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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
十章 悪魔の囁き
133/768

筋書き通り

―? ?―

(いらない……)


 頭の中で、言われたことだけが駆け巡る。


(僕は……)


 終わらない地獄の中で、痛覚は麻痺し何も感じなくなっていた。


(何の為に?)


 考えてみろ――その言葉が呪いのように頭の中にこびりついて離れないし、僕も離したくない。これ以外のことを考える気力はとうにないし、そもそも他に、考えるべきことが見つからない。それに、その言葉を離してしまったら、僕は僕でなくなってしまう気がして怖かった。


(僕がいなくたって、何も変わらない)


 考えれば考えるほど、僕の必要性が見えなくなってくる。まるで、仲間外れになってしまった気分だ。でも、その原因は自分にあるから仲間外れにするこの世界を恨むことが出来ない。


(どうせ同じ孤独なら、何も見えない孤独の方がマシだ。もう痛みなんて感じないし)


 この狭い部屋が、今の僕の世界。生き地獄そのものだが、外に出れば広過ぎてその全貌を見通すことの出来ない地獄が待っている。沢山の人がいて、その人達は存在意義を持って行動をしている。僕には――ないのに。

 外に出たとしても、待っているのは劣等感から来る孤独だけ。僕がいなくても、この世界が国が動くならそれでいい気がする。


(分かってた。とっくに……)


 僕は不必要な存在。王としての務めすら、まともに果たせない。憧れだけでは、夢だけでは――理想の王にはなれなかった。延命された命の無駄遣い、悔しくてみっともなくて腹が立つ。


(この状況こそ、今の僕に相応しい)


 もう、疲れた。自分の身の丈に合わないことをやり続けるのは。消化不十分なこともあった気がするが、どうせこんな僕にはすっきりさせることは出来ない。無意味で無意義、いない方がマシなくらいの僕には何も――。


「ア……?」


 突然、部屋に鳴り響いていた歌がとまった。すると、キーンという耳鳴りと共に体を酷い倦怠感が襲った。数分前だったか、昨日だったか、一週間前だったか同じようなことがあった。しかし、その時と違うのは音が消えても、あの人の声が聞こえてこないということだ。


(なんだ……?)


「巽君っ!」


 少しして、部屋の扉が蹴破るように開けられた。床に寝転がり、ただずっと同じ方向を見ていた僕には足元しか見えなかった。


(女……の子?)


 入って来た人物の顔を見る為、ゆっくりと視線を上に向けていった。


「しっかりして!」


 しかし、僕の視線が顔に到達する前にその子はそこから動いてしまった。走ってこちらに近付き、僕の目の前で腰を落とした。視線を上に向けていたままの僕は、そこでようやく彼女の顔を見れた。


「キ……ハ……」

「無理して声出さなくていいから! とにかく時間がないの! 色々やらないといけないことがあるから!」


(赤い髪……どこかで……)


 喉まで出かかった名前。でも、それは出てこない。目の前にいる少女が誰だったのか、思い出せない。初めてではない、それは分かる。向こうも僕の名前を知っていて親しげだ。なのに、僕は思い出せない。


「どうせ、魔法も使えないでしょ。だから、これあげる。使い捨て持ち運び型テレポート」


 少女は儚い笑みを浮かべて、ポケットから丸い青色の球体を取り出した。


「高いのに……はぁ、こんなことに使うことになるとは。高い割には、そこまでの距離を移動出来る訳じゃない。だから、この国から出してあげることは出来ない。でも、この国で巽君が安心できる場所……そこに飛ばしてあげるから!」


 すると、それを彼女は僕の上に向かって投げた。その瞬間――淡い青い光がその球体から放たれた。


「っ!?」


 体が空気のように軽くなってしまったような感覚と、爽やかな空気に触れた気持ち良さを感じながら、とてつもない眠気を感じると共に謎の安心感に包まれ、僕は目を閉じた。

***

―ボス 街 朝―

「……お前が来るのを待ってたよ」


 自分が仕事の休憩時間に外の空気を楽しんでいると、ふわりと上からガスマスクをつけたエトワールが現れた。人の気のない場所、内緒話をするのに最適な所。わざわざ、ここを選んだのには理由がある。


「はい……」


 エトワールは黒い翼をしまい、自分の目の前に跪く。


「お前が――パーパが来るということは、自分の読み通りに事が動いたという訳だ。フフ……いいねぇ」

「務めは果たしました。それで、トゥッリスは……」


(傷付いているようだね、エトワール。顔を隠していても……分かるよ、自分には)


「アレにはまだ役目がある。でも、ここまで来たってことは……アレより下の存在はもういらないなぁ。まずは、そっちを片付けて」

「殺すのですか」


 エトワールは動揺した様子で、顔を上げる。


「ん? 珍しいね、お前がそこまで取り乱すとは。やれやれ……何、タダで殺せとは言ってないよ。折角役職ついて、これまで頑張って貰ったんだ。理由もない死は可哀想だ。だから、意義のある死を与えてあげてくれ。出来るね? 五番目のパーパ君」

「承知……致しました」

「十七番目と十八番目をあの監視部屋につけておけばいい。まぁ、無意味だけど。十九番目には、何か事態が動いた時にどう足掻いてもどうにもならないことになるように、何かお前が考えておいて。自分、忙しいからさ!」


 自分の組織には、タロットカードになぞらえて二十一の役職がある。でも、残念ながら二十一番目は実質空席だ。二十番目はいることにはいるが、自由人過ぎてどこにいるのかすらも分からない。まぁ、自分が一方的にあげた役職だから仕方がないけど。なので、自分以外、二十番目の役職についている人物の存在を知っている者はいない。

 よって、今、組織に必要ないのは十七番目と十八番目と十九番目。エトワールがどうやってくれるかが、楽しみで――仕方がない。


「さあ……どうなるかな?」


 目の前の彼に聞こえないように、小さな声で言った。

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