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使命か思いか

―クロエ レストラン 夕方―

 この子は嫌な奴というより、ただの馬鹿なのだろう。場所が場所だったら、彼女は悪い意味での注目の的になっていた。本当に、騒がしい場所で良かった。


「私が、特別学科に入れたのも基本そのお陰だしね!」

「……それ、そんなに自慢げに言うようなことじゃないからね」


 私達の通うタレンタム・マギア大学には、いくつかの学科がある。一番生徒の多い総合学科、巽君が入っているのはここだ。続いて生徒が多いのは魔術学科、魔術大国である所以だろう。それらと比べて生徒の数は圧倒的に減る魔法学科、少し癖の強い人が多いという印象だ。

 そして、私達の所属する特別学科……文字通り特別な事情で入学した人や特別な人が入る。最近、巽君にまとわりついているリアムという男も、同じ科だ。


「いや~私自身そんなに魔法とか得意じゃなくてさ。唯一出来るのは、システム介入型魔術なんだよね。それ以外は、まるで駄目っていうか。行き場をなくしてた所に、手を差し伸べてくれたのがこの学校よ……コネって大事ね」


(はっきり言ったわね。まぁ、そういう科だしね)


「システム……介入型? 何それ」

「うん、私が生み出したんだ。まだ、途中だけど。出来るのは、映像のねつ造とかかな。悲しいけど、私の才能というか、特技はこれしかないみたいで~。これ以外出来なさ過ぎるから、どこの大学のレベルにも達さなくて」


 彼女は笑っているが、目は悲しそうだった。その目からは、今まで彼女が経験してきた辛さが伝わってくる。

 そんな彼女はいつも……私の見てきた限りでは、大体追試に引っかかっていた。まさに、赤点の女王だ。勉強出来ない子なんだろうな、どうして進学したんだろうと思っていた。

 だが、今の彼女の言葉で大体が分かった。


(なるほど……学校のテストでは測れない方に才能がある訳か)


 残念ながら、その才能を生かせる分野はほとんど未開拓。何故なら、彼女が切り開いている最中だから。


(ただの七光り野郎じゃない訳か。むしろ、自分で居場所を作ろうとしている。使えるものは使って)


「大抵、新たに物を作る人はその世界にあるレベルでは測れないと思うよ。あんたは、その分野の先駆者になる。第一人者って言った方がいい? あんたのご先祖様みたいに。とにかく、今はその為の通過点だって思えばいいんじゃない? 結果を出せばいいの」

「アハハ! も~やめてよ、泣きそうになっちゃう!」


 彼女は困ったように笑いながら、目に涙を浮かべた。大したことを言ったつもりはない、それでも彼女に刺さった。


「泣かないでよ、私が泣かせたみたいになりそうだから。あ、そうだ。さっき聞いたことで気になってたことがあるから、第一人者様にお伺いしたいんだけど~」


 しんみりとした空気は嫌いだ。そんなに仲良くないのに、困る。


「うん!? 何かな!」


 彼女は、僅かに浮かんだ涙を拭った。


「映像のねつ造って何に使うの?」

「あー……それ聞いちゃう? まぁ、いいことにはあまり使えないかもね。やり方によると思うけどさ……そのやり方が思いつかないんだよねぇ」

「どのレベルでねつ造出来るの?」

「う~? まぁ、違和感のない程度……かなぁ? くらい。だって、まだ開発途中だし。というか、イメージ出来る?」

「ちょっと難しいかな」


 今、私にはある考えがある。それは、あのモニター室から見れる巽君の映像をねつ造するというものだ。どうして、それを考えてしまうのかは分からない。そんなことを考えてしまうこと自体、ボスや組織に対する反逆だ。

 だけど、巽君をあのままにしておくことは出来ない。目の前にいる彼女とのこの瞬間が、まるで奇跡のようなプレゼントのように感じられる。

 今、私が優先すべきなのは――使命か、それとも思いか。

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