この部屋の謎
―レストラン二階 朝―
「っと、ちょっと軽く飯作るか。しばらく見ねぇ間に、お前かなり不健康に痩せたみたいだしな。俺が、うめー飯作ってやる。ちょっと、ここで待ってろ」
と、男性は僕の反応を見ることなく部屋から去っていった。
(行ってしまった……)
部屋には僕一人。声を出すことも、立ち上がることも出来ない。こんな状況で魔法を使う意味も分からないし、気力もない。そんな僕に出来るのは、部屋の様子を眺めることだけだった。
そして、少し眺めてみると、あることに気が付いた。
(この部屋……誰か使ってるのかな? 生活感を感じる。あの男性か女性のどちらかが使ってるのか? いや、でも匂いは……そのどちらとも違う。それに、部屋全体の匂いがちょっと薄い)
このベットに染みついた匂い、それはここの住人である二人のどちらでもなかった。ありとあらゆることを奪われる中、この異常な嗅覚だけはしっかりとしている。
(じゃあ、一体この部屋は誰の物? 勝手に使ってもいいのかな? お風呂に入った訳でもない僕が、勝手に人のベットに座ってもいいのかな? 赤の他人に使われたなんて知ったら、怒るんじゃないのかな。でも、匂いは部屋全体では薄い。ずっと使っているのなら、それはおかしい。だけど、このベットだけは濃い……シーツに染みついてるのか? 洗っていないのか?)
部屋に入った時は何とも思っていなかったのに、一度気になってしまっただけでそのことで頭がいっぱいだ。僕なんかが考えても仕方のないことだ。頭では理解していても、自分ではとめられない。
(しばらく使っていないけど、長い期間誰かが使っていた? この部屋が生活感で溢れているのも……)
生活感が妙に溢れている部屋だった。机の上は瓶に生けられた薄紫色の花もあって綺麗にされているが、その周りは散らかっていた。筆記用具や紙や本が落ちているというよりは、落とされていると言った方が正しいように思える。それは、まるで机の上が作業をする場なのに散らかっていたから、サクッと片付けたと言わんばかりだ。
(どうして机の上だけ、綺麗なんだろう? 机の端に花も飾ってあるし……どういう基準で片付けたりしてるんだろう)
次に僕が気になったのは、机の上にある花だ。花弁は釣り鐘に似ていた。そして、その花弁は光を求めるように上を向いている。花弁の端から中央に向かうにつれて、色が白に近付いていく。そして、その花弁の中央には目立つ黄色いものがあった。
そういえば、そこから蜜を出すと聞いた記憶がある……姉上から。花については、僕の興味の範囲にないのであまり分からないが、見慣れないけれど綺麗な花であると感じることは出来た。
(水もあるから、造花ではないみたいだし……誰かが手入れをしていることは間違いないみたいだ。だけど、この部屋の人はしばらく部屋を使っていないから、手入れをしていない。だとすれば、あの二人のどちらかが花だけを手入れしているということになる)
部屋は何もせず、あえて花だけ――。そんなことを、あえてするのは何故か。僕はしばらく考えた末、一つの可能性に気付いた。
(まさかこの部屋の人は……死んで……?)
「……うぉ~し、飯持って来てやったぞ~。まずはスープだ」
「っ!?」
夢中になって考えていた僕は、突然の大声に驚いてしまった。どれくらいの間、僕は考えていたのだろうか。男性が料理を持って、もう部屋に現れた。
「どうした? ぼーっとしてたみたいだが。ま、いいか、冷めちまう。ほれ、うめ~ぞ? 食え!」
そして、男性は僕にスープの入った皿を差し出した。




