燃える体
―ジェットコースター 朝―
「はぁ……はぁ……」
どれくらい走り続けただろうか。僕の体が骨だけになってしまうのではないかと思うほど、ただひたすらにレールの上を走った。決して踏み外したりしないよう、集中しながら。
「まだ……終わらないのか」
体力は、とっくになくなっていた。終わりのない道を、見えもしないゴールを目指して走り続けたせいで。何度も足がもつれそうになった。何度も走るのをやめたくなった。
それでも走り続けたのは、走ることをやめられなかったのは、単純に言えば怖かったから、ただそれだけ。この場に留まりたくなかったし、逃げ出したかったのだ。
「はぁ……ん?」
恐怖から逃げていると、背後からバチバチという音が聞こえた。そして、熱さも感じた。まさか、と思い振り返って見てみると――。
「あ゛ぁ!?」
なんと、レールが炎に包まれ燃えていた。そして、金属で出来ているはずのそれは完全に燃え落ちていく。どこから発生し、いつから発生していたのか、僕がそれに気付いた時にはもうほとんど背後にまで迫っていた。僕より後ろのレールは存在していなかったのだ。
(なんで!?)
その疑問を解決している余裕はなかった。火から少しでも離れる為、速度を上げた。一刻も早く逃げなければ、火だるまになってしまうのは目に見えていたからだ。生きながら焼かれるというのは僕の経験から言うと、滅多刺しにされるより辛い。十六夜に昔された拷問のせいで、痛みの想像するのは容易だ。
(この遊園地は本当におかしい! どうして人気なんだ!)
証拠隠滅を徹底して行っているのか、僕だけが何故か体験しているのか……どちらにしても本気で気味が悪い。
「うあっ!?」
僕が最も恐れていたことが起きた。体力がなかったのに速度を上げたこと、後ろに気を取られていたこと、色々考えながら走っていたことが原因で僕は狭間に落ちてしまったのだ。
「くっ、動かない!」
完全に狭間にはまってしまったみたいで、魔法を使っても体は浮き上がらない。瞬間移動を使うことも考えたが、一回浮遊の魔法を使ったのが過ちだった。他の魔法を使う時間もなく、僕は火に飲まれた。
「ぐあああああああっ!?」
抗う余裕はなかった。言葉にはし難い激痛。突き刺されるよりも痛く、切り裂かれるより痛かった。
「熱い! 熱い熱い熱い熱い熱いっ!」
火を消そうと暴れても、僕の体を燃料にしてそれはますます燃え上がる。目の前が真っ赤に染まった。何故か、僕の周りだけレールはなくならない。まるで、見せしめのようだ。
数秒が数時間にも感じられ、その間に声すら出なくなった。目と喉が痛い。何も見えない、何も分からない。
「あ……あぁ……」
どれほどの時間苦しんだだろう。僕はどうなってしまったのか、もう判断出来なかった。意識がぼんやりとしてくるのに救いを感じていた。これだけの苦痛が続くくらいなら、意識を失ってしまった方がマシだと思ったから。
『――よく頑張りましたね』
その薄れゆく意識の中、僕は確実に聞いた。この暗闇に響く幼い子供のような声を。




