尋ね人
―学校 昼―
「ぎゃっ!」
「うおっ!」
しっかりと全体を見ずにドアから飛び出した僕は、温かい何かに衝突してその場に尻餅をついた。
「大丈夫かい、レディ……」
そして、すぐさま上の方から少し低い女性のような声が聞こえた。
「え?」
(レディ?)
僕が驚いて顔を上げると、グレーのスーツを着た人物はがっかりした表情を浮かべて差し出していた手を引っ込めた。
「なんだ……男か。ぶつかった時の声が麗しいレディのようだったから、勘違いしてしまったじゃないか。でもまぁ、しかし……レディのような美しい顔をしている。男でなければ、惚れていた所だ」
彼……いや、彼女? は、前髪を掻き上げて笑った。そして、そこで僕は気付いた。
「おや……私の髪に何かついているかい? 嫌だな……埃か?」
(髪が黒い……)
この国では、あまり見慣れない黒髪だ。肩までくらいの長さ、そして全体的にワイルドに荒ぶっている。これがオシャレなのだろう。こんなに堂々と黒髪を出して、オシャレをしている人など早々いない。根元を見る限り、これは間違いなく地毛だ。
生活する上で支障が出るからと、この国で黒髪を持つ人々は髪を染めている。僕も最初はそうすることを勧められた。だが、何故か髪が染まらず今に至る。この人も同じなのだろうか。
「取れたか?」
「え? いや……」
「ん? あぁ~もしかして、この黒髪が気になったのかな? でも、それは……巽も同じじゃないかな?」
「どうして、僕の……!?」
僕がそう問うと、中性的な人物は胸ポケットから四角形の黒い物を取り出した。そして、それを開いて僕に見せつける。それには、金色の何かの鳥の紋章が刻まれていた。
「ね、分かっただろう?」
と、誇らしげに言われても僕には分からなかった。初めて見る物だったからだ。何かの証であることだけは分かったが、それが何を示しているのかが想像すら出来なかったのだ。
「勝手な行動は慎め。アシュレイ」
すると、アシュレイと呼ばれた人物の奥から金髪の女性が現れた。スーツを着ているのに、いや着ているからかかなり大人っぽく色気のある人だと思った。
「あぁ、先輩。見つけましたよ、巽」
「どうして、彼は尻餅をついている?」
彼女は、僕を見て腕を組む。
「私にぶつかってこうなったんです。声で期待させておいて、実は私達の探していた男だったとは……まったくかっがりです」
「相変わらずだな、お前のそういう所が余計に皆から反感を買うのだぞ」
「……あの、貴方達は一体」
結局、この人達が何者なのか分からないままだ。空気を無視して、僕は勇気を出して話しかけた。
「アシュレイが見せている、それで分からないのか?」
再び、腕を組んだまま彼女は僕を見下す。
「すみません……分かりません」
「大体はこれを見せるだけで、身を引き締めることが多いんだけど。なるほど、巽にそれがなかったのは知らないからかぁ」
「我々は警察だ。アリア=アトウッドのことについて、少々貴様に尋ねたいことがある」




