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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十一章 失われた思い出と新たな思い出
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満月の魅力

―レストラン二階 夜中―

 月明かりしか差さない真っ暗な部屋で、僕は目を覚ましベットから降りた。昼よりも、体はかなり重い。包丁を隠す為に、継続して魔法を使い続けていることに原因がありそうだ。


(二人は……まだ起きてるよね。この時間は。深夜一時は、二人にとってはまだ起きている時間だから)


 不思議なものである、知らないはずのことを知っているのは。昔のことを、心のどこかで覚えているだけなのだろうか。だとすれば、他の場所にいけば同じようなことが起こるのだろうか。

 それとも全く違う他に原因があるのか、何かモヤモヤする気持ちだ。


(こんな時間に毎日晩御飯なんて……いい加減、体に悪いからやめて欲しいよ)


 部屋に聞こえてくる僅かな話し声と物音、それを聞くと無性に悲しい気持ちになってきた。


「なんだ……この感情は。何かを懐かしみ悲しむような……うぅ!」


 ズキリ、と頭が痛んだ。あまりここで立ち尽くしていてはいけない。やるべきことを、さっさとやらなければ。僕は重い体を引きずりながら、窓に近付いた。窓からは大きくて丸い立派な満月が見えた。


「同ジ……」


 悲しそうな低い声が耳元で聞こえたと同時、勝手に僕の体は動いた。


「え?」


 僕の右手は窓を開けた。ここから、飛び降りなり何なり出来そうな空間が出来た。人一人くらいなら、全然座ることが出来るだろう。

 しかし、僕の体は以前のように座ることはしなかった。そこから一切の迷いもなく、飛び降りたのだ。


「うわっ!?」


 僕は咄嗟に魔法を使い、宙に浮いた。


「なんで……うぅ……」


 今の体では、どれだけ魔力があろうとも浮遊の魔法を使うのは厳しかった。左右に移動することは出来ない、とりあえず上に浮き上がるのだけで精一杯だった。


「うぅあぁ!」


 しかし、そろそろ限界が来ていた。二つの魔法を使うのは、どれだけ健康でも体に堪えるのだ。でも、何かが上へ上へ誘い、屋根に行くように促しているように感じたのだ。

 僕は今回もそれに従って、何とか屋根に落ちるように着陸した。


「はぁ……はぁ……」


 屋根にしっかりと腰を下ろし、足をぶらーんとさせてみた。足は地面につかない、地面は遥か下にあるのだから。


「綺麗な月だ……」


 幻想的な月、それを邪魔するものは何もない。月には、何かを惹きつける力があるような気がする。


(これを……マシューさんも見たのかな?)


 デボラさんの話では、彼が自ら命経ったのは満月の出ていた日だと聞いた。もしも、彼がこれを見ていたのなら……何を思いながら死んだのだろう。


(あぁ……月を見てたら、何だかどうでも良くなってきた。頭がボーッとする)


 僕は、魔法で隠していた包丁を取り出した。包丁の刃が、月明かりに照らされ輝いている。それを見ていると、ますます何かに引き込まれた。


「アハ……ハハ……」


 包丁の刃を自身の胸に向けて、そのまま心臓を狙って――。

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