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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十二章 ようこそ、死の楽園へ
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ようこそ血の館へ

―遊園地 朝―

「ここが……遊園地!」


 朝であるにも関わらず、遊園地には沢山の人でごった返していた。どちらかといえば、子供や若い男女が多いように見えた。

 陽気な音楽が流れ、不気味な生物が子供達と一緒に写真を撮っている。全体的に色鮮やかで、楽しそうな場所だった。


「開園したばっかりだってのに、相変わらず多いなぁ。ま、色々アトラクションあるしな。さ、まずは……血の館からか?」


 トーマスさんは不敵な笑みを浮かべて、僕の隣で真っ青になっているピーターさんに話しかけた。


「えぇ!?」

「血の館?」

「フフフ、行ってみれば分かるよ。早速皆で行ってみようかねぇ」

「はい!」


 僕は、デボラさん達に促されるまま血の館という場所に向かった。向かう途中で、一回ピーターさんが姿をくらまそうとした。それが出来ないように、トーマスさんに羽交い絞めされながら進んでいたのが印象的だった。


 しばらく歩き続けると、陽気で明るい場所に不釣合いな建物が現れた。昔ながらの洋館で、手入れされていないのではないかと思うくらいに汚れてツタが絡まっている。

 しかし、その建物の前にはありえないくらいの行列が出来ていて、皆入れるのを今か今かと待ちわびるような表情であった。


「おぉ、これが最近リニューアルしたっていう血の館か!」


 トーマスさんは、彼を羽交い絞めしたまま目を輝かせた。


「げほっ! 私は絶対に嫌です……絶対に! こんな所の密室なんて!」


 窒息しかけ、大人しくなっていたピーターさんが再び暴れ始めた。夜中に除霊を行った人とは同一人物に思えなくて、つい笑ってしまった。


「ほらほら、いい歳して暴れてるからタミが馬鹿にしてんぞぉ」

「え!? いや、僕はそんなつもりは……」

「酷いですよ……タミさん……」

「いや、だから僕は――」

「折角来たんだから、アトラクションはしっかりと楽しまねぇとな。行列に並ばなくても優先的に遊べる高ぇチケット買ったからな!」

「え!? 凄い、これに並ばなくてもいいなんて!」


 この待っていたら数時間経っても血の館に入れなさそうな行列を、全て無視して優先的に入れるチケットがあるなんて。一体どれくらいお金がかかったのだろう。時間を無駄にせずに済むなんて、かなりの価値がある。


「だろぉ? さ、行くぞ!」

「楽しみだねぇ。このアトラクションは一人か二人じゃないと駄目だからねぇ。タミとピーターでペア作って一緒に行きな。ピーターが一人じゃ、私が不安だよ」

「ハハハ……分かりました」


 僕達は行列の隣を通って、血の館の前にまで来た。豪華な扉の前には薄汚れたメイド服の髪で顔のほとんどを覆い隠した、口しか見えない不気味な女性が立っていた。トーマスさんがチケットを見せると、彼女は不敵に微笑んだ。


「四名様ですね……二人ずつに分かれて頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」


 体調でも悪いのかと思うくらいのテンションで、彼女はそう問いかけた。


「おう、俺とこいつが後から入るからよ。この中年と青年を先に入れてやってくれ」


 どうやら、僕とピーターさんが先に入ることになるようだ。先でも後でも結果として変わらないだろうが、少しドキドキする。名前と雰囲気から考えるに、かなり不気味な場所だからだ。


「かしこまりました。魔法の使用は禁止されておりますので、ご注意下さい。あら、ちょうど館が貴方達を迎える準備が出来たようでございます。どうか生きて……帰って来て下さいね? ウフフフ……」


 すると、どっしりと構えていた館の扉が音を立てながらゆっくりと開いた。


(真っ暗だ……)


 中は、僅かな光しかないようで不気味な暗さであった。中からは鳥肌が立つくらいの冷気を感じて、思わず立ちすくんでしまったが、意を決して僕は一歩踏み出した。


(力を使えばもっと明るく……いや、楽しむ場所でそんなことをするのは良くないな。きっと、これも含めて楽しむべき雰囲気なんだろう)


「ほ~ら、お前も行くんだよっ!」

「はい……」


 死にそうな声で、ピーターさんが僕の隣に立った。決心が出来たというより、色々諦めたという感じた。生気を感じない。そんなにも嫌なのだろうか、確かに雰囲気は怖いが。


「じゃ、じゃあ行きましょうか、ピーターさん」

「あぁ、タミさん……すぐに分かりますよ。ここの恐ろしさが……」


 そう吐き捨てるように言うと、彼はフラフラと中に入って行った。怖いのに先に入るとは思わず、僕は慌ててその後を追った。


「お気をつけて……」


 その女性の声の後、扉が閉まる音が聞こえた。すると、中はほとんど真っ暗になってしっかりと確認しなければ歩けないような状態になった。


「タミさん、ここから先は貴方が先頭に立って頂けませんか。お願いします……」

「は、はぁ。分かりました」


 先に入ることは出来たのに、先に進むことは出来ないらしい。別に構わないが、ここまで人が変わってしまった彼と行くのは少々困惑する。そうなるくらいの恐怖が待ち構えているらしいが。


「とりあえず、真っ直ぐ進めばいいんですかね?」

「はい、そうですよ……」


(ここは明るいけど、奥は真っ暗だな。大丈夫かな?)


「ハハハ……じゃあ、行きましょうか」


 僕は先頭に立ち、きしむ廊下を歩いて行った。僕らが進むと、それに合わせてブラケット照明が明かりを灯した。気配に反応して明かりがつくらしい。これなら、問題なく進めそうだ。


(ん……あれは?)


 少し歩くと、行き止まりが見えた。行き止まりの部分は明るく照らされ、まるでこれを見るようにと示されているようだった。そこに飾ってあったのは、額縁に入った高価そうな絵。黒いドレスに身を包んだ金髪の女性の肖像画が、独特な雰囲気を醸し出していた。

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