表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
十章 悪魔の囁き
130/768

素直になれない

―クロエ ? 夕方―

 翌日、学校が終わり何事もないように帰って来ると、玄関入ってすぐの所にガスマスク男ことエトワールが待ち構えていた。


「帰って来たか」

「……ただいま」


 壁にもたれかかって、まるで遅刻した恋人を待っているかのようだった。あくまでこれは物の例えであって、お互いにそういう想いは一切ない。


「もう調べたんだ」

「命の危険もなければ、情報を隠すほど怯えている人物でもない。まぁ、事前に与えられた情報が少な過ぎて半日かかってしまったが。今日、お前の周りにいる奴の様子を見て誰かはすぐに分かった」


 彼は壁に頼るのをやめ、ゆっくりと私の方に歩く。そして、立ち止まると淡々とした口調で話し始めた。


「あの女の名は、クリスティーナ=ミースター。魔術工学第一人者ハリー=ミースターの子孫。一族のほとんどが魔術工学に携わっていて、彼らも功績を修めている。調べた所、財産も腐るほどあるようだ。まさに、華麗なる一族と言った所か……ふん、俺らとは真逆の世界だな」

「へぇ……」


 彼女の名前は、クリスティーナ=ミースターと言うらしい。結構、可愛らしい名前だ。名前と見た目のギャップは少々ある、それはどうでもいいか。


(本当なのか、そうか)


「ただ……クリスティーナ=ミースター、奴はこの華麗なる一族の中で異端と言える存在だ。先ほど、一族のほとんどが魔術工学に携わっていると言ったな? 全員ではない……一族の中で唯一魔術工学の研究やらをしていないが、奴だ。どうやらシステム介入型魔術というものを独自に研究、開発しているようだ。そのせいか、あまり一族には馴染めていないらしい」

「苦労してるんだ、あぁ見えて」


 レストランで、やんわりとそういう話を聞いた覚えがある。馴染めていないとなると、家族の輪に入れて貰えていないということなのだろうか。それとも、入れてはいるけれど浮いているのだろうか。


「同情するか?」

「別に。特別悲惨な人生を歩んでいる訳でもないし」

「そうか……一応、情報はこれくらいだ。無償でやってやったんだ、不満はないよな?」

「ないわ、ありがとう」


 これ以上、話すことは何もない。私が必要だったのは、クリスティーナの言っていたことへの確証。それを得られた。私は、次の行動に移さなくてはならない。


(今日は流石に無理。明日、彼女に直接聞くしかないわね。その間に出来ることをやろう。いつ実行して、どのように行動するかを考えた方がいいかな。ボスのスケジュール表が堂々と飾ってあって良かった。普段は気にしたことないけど、まさか役に立つ時が来るなんて、ね)


 私は彼に背を向けて、広間に飾ってるスケジュール表を見に行こうと足を一歩踏み出した時だった。


「……待て」


 突然、呼びとめられた。予期せぬことで内心驚いたが、それを悟られないように顔は向けず、彼の呼びかけに応えた。


「何?」

「クリスティーナ=ミースターと友好関係を築きたいのか?」

「は? 違う。鬱陶しいから、何なのかなって思っただけ。第一、人間と友達になるとかありえないから。これ以上は、私のプライバシーの領域よ。もう関係ないでしょ」


 昔から、彼は面倒臭い所がある。お節介というか、気にし過ぎというか。組織の五番目で、いくつかの部隊を持つリーダー的立場だから無理もないのかもしれないが。


「すまない……その通りだな。忘れてくれ」


 そして、私とは反対方向に足音が消えていった。


「どいつもこいつも……ウザいのよ」


 余計なことを言われてしまったせいで、頭の中にそれが刻まれたように残っている。これから、難しいことを考えなくてはならないのに。彼女を利用しなくてはならないのに。


「あぁ! もうムカつく!」


 私は近くの壁を思いっ切り蹴った後、自室に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ