遊園地はどんな場所?
―レストラン 朝―
「――びっくりしたよ、大きな音がしたからねぇ。まぁ、タミが無事なら良かったよ」
「すみません……」
「ハハハ! もうすっかり元気だな」
「一番疲れていてもいいはずなのに……おかしいですね」
僕達は、テーブルを囲いながら朝食を食べていた。
「一体、上で何をしてたんですか? 凄い音でしたけど」
「聞かないで下さい……忘れて下さい」
右手が恥ずかしさを感じさせるように、ズキズキと痛んだ。
「ん゛ん゛……話は変わるが、タミ。マシューがすまなかった、苦しめてしまったな」
トーマスさんは咳払いをすると、真面目な表情で僕の目をじっと見て言った。
「いえ……彼の気持ちは痛いほど分かります。守りたいものが脅かされる怖さも、伝えたいけれど伝えられない悲しみも……どうしようもない憎しみも。彼が救われたのなら、それで良かったと思います」
「優しいねぇ、タミは。本当にありがとうね。ピーターもありがとう」
デボラさんは、ピーターさんに微笑みかけた。
「救える者を救いたい。命があろうがなかろうが、種族や性別が違おうが関係ない。それが私の信念ですから。当然のことをしたまでですよ」
しかし、隠し切れないくらい照れ臭そうな表情を彼は浮かべていた。
「そ・こ・でだ! じゃじゃ~ん!」
トーマスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべながら、机をバンと叩いた。
「うわっ!?」
皿に入っていたスープが零れかけるくらいの勢いであった。そして、トーマスさんが手をのけると、そこにはカラフルな四枚の紙があった。
「あんた、力加減ってもんを考えなさいよ……はぁ、で、それは何?」
「これは、遊園地のチケットだ」
「ゆ……うえんち?」
初めて聞く単語だった。聞き取ることは出来たものの、それが何であるかのイメージが出来なかった。
「まるで、初めて聞くかのようなリアクションですね。まさか、本当に初めて……とか?」
ピーターさんは、信じられないといった表情で僕を見た。
「はい……」
そんな知っていて当たり前の単語なのだろうか。知らないと、常識的に問題がある人物だと思われてしまうようなことになるのだろうか。
「あんたの国にはないのかい?」
「多分、ないと思います」
「そりゃ~驚いたな。じゃ、初遊園地行こうぜ! 最高に楽しいぜ、な! ピーター」
怪しげな笑みを浮かべてトーマスさんは、ピーターさんを見た。すると、見る見る内に彼の表情は真っ青になった。
「あの……四枚あるように見えるんですが……これは手違いか何かでしょうか。まさか、私を誘う気ではないですよね? まさか、ハハ……」
「あ? 当たり前だろ、遊園地に行く時はお前も一緒って決めてんだ。楽しいからなぁ~タミが元気になるかなぁと思って事前に買ってた奴だったが。ま、復活祝いってのもありだよな! 今日行くぞ! 異論は認めねぇ!」
トーマスさんは、まるで子供のように声を弾ませた。どうやら、僕の知らないそこはとても楽しい場所のようだ。
「えぇぇ……私も行くんですか~……どうしても?」
しかし、ピーターさんの表情を見ると、そうではないようにも感じた。
(一体、どっちが正解なんだ? 楽しい場所なのか? それとも……地獄のような場所なのか?)
抱いた対照的なイメージのどちらが正しいのか、僕は出発から到着までの間考え続けた。




