粋な計らい
―学校 昼―
「――と言う訳で、リアムをよろしくお願いします」
しばらく時間を置いてみたが、リアムの調子は相変わらずのままだった。むしろ、悪化の一途を辿って行った。だから、僕はリアムを保健室に連れて来た。彼の手を無理矢理引っ張って、何とかここまで来れた。
「はぁい。あらあら、目が虚ろですねぇ~。しかも、何か意味不明なことを呟いて不気味ですねぇ~」
アーナ先生は自身の頬に片手を添えて、柔らかな笑みを浮かべた。言っていることは、ちっとも柔らかくないのだが。
「さっきから、ずっとこの調子なんです。もう少し前までは、何言ってるかは聞き取れたんですけど……ついに分からなくなって。どうすればいいのか分からないので、アーナ先生にお願いしようと」
「別にいいですよぉ、暇なので。それに、ここに来るのは厄介な人だけですからねぇ。それが今更一人増えた所で、何も問題ないですからぁ」
(厄介な人しか来ない……ジェシー教授……他の人は体調とか崩さないのかな? それとも、アーナ先生基準ではこの保健室に来る人は皆厄介とか……? それは、保健室の先生としてどうなんだ?)
「そ、そうですか……」
「あ、そう言えばぁ」
アーナ先生は何か思い出したように、手をポンと打った。
「どうしましたか?」
「今日~刑事さんが来たんですよぉ。ほらぁ、あのうちの学生が起こしたっていう事件のことでぇ。残念ながら、私は彼女のことを知らないのでぇ、期待に沿えなかったみたいですけどぉ。でも、何故かそれで君のことを聞かれたので、素直に答えましたぁ」
「僕のことを?」
あの二人が、アーナ先生にまで聴取をしているとは思わなかった。彼女は先生なので、アリアのことを知っているかもしれないと踏んだのだろう。
「はい~、唯一接点がある人物だからってことでぇ。私は、てっきり君も疑われていると思ったのですがぁ。面白くないですよねぇ~」
「……それで? 何を聞かれたんですか?」
余計な追及はしないでおこうと思った。彼女もまた、ドラマチックな展開を望む主義なのだろうか。ドラマとか小説とかであれば、そういう展開は大事だろう。だが、僕はそれを望まない。今この状況で、それは最悪過ぎるのだ。それを避ける為に、僕は自らの命を削ったのだから。
「えぇと、君がどういう人間か……ってことを聞かれましたよぉ。そんなの、一回しか会ったことないのに知る訳ないじゃないですかぁ。こっちが教えて欲しいくらいですよぉ」
「じゃあ、何も答えていないってことですか?」
「いいえ~ちゃんとお答えしましたよぉ」
「なんて答えたんですか?」
僕がそう尋ねると、アーナ先生は表情を崩さずに答えた。何となく嫌な予感がする。
「傷付くから聞かない方がいいと思うんですぅ。うん」
「え?」
僕的な嫌な予感は的中した。ならば、傷付くことだと言わず適当にはぐらかして欲しかった。今、僕は凄い傷付いた。何を言ったのか、何を言われたのか……気になって怖い。
「うふふ! 彼のことは任せて下さいねぇ。じゃあ、午後からも頑張って下さいねぇ~」
アーナ先生の粋な計らいのせいで、頑張れそうにない……午後からの授業はないが。僕には、絶対にやらねばならないことがある。一刻も早く、アリアの疑いを晴らさねばならないのだ。




