代償は重いのか、軽いのか
―レストラン二階 朝―
デボラさんは数分後に、温かいスープを持って戻って来た。お腹は空いていなかったが、食べなければ申し訳ないのでしっかりと味わって食べた。その様子を微笑みながら見られていたのが、かなり恥ずかしかった。
そして、食べ終わりデボラさんが去って僕は部屋に再び一人になった。恐ろしく退屈だ。加えて、体も重くてだるいし、奇妙な寒さも感じる。
(もう一度寝ようかな……寝れないけど、目を瞑るだけでもだいぶ違うかな)
僕はベットに寝転がり、大の字になって目を瞑った。どうせ、眠れないと思っていたのだが、この時は何か違った。グルグルと回されながら、意識の底に落とされていくような気分に陥って――。
***
―? ?―
「――ここにナイフがあるよ」
聞き覚えのある声だ。
「さぁ、どうする? マシュー君は、偽物の親の為に自分を殺す? それとも、自分の為に偽物の親を殺す? どっちでもいいよ」
ぼんやりとした視界が、やがてはっきりと見えてきた。僕は宙に浮いて、下を見ていた。そこで分かった、これは夢だと。
「殺したく……ないです」
(あれは……!?)
床で倒れている黒髪の男性と、それを椅子に座って優雅にワインを飲みながら眺めている白髪の男性。一人は見たことはないが、もう一人は知っている。僕から記憶を奪う原因を作った張本人だ。
「はぁ? 何もしないで願い事が叶うとか思ってたの? 残念! 駄目です! そもそも、君は下っ端もいい所なんだよ? 本来、願い事なんて叶えて貰える立場にはないんだよ。幹部になればいいけど。その為には、強くならないと。ま、無理かな。愛情たっぷり注がれて生きてきたマシュー君には、さ。だから、特別な提案をしてあげたって言うのに……出来ないとか言っちゃうの?」
様子だけでも明らかだが、話していることも穏やかではなかった。
(まさか、これは……)
「俺はただ……本当の父の行方を知りたくて……」
マシューさんは震えていた。よく見てみると、その体は痣だらけだった。内出血を至る所で起こしていた。
「あの二人を殺さずにそれを知りたかったら、強くならないと駄目だよ。本来だったら、役職につくレベルの活躍が出来る人にしか、そういうことはしてあげないの。全員の片っ端から叶えるの無理でしょ。かと言って、中途半端に叶えたりすると不公平だとか言われるでしょ? そんなリスクを背負ってやってんだからさ――君も背負えよ、リスク」
白髪の男性は脅すような口調でそう言うと、ワインを持って立ち上がり、倒れたままのマシューさんの前に立った。
「まぁ、確かに生まれ持った才能って言うの? そういうのがないと、正直言ってキツイのもある。自分は結構優しいから……君に特別な力をあげよう」
そう言うと、彼はワインをマシューさんの頭にかけた。そして、ワインで汚れていくマシューさんの顎を持ち、顔を上げさせた。
「ち……か、ら?」
「そ、その上で君に選択する権利をあげる。時間はた~っぷりあるからね、久しぶりに実家に帰って家族との時間を過ごしながら考えなよ。君が知りたいことの代償は重いのか、軽いのか……をね」




