僕が暴く
―遊園地 朝―
「――タミ! お~い、タミ!」
「はっ!」
光に飲み込まれ、それに耐え切れず目を閉じた。その後すぐ、デボラさんの呼びかける声と騒がしい周囲の音が聞こえて――。
「やっと起きたかい? は~災難だったねぇ」
目を開けると、既にそこは血の館ではなかった。目に入ったのは、こちらを心配そうに覗いているトーマスさんとデボラさんの顔だった。
「一体、何が……」
「システムエラーが起こって、血の館がちゃんと機能しなくなったんだってよ。やれやれだぜ。女に追いかけられる迫力がたまんねぇって、近所の奴に聞いたから楽しみだったのになぁ、リニューアルしたてだから色々あんだろうけどよ。あ~あ、俺達も楽しみたかったぜ。ったく……」
(システムエラー? 何を言っているんだ、僕はちゃんとあのアトラクションをやった。手を振り払い、ワルツを踊り切り、あの崩落する館から……)
「あ、ピーターさんはぅ!?」
「いでぇっ!」
ピーターさんの無事を確認しようと思い、すぐ目の前にトーマスさんの顔があったのについ上半身を勢い良く上げてしまった。
「す、すみません!」
「かぁ~……」
トーマスは頭を押さえながら、痛みに顔を歪ませる。
「私なら無事ですよ。驚きましたねぇ、まさか急に警告音が鳴り響いて部屋中が真っ赤なライトに照らされるなんて。もういっぱいいっぱいでしたから、私も気絶してしまいましたよ。やれやれ、もうあんなのはこりごりですよ」
ピーターさんは困惑した笑みを浮かべて、背後から姿を現した。その顔や体には、僕の見る限りでは傷一つ見当たらなかった。
(彼も吸い込まれたんじゃなかったのか? 僕だけだったのか?)
不思議に思いながらも、僕の傷の状態を確かめる為に自身の体を見た。
(怪我がない!?)
しかし、僕の体にも傷一つなかった。血が流れた跡すらないし、あれは夢だったと言われても違和感を感じないくらいだ。
だが、違う。あれは絶対に夢ではない。誰かが、何かの意思を持って攻撃している。魔術などが、どの国よりもずっと発展しているこの国だ。多くの人を欺くくらい、なんてことなく出来るだろう。禁忌の技術を、はるか昔に生み出したこの国ならば。
(この遊園地全体に、何か仕掛けがしてあるのかもしれない。表沙汰になっていないだけで、もしかしたら亡くなってしまった人もいるかもしれない。その真相を突きとめられるのは……死なない僕だけだ。子供も沢山いるのに、こんなの絶対に駄目だ)
「ラッキーとでも言うべきなんでしょうかねぇ。はぁ、こんなことになってしまった訳ですし、もう帰りませんか? 昔からずっと言ってるじゃないですか、この遊園地には嫌な気が漂ってるって」
ピーターさんは懇願するような声で、僕らを見た。彼があんなに嫌がっていたのは、怖いからだけという理由ではなかったということか。だが――。
「――駄目です」
「え!?」
僕がその提案を否定すると、彼は目を見開いて硬直した。まさか、僕から否定されるとは思わなかったのだろう。
「ここのアトラクションを全て制覇します。それまで、意地でも帰りませんから」
そう、こんな僕にだって意地がある。僕にしか出来ないことがあるなら、今しか出来ないのなら、僕が傷付くだけで多くの人を救えるのなら――どんな痛みも乗り越えられる。
弱いのなら弱いなりに、負け犬なら負け犬らしく、相手の手のひらで踊ってやる。そして、その正体を見破りこの遊園地ごと、こんなことを考えた者も終わらせてみせる。
「ま、気絶してほとんど楽しめてねぇんだろうしな」
「いや、それにしても制覇って……よっぽどここの雰囲気が気に入ったんだねぇ。真剣な顔でそれを言われるのも不思議な気持ちになるけど」
「タミさんなら分かってくれると思ったのに……あああああ~……」
ピーターさんは、がっくりとうなだれた。




