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僕はそんなに鈍くない

―街 夕方―

「――哀れな人生。自分の為にその人生を使えないなんて……被るな」


 目の前で心地良さそうに眠る赤髪の少女。彼女は、僕を監視していた人物で間違いないだろう。身を隠して追跡していたつもりなのだろうけれど、僕はそんなに鈍くない。こういった方面においては。

 しかも、こっそりつきまとう身でありながら、僕の働くレストランに二度も顔を出している。それがきっかけで、僕にバレてしまった訳だ。僕が舐めれらているのか、彼女が馬鹿なのか……前者だったら殺意を覚える。


「大人しく眠っていて欲しかったよ。どうしようかな、この子」


 流石にこの人気のない陰気な路地裏に、少女を眠らせたままで置いておくのは危険だろう。面倒なことをしたくないから、わざわざ睡眠薬を使ったのに。この睡眠薬の効きが遅いのだろうか。

 元々自分の為に購入したものだったが、学校が始まった今は疲れ過ぎてすぐに眠れる。こんなものは必要ないくらいだ。しかし、ここに来てばかりの頃はベットが変わり過ぎて中々眠れず、この薬に頼ったものだ。


(僕の家は流石に……彼女の仲間がうようよいる訳だし。というか、本当に僕をつけ回していたのは彼女だけだったのか? こんなことになっても、他の者は姿すら見せないし気配も匂いも感じない。こんな未熟な少女だけに……)


 あまり悩んでいる時間もない。この少女を比較的安全で、ここから近い場所へと連れて行かなくてはならない。僕はその場所を見つけ出す為、少女を抱えて飛び上がった。魔法を使えば、それなりの高さから辺りを見渡せる。


「んー……」


 まず見えるのは、この辺り一帯の複雑に入り組んだ迷路のような場所。僕も最初はかなり迷った。まぁ、このように飛び上がれば何となく分かる。ただ、それを普段しないのは高い場所があまり好きではないからだ。


「人通りが多い場所なら構わないだろうか? いや、むしろ危険か? う~ん……」


 続いて目をやったのは、少し離れた先にはる住宅が多く並ぶ場所。もしかしたら、あの辺りに彼女の家があるかもしれない。が、そこを特定するのはかなり困難だ。そして、面倒だ。


「あ」


 次に僕の目にとまったのは、木々が生い茂る林だった。ここからそう離れた距離ではないし、木々が生い茂っているあそこなら何かを隠すのに最適であるように思えた。


「よし」


 僕は彼女を抱え、一目散に林へと向かった。こうやって空を飛ぶと、何故か注目を浴びてしまうから加速して進む。


(高い速い……あまり意識しないようにしよう)


 まだ自身のやっていることなら意識しない程度で誤魔化すことが出来るが、他人に連れられて飛行するのはどう足掻いても耐えられない。あと、空飛ぶ馬車は大丈夫だが箒は無理だ。物によって、恐怖度数が変化する。


(着いた)


 恐怖に耐えながら、速度を上げて飛行したお陰かすぐに林へと到着した。ここは人工的に作られた場所。緑が都会にもあるように、そんな所だろう。だが、人はここにわざわざ入ろうとはしないみたいだ。


「地面に置いておくのは流石にあれだな……木の上にしよう」


 僕は少し高度を下げて、林の中に入る。入ってすぐの木だと危険な気がするから、三本目の木に彼女を置いた。


「落ちるかな……」


 今の彼女に力はない。ただ寝ているだけなのだから、当然だ。少しでも体を動かせば、彼女は落ちる。やはり、地面に置いて木に寄りかかるように置くのが正しいだろうか。


「う~ん……まぁいいか」


 落ちたら、彼女の運がなかったということにしよう。それに、彼女のことを気遣う理由など僕にはない。ここまでやっているのだから、僕を褒めて欲しいものだ。それに、少々木の高さはあるが、これで死ぬことはないはずだ。下は芝生であるし。


(ま、これで死んだら運が悪かったってことでいいや。鬱陶しいし)


 監視される気分は最悪だ。それがこっそりと減るなら、こっちとしては儲け物だ。


「さて、行くか」


 変わらずぐっすりと眠る少女を確認した後、僕は地面に着地した。やはり、地に足が着くというのは安心出来る。僕は、魔法を使う者として失格なのかもしれない。

 僕の目指す場所は――。

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