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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
八章 偽りの真実
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脅迫

―上空 夕方―

 少ししたら、涙も落ち着いた。じっとしていたら、また涙が出てしまう。だから、僕は覚悟を持って外へ出た。ようやく、始めることが出来る。罪を着ることが出来る。


(やるんだ……僕が)


 この位置では、少し空気が薄い。地面より、雲の方が近いように感じる。ここに来るまでの間に姿を見られてしまうのもまずいと思ったし、瞬間移動を使うのも魔力の消費が激しくなると思った。だから、僕は少し息苦しいのを我慢して空を飛んでここまで来た。


(見ている……でも、もう干渉はしてこないようだな)


 もう誰にも邪魔はされない。僕は、僕が決めたことを遂行する。


(覚悟は決めた。全てはアリアの為だ)


 僕は自身の胸に一度手を当てて、息を吸い込んだ。そして、そのまま一気に地上へと急降下した。風を切る音が耳に入る。まるで、風にでもなったかのようだ。


(大丈夫。僕自身は誰にも見られない)


 あっという間に、街を見下ろせる位置まで辿り着いた。買い物をする主婦、値下げを叫ぶ店主、世間話をする人々、楽しそうに駆け回る子供。沢山の人々の表情や仕草がしっかりと見える。僕から見えるということは、向こうからも見えるということだ。

 そして、その内の誰かが天を見上げた時、幕は上がる。


「お母さん~、お空に変な人がいるよぉ~!」


 僕の劇の開幕を知らせたのは、元気に駆け回っていた幼い少女だった。僕の方を指差して、不思議そうに近くで世間話をしていた母親達に声をかけた。

 すると、その声で気付いた者達が続々とその少女の指の先を見て、驚きの表情を浮かべる。


「え? 何あれ」

「おいおい……今度はなんだ?」

「悪戯じゃないの?」


 街の人々の視線が、大体僕に集まったのが感じられる。困惑、恐怖、疑問……次のシーンに繋げるにはちょうどいい。


「悪戯などではございません……」


 僕はゴンザレスのように声を低く、そして、その声を響かせる為に教えて貰った方法で街の人々に声を届ける。


「このような穏やかで美しい黄昏の時分に、皆様に脅迫をしなくてはならないということ……悲しく思います。が……致し方ありません。あの文章を、信じて頂けなかったようですので」


 懐から紙飛行機を取り出して、風の魔法を使い、少女の所まで吹き飛ばした。紙飛行機を受け取ってくれた少女は、どうすればいいのかと首を傾げる。


「開いてご覧なさい。そうすれば、何故私がここにいるのかが分かるはずです。貴方には、まだ分からないでしょうが。周りの大人達なら分かるでしょう」


 そう言うと、少女の手から男性が紙飛行機をひったくって、乱暴に開いた。


「これは……前にばら撒かれた変な文章じゃねぇか!」

「でも、これは悪戯だって……」

「はぁ~……悪戯ではないと、申し上げたばかりではありませんか。警察の方々に無視されてしまいましたので、その手紙に従って警告をしに来た次第でございます。流石の彼らも、二度目の失敗はしないと信じております。ですが、私が何もしなければ……また彼らは失敗を重ねてしまうのでしょう。凡人ですからね。ですから、私は救済として、貴方達を脅迫します」


 冗談でも悪戯もでないということを証明しなければ、全て嘘として流されてしまう。ならば――。


(僕は……本気だ)


 僕は、少女から手紙をひったくった男性の足に向かって、素早くナイフを投げた。真っ直ぐな軌道であっという間に、彼の太ももへと到達した。突然のことで反応出来なかった彼は、叫びながらその場に崩れ落ちた。鮮血が周囲に飛び散って、瞬く間に血だまりが出来る。


(っ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!)


 湧き上がってくる感情を抑え込み、僕は民衆達に叫んだ。


「愚民の皆様方……お分かりいただけますよね!? 今回は死なない程度に……あ、死ぬかもしれませんが、次は誰かを確実に仕留めます。私の正義に反するのなら……秩序を乱すのなら……老若男女問わず、正義の鉄槌を下しましょう! それでは皆様、お元気で」


 僕は手を前に上にあげ、前に持って行きながらお辞儀をした。そして、残りの魔力を使って家まで瞬間移動をし、その場から逃亡した。

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