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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
七章 この罪は私のもの
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きっと、ボスに

―クロエ 上空 夜中―

 自由に体を動かすことも、翼を動かすことも出来ぬまま、強風によって空を飛ばされていた。この辺で、こんなに強い風が吹くことはない。もう少し上なら、あり得るが。この位置で、この風を起こすと陸の方にも影響が出そうである。


「クッ……クソッ!」


 情けない……空を支配し、空を自由に駆ける鳥族でありながら、風に吹き飛ばされて抗うことも出来ないなど。誇り高き優秀な翼を持つカラスでありながら、力負けしてしまうなど。


(私の姿すら見ずに……!)


 私だって、それなりに経験がある。普通であれば、あの魔法に気付くことも出来ぬままくらわせることくらい容易いはずだった。なのに、巽君はこちらを振り返ることもせず、呼吸するかのように私の魔法を跳ね除けた。

 私を超える経験をしてきたか、元々そういう人間だったのか。どちらにしても、気に食わない。


(あれで弱さを嘆くなど……腹が立つ!)


 まるで、私が虫けらのような弱さだと馬鹿にされているみたいではないか。私は、監視役に相応しくない。それを、実感させられる。ずっとずっと我慢し続けてきた、劣等感と屈辱。


(どうして、私がこの役なの? ボスが出来ないにしても、もっと私より上の立場の人は沢山いるじゃない。どうして、組織で十六番目の私が? もう嫌だ。理由が分からない……ボスが何を考えているのか、分からない!)


 数え切れないくらいの努力、耐え切れなくなるくらいの痛み、逃げ出したくなるくらいの困難、目を背けたくなる惨状、それら全てを乗り越えて私はやっとここまで辿り着いた。沢山いるカラスをまとめる組織の中で、この年齢で十六番目という位を手に入れたというのに。

 その今までを全否定された感覚。それを誇りにしてきたのが、恥ずかしくなる。私の人生は何だったのだろう。


(もう私には……巽君をとめられない。あれだけの力、常識を超えている。自然を操れるなんて、まさかあれほどまでに力を有しているなんて。でも、あれに中にいる存在の力は関係ない……生まれつき? それとも、身についたもの? 何にせよ、あれだけの力があるならボスの望みも……)


 彼さえいれば、彼の力が保たれれば、きっと――。


(嗚呼、そうか。だから、巽君を守れって。傷一つつけるなって……大事なのは彼じゃない。本当に守りたいのは、その力。最初から知っていた? 彼の中にある彼自身の力を……利用する為。力を入れる容器に傷すらつけたくないか……ボスらしいと言えば、ボスらしい)


 私は、いや、私達は知っている。ボスの恐ろしさを。普段は見せない、その凶悪さを。それでも、私達はボスと共に行く道を選んだ。


(そろそろ、許してくれないんじゃないかな……私は……)


 きっと、ボスに――殺される。元々、十六番目にいたあの人のように。形すら残らない、無残な方法で。

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