門前払い
―学校 昼―
「……ってば、タミってば!」
リアムの声で、ふと現実に呼び戻される。
「あぁ……リアム」
月曜日の昼、三限目の歴史の授業終わり。もう、隣にリアムがいるのも慣れてきた。当然のように、僕の隣で授業を受けて誰よりも楽しそうである。
「どうしたの? ボーッとして」
不思議そうな表情を浮かべて、僕に問いかけた。
「色々と考えてて……どうかした?」
「駄目だよー授業はちゃんと聞かないと。ノート真っ白じゃないか。俺のを見せてあげるから、ちゃんと写してよ。もー」
リアムは呆れ混じりの笑みを浮かべて、しっかりと書かれたノートを僕に差し出した。ノートは丁寧にまとめられていて、僕にも分かりやすかった。先生の書いたことだけでなく、言ったことまであった。選択している授業以外にも、こんなに真面目に取り組むとは大したものだ。
「ありがとう……」
「なんか元気ないね?」
「別に……」
僕は、自分の気持ちを隠すのが苦手だ。見せようと思っていなくても、いつの間にか出てしまう。きっと、今の僕からは重い空気が出てしまっているのかもしれない。
「別にって。全然そういう風に見ないけどなぁ。あ! もしかして、あの変な怪奇文書のこと考えてた? だったら、そうなるのは納得かなぁ。そうか!」
「え? あ、あぁ……? ん?」
何を勝手に押し付けているのか。リアムの思考を、僕に当てはめるとこうなってしまうのか。
「あーなるほどね! そうそう、俺、これゲットしたんだ~。見て見て!」
もはや、リアムに僕の言葉など届きそうもなかった。もう、あの手紙のことを考えていたことにしておこう。そっちの方が、面倒なことが少ないかもしれない。
「これ……その怪奇文書って奴?」
リアムの手には、僕がばら撒いた手紙が握られていた。僕がばら撒いた手紙、それを怪奇文書とリアムは呼んでいるみたいだった。
「そうだよ! これ……すっごくいいよね! 見た瞬間、感動したよ! 警察の人達は、子供じみたくだらない悪戯で調べるまでもないって言ってたけど……本当にそうなのかなぁ? この文字から伝わってくるよ、ヴォール=アームドって人の思いが」
(子供じみた悪戯……くだらない?)
僕が必死に書いた文章は、捜査のプロにはそんな風に伝わってしまったのか……そう思うとただただ悲しい。見下して侮辱したのだから、色々言われることは分かっていた。
しかし、調べる前から門前払いのような感じでは、僕の努力は全て無意味ではないか。悪戯じゃない、くだらない訳がない。
(駄目だ……こんなんじゃ! 手紙に書いたのに! 一度目の失敗は赦すと! なのに、二度目……やっぱり、手紙だけじゃ効果はない。調べてすら貰えないなんて……駄目だ! こんなの!)
「え、ちょっと、これからまだ授業が……タミ!」
気がついたら、体が勝手に教室を飛び出していた。もう、やるしかないのだと体と心が焦ったからだろうか。それとも、認めさせたいだけなのか。これは、しっかりと考えられた意味のある行為だと。
次回の投稿は、月曜日になります。




