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ファミリア

―クロエ 学校 夕方―

 あれから、数日が過ぎた。巽君以外の変化はどこにもない。どこにでもある当たり前の日常、ただそれが繰り返されていく。明日も、明後日も。


「クロエー、珍しいじゃん。今日、最後までいるんだ」

「まぁね」

「いつも学校サボって何やってんの?」

「いや、サボってないから。色々あるのよ、色々と」


 私もまた、その当たり前の日常を過ごす一人。クラスメイトと、何気ない会話をする。この見た目と巽君スケジュールのせいで、定期的に不良だといじられる。これはウィッグだ、真っ黒な地毛を隠す為の。

 この見た目によって、クラスメイトだけでなく街の人々にもそう思われているようで、ちょっと見ただけで怯えられてしまう。不良だと思い込まれているのだ。中身はこんなにも、優しい乙女なのに。


「色々って何さ~。毎日毎日サボってるのに、テストの点数はいつもトップだし……天才系不良少女か! 流石、飛び級は違う!」

「天才系はいいけど、不良は消してね」

「それだったら、天才系少女になるじゃん」

「だから、それを求めてるの」

「その称号は、クロエに相応しくない。よって、却下」

「あんたに却下する権利も、与える権利もないと思うんだけど? やれやれ……」


 隣の席の、名前も知らない誰か。私は覚えてないけど、向こうは覚えてくれている。私を友達だと思ってくれているのだろうか。それとも、ただいじりがいのある面白い奴だから勝手に記憶に残っているだけなのだろうか。

 何にせよ、人間の友達なんていらない。どうせ私の正体を知れば、誰もそこからいなくなってしまうだろうから。


「ね、クロエ! 今日、暇? 暇だから、ここにいるんだよね? そうだよね、そうだよね!?」


 金髪の彼女は、私に詰め寄りながらそう問いかける。


「お……?」

「よし!」


 彼女は勢い良く立ち上がり、手をポンと打つ。そして、嬉しそうに口を開いて言った。


「一緒に、晩ご飯食べよう!」

「は?」

「もう授業ないでしょ!」


 授業はない、ただそんなに深い関係でもない人とご飯を食べに行って何になるのか。気まずいだけだ。


「……用事あるし」


 だから、私はそう言って誤魔化そうとした。しかし――。


「用事って何?」


 本当に用事があれば、すぐに答えられる返事だ。しかし、巽君がああなってしまっている今、私はただの暇人だ。


「……えっと、その、何だろうね? あはは……はは」




 そして、私が上手いこと嘘をつくことが出来ず、渋々連れて来られた場所は、巽君のアルバイト先であるレストラン『ファミリア』――思わず、立ちすくんでしまった。と、同時に頭の中に巽君の絶叫が響く。実際に聞いた訳ではないのに、想像として幻聴として響いてくる。


「ここ……で食べるの? 本当に?」

「食べる食べる、超食べる! この辺にしては、マジで美味しいし! いや~クロエと一回ご飯を食べに行ってみたかったんだよね。珍しく、今日いたし! チャンスだと思ったの! ね、入ろう! まだ、混雑するちょっと前だから」


 尻込みする私を、彼女は引きずるようにしてその店へ連れ込んだ。

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