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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十一章 失われた思い出と新たな思い出
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羨望

―屋根 早朝―

 朝、僕は皆を起こさないようにこっそりと屋根に上がった。眠ったこともあってか、少しだけだが魔力は回復していた為、二階から屋根に行くまでの距離はそんなに辛くはなかった。


(この時間は静かだ……それに穏やかで、風がとても気持ちいい。それに、朝日が街並みを照らし始めて……こんな景色があるの、知らなかったな)


 どんなに眠くても疲れていても、一度目覚めてしまうと中々眠れない体質のせいで苦労することも多い。今日も、そうだった。皆はまだ眠っているし、どうすることも出来ないので回復状況を調べるついでに屋根に上がってみたのだ。

 すると、意外な発見を得られたという訳だ。


「ありがとう……小鳥。君のお陰で、あの二人に恩返しが出来た気がする……」


 いつの間にか閉じていたペンダントを開き、それに向かって呟いた。光に飲み込まれる間際、小鳥の声が聞こえた気がした。


(今は聞こえるのはオルゴールの優しい音色だけ……か)


 あれは、やはり僕が生み出した幻聴だったのだろう。でなければ、ありえない。平行世界から来た大人の小鳥は、魂ごと何もかも消滅してしまったのだから。


(もしも、何らかの形で小鳥の魂が残っていたとしたら……なんて、ありえないか)


 マシューさん達が、無事に再会出来たのは知っている。夢の中のような心地良さの中で、それを見た。光輝く空間で、三人はとまっていた時を本当に動かせた。

 それを見ていて、僕は羨ましいと思った。出来ないことを願ったり羨んだりしても、致し方ないことは分かっている。僕の会いたい人達は、もうとっくに成仏しているか消えているかのどちらかだから。


(大切な人がいなくなる……マシューさんが僕に対して胸騒ぎを覚えるのも、無理ないかもな)


 実の母上と婚約者、平行世界から来た専属使用人の小鳥を失い、未だに弟は生死を彷徨い続けている。そして、一番上の姉上は事実上死んだことになり、僕の傍から去った。


(もう失うのは沢山だ……)


 彼の警告は、ただの気のせいで済ましてはならないように思えた。僕はここから、一刻も早くここから去るべきだ。


(この国には、僕の家はないのかな? 今までは、多分ここにいなかった。どこかに僕のいるべき場所があるはずだ。誰にも迷惑がかからない場所……)


 必死に思い出そうとした。今なら思い出せるのではないかと思った。けれど、何も出てこなかった。考えても考えても、最近のことしか思い出せなかった。


「あ゛あ゛あ゛っ! もうっ!」


 不甲斐なさと自身への怒りを右手に乗せ、屋根に叩きつけた。すると、鈍い音がしたと同時に僕の手が屋根の向こう側に到達したのを感じた。


(あ……)


 恐る恐る見てみると、見事に僕の拳は屋根にぽっかりと小さな穴を作っていた。


「タミ~? もしかして、屋根にいるのか~い!?」


 すると、その音のせいで目覚めてしまったのか、デボラさんの呼ぶ声が聞こえた。


「……ヤバ、つい」


 夜中に一人で降りれなくなるという失態をかました男が、また屋根に上がっているというおかしさ。もう、僕は大丈夫なのだがそれを知らない人達から見れば、理解不能だろう。それに、本来上がってはいけない場所かもしれないし。

 とにかく、急いで無事を伝えなければ。そして、後で直さなければ。


「降ります! すみません!」


 僕は飛び降り、浮遊魔法を使って難なくマシューさんの部屋に戻った。

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