化けの皮
―遊園地 朝―
行かなければ、やらなければ。僕が皆を救わなければ、それが僕にしか出来ないことだから。チケットを受け取り、僕は先陣を切って早足に近くのアトラクションに向かっていた。
「おいおい、かなり張り切ってんな。年寄りもいんだから、少しは気遣ってくれよ~なんてな~」
「ハハハハ、タミも童心に返りたい時くらいあるだろう。タミ~! 気にせず楽しんでおいで、私らは後から行くから!」
「甘いんですよ、二人は彼に!」
色々言われているようだが、僕は三人に背を向けたまま、とりあえず手を振った。
(ごめんなさい、勝手な行動をして……だけど、のんびりしてる暇はない! この遊園地は絶対に普通じゃないんだ、僕がそれを暴かなければ!)
少し歩くと、行列の出来ているアトラクションを見つけた。どうやら、ここが一番血の館から近い場所のようだ。
「「「きゃーーーーっ!」」」
降り注ぐような甲高い悲鳴が、僕の耳をつんざいた。
(悲鳴!?)
まさかと思い見上げると、丁度見たことのない乗り物が鉄筋むき出しの建造物の上を恐ろしい速さで移動していった。それに乗っている人達は楽しそうに両手を挙げていて、僕の考えた最悪の事態は起こってはいないようだった。
「これに乗らないといけないのか……」
何もないのが一番だ。だが、何故だろう。普段はあまり役に立たない僕の勘が、危険を訴えてきている。行くな近付くな、と。
(あそこに男の人が立ってるな……さっきの人と違ってニコニコしてて明るい雰囲気だ。あの人に、このチケットを見せればいいんだな)
チケットには、『ユートピア・アーリヤ』と書いてある。ここが、この遊園地の名前らしい。ユートピア、すなわち理想郷。そんな名前が相応しい場所とは、到底思えない。
(化けの皮を剥いでやるさ、この僕が)
そして、僕は入り口の前に辿り着いた。軍服のような制服を着た男性は、僕を見るなりすぐに満面の笑みを浮かべた。お手本のような笑顔、これを普通に出来る人を尊敬する。
「すみません、これを使いたいんですが」
僕は、持っていたチケットを差し出した。
「あぁ、かしこまりました。どうぞお入りください。お一人様ですね?」
「はい」
(この人は何も知らないのか? それとも知っていて……?)
人を見る目がない僕には、この人が怪しいのか怪しくないのかすら分からない。怪しい目で見ればかなり怪しいし、怪しくない目で見ればかなりいい人に見える。
「い、一番後ろになりますが……あ、あの私の顔に何か?」
僕があまりにも見過ぎたせいか、彼は一歩後退りして怯えた顔でそう尋ねてきた。
「あ、すみません。大丈夫です」
「……? かしこまりました。では、どうぞ楽しんで~!」
しかし、彼はプロだ。すぐに表情を切り替えると、中に入っていく僕に向かって明るく手を振った。




