とにかくやたら恥ずかしい日
―屋根 夜中―
僕は、恥ずかしさで体が燃えるような気分に悶えていた。恥ずかし過ぎて、下にいるデボラさんを見れない。両手で顔を覆い隠して目を瞑り、間違えても見えないようにしていた。それでも、この気持ちだけは消えなかった。
(トーマスさんは一体何をしてるんだろう……嗚呼、こんな時まで誰かに頼ることを考えているなんて情けない! 恥ずかしい!)
自分で勝手に屋根に行っておきながら、降りれないと嘆く情けなさ。使える魔力を使い果たし、自分で解決することすら出来ない。また迷惑をかけてしまう。
(穴があったら入りたい!)
僕はいつだってこうだ。後になって自分の行為を悔やむ。どうしてその時に気付かないのか、気付けないのか。こんな自分が嫌だ。
「タミィィィ! 泣いているのかぁぁ!?」
下から、トーマスさんの声が聞こえた。どうやら、いつの間にか戻って来ていたらしい。
「泣いてないです!」
僕は、手の下でそう叫んだ。事実、泣いてはない。真っ赤になっているだけだ。この暗闇で下からでははっきり見えないだろうけれど、僕は真っ赤になっているのは感じるから嫌だ。
「じゃあ、なんで顔を隠してんだぁ!?」
(恥ずかし過ぎて、顔を見せれないなんて言えない……余計に恥ずかしい。もうこのまま、時がとまってしまえばいいのに!)
そう、思った時だった。
「ん?」
前方から、何かが近付いて来る気配を微かに感じた。指に隙間を開けて、恐る恐る覗いてみた。
(鳥……族?)
指の隙間から見えたのは、こちらに向かってくる翼の生えた人影だった。月明りを封じ込み逆光になっていたが、力を使えばはっきりと見えた。
茶髪の茶色い翼を持った眼鏡をかけた男性が、ぐんぐん迫っていた。彼はきっと、デボラさんの話に出ていたピーターさんだ。話とは違って、かなり堂々と飛んでいる。その中で、僕は自然と瞬きをした。
「っ!?」
すると、次に目を開けた時、彼がもう目の前にいた。そして、彼は僕の隣に降り立つとゆっくりと翼をおさめた。
「……反応が乙女ですね、タミさん?」
顔を覆い隠し座っている僕を、彼は僅かに神妙な面持ちで見た。その目は、僕より向こうを見ているような気がした。
「な……これは、たまたまです! というか……どうして、僕の名前を」
そう指摘されて、顔を覆い隠していた手を慌てて外した。
「誰が薬草を提供し、調合していたと思っているのでしょうか? 貴方の話はよく聞いていますよ、前々からね。う~ん……よく似ていますね。ただ、こちらの方が女々しいようです。さて、あまりここに長居はしたくないでしょう。私の手を握って下さい」
彼はそう言って、僕に右手を差し出してきた。ただ、その手を掴む気にはなれなかった。理由は簡単だ。女々しいと言われて、何だか素直な気持ちになれなかったのだ。
「ん? どうしましたか? 降りたくないのですか? あぁ……怒ってます?」
「怒ってないっ! 怒ってないです……」
「隠し切れてないですよ。はぁ……怒らせたのは謝罪します。でも、土下座したり長々と謝罪の言葉を連ねたりはしません。とにかく、今はトーマスさん達が心配していますから私の手を握って下さい」
「あ……す、すみません」
(またまたやってしまった……うぅ!)
彼の言葉のお陰で冷静になれた。恥ずかしかった気持ちが蘇って、熱が急上昇してきた気がする。
「ほら、急いで」
「はい……」
僕は恥ずかしさに耐えながら、差し出された手を取った。
「はぁ……」
彼は大きく息を吐くと、再び翼を生やして下に飛び降りた。風の切る音が耳元で聞こえる。下まで大した距離ではないので、すぐに地面に到達した。
「助かったぜ、ピーター。いや、先生」
「……それはどうも。それより、子供から目を離してはいけませんよ」
「僕は大人です……」
僕は彼の手を離し、腕を組んでそう訴えた。なるべく冷静に。
「ガハハハ! そーだな!」
「気を付けるんだよ、タミ」
二人は冗談っぽく笑った。トーマスさん達は何も気にしていないようだが、僕はかなり恥ずかしかった。今日は、恥ずかしい日なのかもしれない。
「ん~なんか心配したら腹減ったなぁ。おかわりすっか~」
「はぁ~……適当に理由つけて、食べたいだけだろう……呆れるね」
デボラさんは呆れ交じりに、トーマスさんは満面の笑みでレストランの中に入ろうと歩き出そうとした。だが、それをピーターさんが制止した。
「待って下さい。まだ、私にはやらなくてはいけないことがあります。彼……タミさんに憑いているマシュー君を救ってあげなくてはなりません。お二人にも協力して頂かないと……困ります」




