これは、反逆のモノガタリ
―クロエ ? 夜中―
(もし、あの子から聞いたことが実行出来たとしたら……)
ある場所にある自室のベットに寝転がりながら、私はレストランで聞いた彼女の話を思い出していた。
(巽君を出してあげられるかもしれない……けど)
彼女の正体をちゃんと調べた訳ではない。彼女の話を鵜呑みにしただけだ。特別学科にいる以上、何かしらの力があることに変わりはないが、本当に彼女がシステム介入型魔術という分野を開拓しているのかどうかは定かではない。本当に彼女の先祖が、魔術工学の第一人者なのかも。
だから、調べなくてはならない。彼女に偽りはないのか、ということを。
(結局、名前分かんないままだったし……)
気持ちばかりが先行して、大事なことを後回しにしてしまった。
(私一人で調べるのは……キツいなぁ。プロじゃないし)
やろうと思えば出来るかもしれないが、慣れないことをするのは時間がかかる。それでは、遠回りになってしまう。遠回りをするほど、今の私には余裕がない。
(あいつに頼むのはありかなぁ……でも、同じ組織の人間に頼むのは論外かな?)
「うーん……」
思わず、ベットの上で唸ってしまう。
(でも、あいつなら多分すぐやってのけるよね。どんなに厳重に守られていても、三日以内には必ず。一方の私がやると、何日かかることやら……もー! どうしよ!)
本当は、自分で全てやるべきだ、それくらい分かっている。だが、無駄に時間がかかってしまうのが目に見えている。
すぐに解決する方法があるというのに、それが分かっているのにあえてやらないというのが苦しい。
(こんなことで悩んでる間にも、巽君は苦しんでる……)
急いで決めなければ。しかし、そう思えば思うほど葛藤の渦にはまっていく。
(私には巽君を守る責務があった。だけど、今はない)
今の私は、何にも縛られず自由に活動が出来る存在だ。遊ぼうと思えばいくらでも遊べるし、学ぼうと思えばいくらでも学べる。
(仕事は仕事……そう思っていたのに)
今の私は、それを手放そうとしている。仕事ではないのに、巽君を守ろうとしている。
それが、私の思い。あの映像を見た時に、それが生まれた。ところが、この思いは反逆行為に値する。
(あんな映像見せられなければ……)
彼女が言っていたことが全て本当だったとしても、いずれはバレてしまうことだ。それをやったのが私だと見抜かれれば、もう私に救いも希望もない。
(巽君を助けるという行為、私には何の利益もない)
仮に助けたとしても、それから先の巽君の安全は何も保証出来ない。私も見抜かれてしまうまでの間は、嘘でも巽君を狙わなければならない。私だったら、どうせ負けるのでどうにでもなるだろう。
しかし、私よりもっと上の優れた存在達だったら、彼を捕らえてしまうかもしれない。さらに、地獄を見せてしまうかもしれない。
(それでも、私は巽君をあそこから出してあげたい。無条件で苦しめられる、どう足掻いても助かる道がない場所に比べたら……実力さえ出せれば、どうにかなる可能性のある外に)
巽君は知るべきだ。自分がどれだけ必要とされ、恐れられ、愛されているのかを。それが、どれだけ自身を蝕んでいるかを。
(だから、私は巽君を――守る。あの苦しみから)
これは、赦されない反逆のモノガタリ。身勝手な決意から、ゆっくりと壊れていく偽の家族のモノガタリ。




