高級肉を食べながら
―クロエ レストラン 夜―
「うーん! 美味しっ!」
ナイフとフォークを器用に使いこなして、彼女はようやく運ばれて来た高級ステーキを食し始めた。両頬を手で押さえて、目を輝かせる。
「幸せそうに食べるわね」
料理を注文して、運ばれてくるまでおよそ一時間。システム介入型魔術について、ある程度話を聞いてからの注文だったとはいえ、この店は本当にヤバイ。混み始めでも、こんなに時間がかかってしまうとは。私のお腹はもうペコペコだ。
(食べながら、また詳しく話を聞くか……)
私も、ナイフとフォークを使って肉を一口大に切る。そして、それを口に向かい入れた。
「うぅん!」
口に入れた瞬間、肉の味と脂が弾けるように広がっていく。肉は、塩コショウでちょうどいい辛さに味付けをされている。出来立てということもあって、まだ少し熱い。だが、それがいい。それが、よりいっそう料理の味を引き立たせている。
(やっぱりプロが作る料理は違うなぁ……)
私が、真似事で作る物とは訳が違う。味付けも料理の見せ方も、こちらが食欲をそそられる物だ。本当に料理を愛している人なのだと思う。
「肉が口の中でとろけるよぉ~。私の家の料理人に迎えたいくらい!」
(家に料理人……相当な金持ちね。本当、よっぽどご先祖様が凄かったのね)
普段から彼女が食べている物が高級で、レベルが高い食事を提供されているのだとしたら、この発言はかなりの誉め言葉なのではないだろうか。
ここを経営している老夫婦が聞いたら、きっと喜んでくれるだろう。優しそう……いや、実際優しい人達だ。巽君の散々なやらかしを受け入れ、許してくれていたのだから。
「料理人って……専属の?」
「うん、私の家の料理人さ~味付けがめっちゃ薄いの。素材の味しかしないくらい。なんか、そういうこだわりがあるみたいで。素材の味絶対人間って言うの? 頑固だし、色々押し付けてくるからさ~こういう料理を作ってる人が私の家の料理も作ってくれたらいいのにな~」
彼女は口をモグモグさせながら、不満げに言った。
「素材の味そのまんまって……あんたの味覚がおかしいとかじゃないんだ?」
「違う違う! 絶対違うから。パパが薄味絶対主義でさ~それに巻き込まれてんの、全員。解雇も出来ないし……悩みの種だよね。だから、私は何かと理由をつけて外食しまくってるんだ~」
「ふぅ~ん」
(あまり、この話をし続けるのもあれね。そろそろ、本題に移らせて貰おうかな)
「ねぇ、話変わるけどシステム介入型魔術について詳しく教えてくれないかな。もしかしたら……研究に力を貸してあげられるかもしれない。いいことに使ってあげられるような……だから、聞かせて」
「へぇ?」
彼女は、突然話が切り替わったことに驚いたような表情になった。が、すぐに満面の笑みを浮かべて、こちらに迫るように身を乗り出した。
「おぉぉ……! マジ!? 一緒にご飯行ってくれるだけでなく、まさか研究のお手伝いまでしてくれるなんて! しかも、システム介入型魔術のいい使い道まで用意してくれるなんて! ありがたいよ! うん、じゃあ喜んで話させて貰うね! まず~システム介入型魔術の構造について説明しようと思うんだけど――」




