会ったのはちょっとした偶然であるはず。お互いにこの遊園地に来て、あの時間にジェットコースター乗り場にいなければ絶対に出会うことはなかった。この広い世界で、再び出会える確率などほぼゼロに等しい。
でも、何故だろうか。近い将来、僕は彼女に出会うことが出来るような気がした。
「――おいっ!」
「うわぁっ!?」
突然の呼びかける声に僕は驚き、声を上げた。
「や~っと、こっちに気付いたか。どんだけぼーっと歩いてんだよ、落ち込んでたのか?」
真正面には、トーマスさん達三人が並んでいた。目と鼻の先にいるというのに、呼びかけて貰うまで僕は気付けなかった。
「落ち込む……?」
「アトラクション制覇を誓っていた時に、突然の閉園……これほどのショックは普通に考えてありませんけどね。ただ、その反応を見る限りではそうではないようですね。何か神妙な顔で色々考えていたという方が正しいように見えます」
ピーターさんは、じっと僕を見ながら言った。
「何を考えていたんだい? かなり真面目な顔をしていたからねぇ、遠目から見ていても心配だったよ」
デボラさんは、心配そうな表情で僕の顔を覗き込んだ。
「いや……あ、それより、今日はどうしますか。もう閉園しちゃうみたいですけど」
皆にこの至近距離で見られているのが恥ずかしく、徐々に顔が熱くなっていくのを感じた。
「露骨に話を切り替えましたね、別にいいですけど。私としては、さっさとここから出られるなら万々歳ですよ」
「あんた、さっきからずっとそれ言ってるけど……嫌な気って幽霊の奴かい? だったら、マシューの時みたいにやればいいじゃないかい」
「そうだぜ、救いたいんだろ?」
「いや、そういう魂から感じる嫌な気ではなくて……上手く言えないんですけど、邪悪な力というか……」
ピーターさんは少し言いにくそうな表情を浮かべ、人差し指で頬を掻く。
「邪悪な力? それがここから出ているんですか?」
「いえ、今はもう……ですが、アトラクションが動いている間は間違いなく感じていました。アトラクションの停止が決まった瞬間に、その嫌な気が消えて……とにかく嫌なんですよこんな所! リニューアルしようがしまいが、結局それがあるんです!」
(僕が、さっきあの子から感じた力と同じだったりするのだろうか? もし、そうだったとしたら……あの子は本当に何者なんだ?)
彼の感じた嫌な気と、僕が感じた圧倒的な禍々しい力は同じであるのかは定かではない。しかし、可能性は十二分にあると思った。
その解決の糸口となるのは、あの少女。もしも、また出会えるとしたら――。
「分かった分かったって。ま、今日はもう無理だし、店に帰るとすっか。で、ゆっくり休もう。また明日から店開くかな」
その日は遊園地を出た後、レストランにすぐに帰った。街に戻った頃には、その遊園地の騒動で持ちきりになっていた。




