選んだ道は
―自室 夜中―
「う゛っ゛……」
家に戻って部屋に入り、やっと下準備が終わったのだと安心感を得た瞬間、全身を激しい痛みと倦怠感が襲った。その痛みは立てなくなるくらいのもので、僕はベットにもたれかかるようにして崩れ落ちた。
(魔力を使い過ぎた……か)
クロエが元に戻って来れないように強い風をずっと吹かせ続け、その中で街全体に呪術を使用した。こうなることくらいは分かっていたはずだ。
むしろ、今の今までこうなるまで僕の体は我慢していた方だ。本当だったら、とっくに死んでいてもおかしくない。この死ねない呪いがかけられた身でなければ。
「頭が……心臓がっ!」
まるで、頭を鈍器で殴られているようだ。まるで、心臓は縄で締めつけられているようだ。呼吸はままならないし、意識が遠退きそうになる。だが、つんざくような痛みでそれを防がれる。それが苦しい。
「誰かっ゛!」
誰もいない。いる訳ない。クロエはもう帰って来ない。知っている。僕が帰った時、既にクロエの部屋はもぬけの殻になっていた。当然の結果だ。そうなることは分かっていた。そうなるようにした。クロエが現れた、その瞬間に決めたことだ。
僕の近くにいれば傷付くだろう。苦しみも長く続くだろう。苦しめるつもりがなくても、苦しめたくなくても、僕は人を傷付ける。それを避ける為、僕は彼女を一度に沢山傷付けてこうなる道を望んだ。
「あ゛あ゛あ゛っ!」
叫ばなければ、正気を保っていられそうになかった。この広い、広過ぎる家に独り。これが、孤独以外に何があるか。しかし、その孤独には懐かしさあった。どこかで味わっただろうか。この孤独を。思い出せない。勘違いだろうか。それとも、あの日からある違和感と関係があるのだろうか。
「し゛……な゛……」
苦しくて痛い。これが、この体の限界を超えた力を使った代償だ。手の震えがとまらない。動悸が酷くて、部屋全体に響いているかのよう。
寿命を減らし、体内にある魔力を最大限解放し、呪術をかけた。今、僕に残っている魔力は僅かだ。生命を維持する上で必要な体内にある魔力が減少すると、人は長い将来生きていく上で必要な魔力を削るらしい。それは、結果的に死をもたらす。それを僕らの国では老衰と言うらしい。
普通であれば、老人になってから起こる自然の現象。これが若い間で起こると、不治の病として恐れられる。医術の発達が遅れている僕の国では、もうさじを投げるしかない。
(これを……もう一度味わうことになる……ハハ)
結局、その日は眠ることは出来なかった。この苦しみは、朝日が昇って鳥達が歌い出すまで続いた。




