取り調べ
―学校 昼―
とある空き教室で、僕は警察の二人に取り調べという奴をされていた。警察という名前と何をする職業かくらいしか知らなかったので、少し緊張していた。
僕の国に警察という組織はない。その役割をする職は当然あるが、彼らとはかなり雰囲気が違う。
「――貴様が、この女と一緒にいるのを見たという目撃証言がいくつかある。間違いないな?」
女性は、アリアが映された写真を指差しながら言った。
「はい」
学生証か何かに載せる用の写真を撮った時の物だろうか、完全に真顔だ。彼女の場合、そちらの方が美しいが。
「あぁ〜……なんて美しいレディだろう。罪深き麗しい彼女、こんなにも弱々しく見せておきながら、なんと悍ましいんだ……だが、そこがいい」
「黙れ。さて、貴様にいくつか問いたいことがある。問題ないな?」
女性は腕を組み、高圧的に僕を見る。確認をしているが、そこに拒否権などないように感じられる。
きっと、彼らに嘘は通用しない。僕のつく嘘など、すぐに見透かされてしまうのは目に見えている。
「問題ありません」
「そうか、ではまず一つ目。貴様とこの女、一体どういう関係だ?」
「友達ですが……それが何か?」
「友達!? こんな美しいレディと、その程度の関係で満足して○▷□☆!?」
取り調べに一切協力していないアシュレイさんの口を、女性は手で塞いだ。アシュレイさんは、まだ何か言っているがこもっていて何を伝えたいのかは聞き取れない。
が、それを理解する必要はないのだろう。大したことではないのは、よく分かる。
「恋人ではないのか?」
「恋人? 何故?」
出会って少ししか経っていない僕らが、そんな深い関係になることはまずありえない。
(一体どこから……あ、もしかして)
授業終わりに、彼女に連れて行って貰ったカフェの男性店員がそんな感じのことを言ってからかってきたのを思い出した。まさか、あれは本当にそう思っていたから言ったことなのだろうか。
「そういう証言があってな。まぁ、住人の噂話程度のことでも我々は調べなくてはならない。なるほど、ただの友人か」
女性はそう言いながら、メモを取る為にアシュレイさんの口を塞いでいた手を外した。
「……ぶふぁっ! 酷いじゃないですか、先輩。窒息してしまうかと思いました」
「案ずるな、お前はその程度では死なん。厄介な奴ほど、長生きをするんだ。無駄にな」
女性はメモを取りながら、真面目な表情でそう答えた。そして、そのままの体勢で続ける。
「さて、次の質問だ。女に何か不審な点はあったか?」
「いや……特に。僕の見ている限りでは何もありませんでしたよ、普通でした」
「ほう、そうか」
「本当にそう? 巽は見る目がなさそうだからなぁ……」
「いいか、黙るという言葉の意味をちゃんと辞書を引いて調べてまとめろ。そして、それを紙に書いて提出しろ。つまり、黙れ」
(大変そうだなぁ……いつもこうなのかな?)
「よし、じゃあ最後の質問だ」
そう言うと、彼女は書く手をとめて僕を見つめる。先ほどまでの高圧的な様子は感じない。
「この事件、貴様は本当にこの女がやったと思うか?」
「え?」
「答えろ、これは個人的な質問だが重要だ」
「それは……」
友達として、そして真実を知る者としての回答はただ一つ。
「やっていないと思います」
僕は、彼女の目をしっかりと見てそう答えた。




