ピアノの人
―? ?―
ふと、自然に目が覚めた。目覚めたそこは、知らない場所だった。うっそうと生い茂っていた木々の匂いも、草の感覚もない。
「うぅ……っ!?」
僕は、どこかの建物の部屋の一室にいるようだ。しかも、床である。
「おはよう!」
「ぎゃあっ!?」
死角から、突然声をかけられた。寝起きということもあって、まだ感覚器官がしっかりと働いていない僕には不意打ちだった。
彼は困惑の表情を浮かべて、ゆっくりと僕の前まで歩いて来て見下ろす。
「そんなに驚かなくても……朝の挨拶をしただけなのに。自分、繊細な心だから結構傷付くよ?」
「え……あ、すみません。えっと、もしかして、貴方は……」
「あらら? 気付いちゃった? や~やっぱり、このオーラは隠し切れないよねぇ」
そう言うと、彼は真っ白な髪を掻き上げた。今気付いたのだが、彼は全体的に透き通るように白い。テレビに映っていた時は全身がそんなに出ていなかったのと、テレビ画面が小さく遠かったのもあって分からなかったのだ。
「ピアノの人ですよね」
「ズコッ!」
彼はわざとらしく、倒れるような仕草をした。
「ピアノの人……まぁ、そうだけど。それ以外の情報はないの?」
「え? えぇと……」
ピアノの人という印象しかない。それ以外に何があるのか分からない。
「まぁ、いいけどね。別に。巽君が無事なら」
「どうして、僕の名を……!」
「いいねぇ。次から次へと起こり過ぎて、事態の収拾がついてないって感じの顔」
彼は、困る僕の顔を見て楽しんでいるように見えた。
「まぁ、詳しいことはいいじゃないか。うん、後でゆっくり丁寧に嫌ってほど教えてあげるから。どうせ、しばらく巽君はここにいる訳だし」
「……は?」
今、しばらく僕がここにいると彼は言っただろうか。聞き間違いかもしれない。目覚めたばかりだから。
「あれ? 聞き取れなかった? 巽君は、しばらくここにいるんだよ。やれやれ、放し飼いにしてても良かったんだけどさ。巽君、すぐ魔力を消費してしまうからね。我慢の限界だよ。もう少し自分を大切にして貰わないと。それが出来るようになるまで、巽君はここね」
「ふ――」
僕が反論しようと、そして、ここから抜け出そうと立ち上がろうとした時だった。
「ふざけるな、僕はやることがある。かな? 言いたいことは。そのやることが、自分にとって超困るからさ。その考えを改めて貰おうと思って……ま、急にそんなことを言われても飲み込めないよね。だから、飲み込めるようになるまで、巽君を追い込もうと思って。巽君次第では、すぐに逃げ出せるよ。さて、まずは気分をリラックスさせる為に音楽でも聴こうか」
彼は何かを企むような笑みを残して、その場から突然姿を消した。
(瞬間移動!?)
僕が混乱していると、どこからか陽気な音楽が鳴り始めた。しかし、その音楽は僕を楽しい気分にさせるものではなかった。




