絶望の先
―学校 昼―
「もーびっくりしたよ。急に飛び出したと思ったら、人にぶつかって。そしたら、今度はその人達について行って、結局授業に来ないんだもん。大丈夫かい? タミ。何してたの?」
教室で、ずっと僕を待っていたであろうリアムが机に伏せながら、顔をこちらに向けてそう問いかけてきた。
「ちょっと……アリアのことで」
「あ、もしかして刑事さん? 凄いなぁ! ドラマみたいだ!」
リアムは勢いよく顔を上げて、目を輝かせる。
「う、うん……多分そう」
あの人達のお陰で、少し冷静になれる時間を貰えた。もし、あのまま飛び出して変装して街の人々に姿を晒していたら、何か良くない結果をもたらしたかもしれない。僕はいつもそうだ。衝動に任せて行動したばかりに、自分で自分の首を絞めてしまうのだ。
授業は、取り調べということで特別欠席という形を取って貰えたしラッキーだった。あの人達に救って貰えた。
「いいな~タミばっかりずるいよ! 君ばかり、ドラマチックな体験をする! あ~ぁ、俺もそんな体験したいなぁ」
リアムは頬を膨らませて、足をパタパタと動かす。
(僕は、別にこんな体験をしたくてしている訳じゃないんだけどなぁ)
「いいことなんて何もないよ……」
「えぇ!? そうかなぁ」
「普通が一番さ、何事もね。ドラマチックな出来事は、浮き沈みが激しいんだ。どうする? これから先に待っているのが、絶望だったら。リアムはそれに耐えられる?」
「……絶望? それってどれくらいの絶望?」
僕がそう問うと、リアムは神妙な面持ちになった。
「大切な人がいなくなるとか、体を病に蝕まれるとか、戦争が起こるとか……」
思いつく限りの絶望的な出来事を挙げてみた。それを絶望と感じるかは、人それぞれだからリアムに当てはまるかは分からない。
「大切な……人? 病……戦争……」
「リアム?」
次第に、リアムの様子がおかしくなっていくの感じた。目を見開いたまま硬直し、うわ言のように色々と呟き始める。
「マミィ……起きて……お願いだから……エリーと二人だけじゃ俺は……」
過呼吸気味に息を乱し、頭を抱えて苦しそうだ。
「家族四人で暮らせてたあの時に戻らなきゃ……幸せだったあの頃に帰らなきゃ……嫌だ、嫌だよこんな世界」
声をかけることすら出来ず、僕はただ何かに怯え何かに苦しむリアムをただ呆然と見守るしかなかった。
「戦争のせいだ……戦争さえなければ、ダディは生きて帰って来れたんだ。そうしたら、マミィだってずっと幸せだったんだ。エリーも俺も……それだけで良かったのに……このままだと、エリーも死んじゃうよ。うぅぅぅあぁぁぁっっ!」
教室に、僕ら以外誰もいなかったのが幸いだった。僕が無意識に踏んでしまった地雷が、リアムこうさせてしまうなんて思いもよらなかった。時より、いや常に感じる狂気はこれに起因しているのだろうか。




