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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
十章 悪魔の囁き
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弱った心を抉ろう

―? ?―

 嗚呼、振り返れば……僕はいつも脆いものにすがってきた。気付かない間に、すがっていた。そして、いつも騙される。その度に後悔して、次こそはと気持ちを持っても無意味になる。僕が、馬鹿で無力なばかりに。

 今回は、この国で僕のサポートをしてくれる側の人に騙されていた。この人単体が僕を騙しているのか、それとも全体が僕を騙しているのか。考えれば考えるほど、疑心の沼に堕ちる。


「巽君って結構、真っ直ぐだよね。目に見えるものしか、見れていない。見えないものは、何も見えてない。ちょっとややこしいかな? 見えるもの、それは形や色があるものさ。自分達が使ったり、遊んだり出来る。見えないものは、心とか言葉とか……魔力とかもそうだね。それらは、他の物に頼ることで姿を見せたりすることが出来たりするけど、本体はそれを見せることが出来ない。直接的か間接的か……巽君は間接的に表現されるものが苦手だ。だから、少し濁されると駄目になる。そう、例えば嘘とか」


 嘘……その言葉に、僕の体は勝手にピクッと動いた。


「可哀想に、心のない世界があったとしたら巽君は幸せになれたかも。あ、だとしたら幸せという感情を感じることは出来ないから、この仮定は間違ってるか」


(心のない世界? そんなものがあったら……皆、美月みたいになっていたりするのかな。だとしたら、かなり恐ろしいな。その感情どころか、きっと欲望もないんだろう。欲望がなければ、人は何もしない。何も必要がないから。その世界だったら、ずっと原始的な生活をしているかもしれないな。そんな世界に、嘘なんて必要ないだろうな。誰も騙されず、誰も傷付かない)


「残念ながら、この世界は嘘まみれ。生まれながらにして、嘘にまみれている者もいる。そして、嘘っていうのは、どう足掻いても嘘でしかない。そんな世界に生きるからには、嘘を見抜く力がなければならない。巽君には、それがない。すぐに騙され、弄ぶことが出来る。そんなので、権力者が務まるの? そんなので、国を守れる訳? 無理でしょ、いずれ滅びてしまうね。巽君が、大切で愛おしい国を……あぁ、想像するだけでいいね」


 彼が発する言葉は、ことごとく僕の心の傷を抉った。さらに、抉ったその傷に塩を塗り込んでくる。泣いてはいけない、そう言い聞かせても自然と涙が溢れてくる。そして、その光景は向こうからもしっかりと見えていたらしい。


「泣いちゃった。泣かせるつもりなんてなかったんだけどなぁ……こんなにメンタルの弱い王様は初めてだよ! かなり心配だなぁ、よく今まで王様出来てたね。よほど周りが優秀だったか、従順な民だったんだろうねぇ。恵まれた環境過ぎるよぉ……アハハ! ハハハハハハハ!」


 泣こうと思って泣いていない。勝手に涙が溢れて、言うことを聞かない。


(悲しくない辛くない悔しくない憎くない怒ってない! 泣いちゃ駄目だ!)


「ッハ~! ねぇ、そろそろ時間だから……自分行かないといけないんだけど。最後に質問するね? 答えなくていいよ。心の中で色々考えて欲しいだけだから」


 込み上げてくる笑いを堪えるように、彼はそう言った。僕を滑稽だと、嘲笑っているのが伝わってくる。


「ねぇ……わざわざ巽君が王様やる意味ってある?」

「っ!?」

「こーんなによっわーい人が王様やってていいの?」


 それは、最近僕が悩んでいたこと。僕の代わりとして、ゴンザレスがいる。特に支障もない。だからこそ悩んでいた。

 本当に、僕は必要な存在なのか――。


「ふふふっ、決断をしないとね。国や国民の利益を考えるのなら。あ、でもーそもそもその決断力も巽君にあるのかな? 冷酷さもなさそうだしね。王は寛容で、いざと言う時は冷酷でなくてはならない。冷酷な決断を巽君は下せるのかな? 必要な判断を冷静に出来るのかな? それが出来なければ――本当に巽君はいらない存在になってしまうよ、アハハハハハハハ!」


(いらない……僕は……不必要……冷静に冷酷に判断を……王として……?)


 そして、その声が消えた瞬間、またあの不快な音楽が流れ始めた。それは、ぐちゃぐちゃになった思考をさらに掻き混ぜて僕の心を壊していった。

***

―ボス ? ?―

 全てのスイッチを再び押して、最初の状況に戻す。モニターで巽君が苦しんでいるのがよく見える。


(全部計画通り。クロエも、耐え切れなくて飛び出して行ってくれたようだしね)


 永い時を生きた自分には分かる。誰が何をどう考えて、どう行動するのかも。だから、このように思い描いた通りになると感じるのは僅かな達成感とかなりの虚無感だ。

 所詮、この世界は茶番でしかないのだ。しかし、これを乗り越えた先に達成感に満たされた結末が待っている。自分は、ただそれを求めて――この茶番に身を投じようと考えている。

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