無意味な争い
―ボス ? 夜中―
「はー、二回も読んだら流石に飽きるな」
珍しく楽しいとか面白いとか思えた物でも、何度か繰り返すと飽きてしまう。そう考えると、巽君というコンテンツは最高だ。ずっと興味を持っていられる。こんなに心躍るのは、百年振りくらいか。忘れかけて、失いかけていた感情だ。彼に触れたことでも思い出した。
それによって、他のことにも少しだけそういった感情を向けられるようになった。
(さて……飽きたし、今度は――)
「……そこにいるのは分かってるよ。フレイ、フレイヤ」
床に寝転がりながら、自分は物陰に向かって話しかけた。ずっとクロエとの会話を盗み聞きしていたのは、分かっている。
「ちぇ~バレたか」
「あんたのせいよ!」
すると諦めたのか、物陰から黒髪でおかっぱ頭の小さな子供が二人現れた。どちらも不満げな顔をしている。
「いや、フレイヤのせいかな。気配がフレイより出てた」
「え~!?」
「ハハハ! バーカバーカ!」
フレイの方は一転、勝ち誇った表情でフレイヤを嘲笑った。フレイヤは、怒りを滲ませてフレイを睨み始める。
(いや、どっちも出てたけどね。これだから、クソガキは)
「フレイ。血の繋がった双子の兄妹なんだから、仲良くしないと。お兄ちゃんだろ」
「こんな弱々しい奴と、どーして俺が仲良くしないといけないの! 妹なら、妹らしくしとけっての」
「はぁ? そっくりそのまま返すから! ねぇ、ボス! どうやったら兄妹ってやめられるの? どうやったらお兄ちゃんって捨てられるの?」
フレイヤは、顔を真っ赤にしてこちらに訴えてくる。
「はぁ……」
この二人の喧嘩に、巻き込まれるこっちの身になって欲しい。この二人が物心を持ってから、ずっとこの有様だ。二歳くらいの時は、まだ仲良かったのに。ここ五年間は、二人は常に戦争状態である。
しかし、それでも、たまにではあるが二人は手を取り合うことがある。それは、何か悪だくみをする時か敵の敵は味方状態になった時だ。その奇跡にも等しい瞬間が、戦闘で起きた時に彼らは素晴らしい力を発揮する。まだ七歳でありながら、二番目のイザベラにも引けを取らない。
現状では、お互いが足を引っ張っていがみ合うので戦闘に出せる状態ではないが。
(十二番目のフレイ、十三番目のフレイヤ……二人の力の差は微々たる物だ。二人に欠けているのは、協調性と調和。それがあるだけで、恐ろしい力になるというのに。二人がそれに気付ける時は、この世界が終わるまでに来るのかな……)
「それ以上、自分の目の前で喧嘩するようだったら……ここ、追い出すからね」
「「えっ」」
そう言った瞬間、二人は今にも泣きそうな顔で硬直した。全く同じ顔だ。服装が同じだったら、どっちがどっちかか分からなかっただろう。
「嫌だよね? 怖い人間達ばかりの世界に二人ぼっちなんて」
「いやぁああああ!」
「うわぁあああん!」
二人が負った心の傷、それを弄ることでこの無意味な争いはいつも終結する。




