アイデアを求めて
―自室 昼―
アーナ先生に、一体どんな風に僕は見られているのか。しかも、傷付くこと前提。気になり過ぎて、帰り道の記憶が一切ない。
(こういう性格直さないとなぁ……いい加減)
「はぁ……」
正直、気力はまるでない。保健室に立ち寄らなければ良かった。いや、でもそうなるとあの危険状態のリアムを放置してしまうことになる。こうなることは、多分変えられなかった。これは一つの試練、そう考えることにした。
(試しにつけてみるか)
前、購入した変装用の物を袋から出した。紫色のカツラに般若の面に、侍の服装。あまり一体感のある物ではない。趣味が悪い……それしか言えない。
(まずは、侍の服を着よう)
懐かしさを感じさせる和服だ。ただ、少し色あせている。でも、元々そういうデザインなのではないかと思う。あえて、そうしてあるように感じる。浪人が着流しするような……そんな感じだ。
洋服を脱いで、藍色の着物に腕を通す。少しひんやりとしていて、気持ちいい。ひさしぶりに帯をしめて、付属品の刀を携える。
「次は……」
あまり直視したくない般若の面が目に入った。僕はそれを手に取って、顔に近付ける。一気に視界が暗くなり、息苦しくなる。こもった感じでむせ返る。この状態で、聞き取りやすいように声を発することは出来るだろうか。
「あーあー」
試しに声を出して、どんな状態になるのかを確認する。やはり、普通の声では面の中で響いて終わってしまう。
「あーーーー! あーーーー!」
空気を沢山吸い込んで、息を吐く勢いに任せて声を発する。こうすれば外に声が出て行く感じがしたが、長い言葉を発するとなると、かなりしんどいものがある。何か、工夫をしなければならない。
(マイクみたいな物があればいいけど……流石にまた買い物に行くのはなぁ。魔法でどうにか応用出来ないか……)
面の紐を耳にかけて、しっかりと顔につける。その上で色々と考えてみたのだが……。
(ちっとも思い浮かばない~!)
今までの人生の中で学んできた魔法には、声を響かせることが出来るようになるものはなかった。こうなると、真面目に勉強に取り組んでこなかったツケかもしれない。多分、こういうのはリアムとか……ゴンザレスが得意かもしれない。
僕にはないものを沢山持っているし、学習意欲が凄い。二人ならきっと――。
「あ、そうだ。ゴンザレスに聞いてみるか」
僕は、部屋に置いていた電話の受話器を手に取った。その瞬間、僕は思い出した。電話の線を切ったことを。力のままに乱雑に。だから、普通であればこの電話から音がするなどあり得ないはずだ。
なのに、それを耳に持って行くと、ツーと無機質な音が聞こえた。いつの間に直っていたのか。
(クロエ……? でなければ、直す人なんていないしな。いつ直っていたんだ? 最近か? しばらくずっとかかってこなかったし……あぁ、でもあんなことを言ったんだ。かける気力もなくすよね、普通。僕みたいな奴に電話をかけてくれてただけ、凄いありがたい話だよ)
あの日、あの瞬間、自分が傷付いていたという理由だけで美月を傷付けた。あの頃から、僕は何も成長していない。何も変われていない。同じ過ちを繰り返し続けている。
(自分の都合のいい時だけ求めて……申し訳ないな。結局、僕は誰かに頼るしか生きていけないんだ)
そして、僕は城に電話をかけた。




