僕の信じていたものは
―? ?―
「巽君ってさぁ……どうして、自分がこんな所で捕まってるのかってちゃんと考えたことある?」
どんなことを言われるのかと思いや、突然これだ。僕の精神を、さらに弱らせるつもりだろうか。
(勝手に連れて来られただけだ……僕にどうすることも出来なかった……)
心の中で逃げるようにその答えは出せても、口に出して答えられなかった。もう、喉は今の気力では声を出せなかった。あの人もそれを理解している。それなのにあえて問いかけて、僕をむずがゆい思いをするように仕向けているのだ。
「まさか、どうすることも出来なかったとか思ってる? いいやいいや、そうじゃない。あの時、巽君は負けたんだ。咄嗟に行動に移すことが出来ず、魔法に抵抗することも出来ず……ただ無力に負けたんだよ。もし、巽君が抗うことが出来ていたのなら……きっと、違う未来もあったはずなのにさ。それって、どうなの?」
(あんな状況で……疲れ果ていたのに……いや、言う通りだ。一国の王として、ただ疲れていたという言い訳は通用しない。王に休息の暇などない。疲れなど気にしている暇もない。なのに、僕は……分かっていたというに、力がなくなって……いざという時に魔力を使うことが出来なかった)
彼の言葉に、僕の逃げ場は閉ざされる。そして、後悔が心を埋め尽くしていく。もう少しちゃんと計画を練って行動していたら、僕はこうならなかったはずなのに。中途半端なまま、アリアを救えたという確証も持てぬまま自由を奪われて。それもこれも、全て僕が愚かなせいだ。
「まぁ、巽君が無力だったお陰でこちらの願いは叶った訳さ。だけどもまぁ、がっかり……期待外れ? 壊滅的なくらいに力が使いこなせてもいないし。勿体ないなぁ。まぁ、そんな巽君にはこの状況がお似合いさ。ず~っとず~っと、ここにいればいい。その小さな世界に生きるのは巽君だけだから。劣等感も、恥ずかしさも……何もないよ。ただ、苦しいだけ。それ以外には何もない。無力な巽君の為だけにあるような、そんな小さな世界だね」
(僕は……無力。だから、ここに……)
「そんなので王様やってたなんて、面白過ぎて片腹痛いね」
「っ!?」
(今……王様って。どうして、それをピアノの人が知っているんだ!?)
聞き間違いではない、絶対に。間違いなく、彼は僕を王様と呼んだ。
「どうしたの? 目を見開いて……あぁ、別に答えなくてもいいよ。黙ってろって言ったのこっちだしね。何となく分かるから、代弁してあげよう。どうして、自分がそれを知っているのか? でしょ」
(名前だけでなく……僕の身分を知っているのは、本当に限られた人達だけだ。あの白髪のピアノの人が知ってる訳ない。でも、知っている。この人は一体、何者なんだ? 僕を守る人達じゃないのか? それなのに、こんな……僕は何を信じればいいんだ!?)
この国では僕の正体を知っている人達は皆、僕を守ってくれる存在だと認識していたというのに。僕をこんな目に遭わせている人が、その存在だったなんて。
僕が信じていたものは、すがっていたものは一体何だったのだろう。




