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閑話:偉大なお祖母様・2

「夜分遅くに申し訳ごさいません。ユリです…」


部屋をノックするユリ。中からは若い男性の声で返えってくる。


「どうぞ…」


ドアを開け部屋に入る。ここは書斎のようで、ところ狭しと整頓された本が並べられている。


「失礼します。少しお願いがごさいまして参りました」

「お願い…あ、どうぞお掛けください。ユリさんの頼みなら何でも叶えますよ♪」

「ありがとうございます、バルボネ男爵。ですが今、最後の言葉は、トリスティアに掛けるべき言葉ですので聞かなかったことにします…」

「へ?はぁ…」


ユリの言葉の意味を理解出来ないイケメンボルドー。

ユリは呆れた様な眼差しでボルドーを一目し、ため息をついてから椅子に座る。


「明日、スティフォール家長女、現リューゼン子爵夫人のアリア様にお伺いしたいことがごさいます。休暇から戻られて――」

「いいですよ♪」

「――外では目立ってしまい…?」


詳しく説明する前なのにボルドーはニコニコと笑顔で了承する。


「…、まだ説明の途中ですが?」

「アリア様、ですね。ついでにスミルも呼びましょう…」

「ルー理事長のお孫様の名が何故出てくるのです?…そう言えばボルの部下でしたね。監視役かしら?」


何故か自分の部下、副団長のスミルまで呼ぶと言うボルドー。

ボルドーが余りにも突拍子なことを言うので、怪しむユリの敬語がちぐはぐになっている。


「ははは…、いくら僕が不在だからといってユリさん達に監視はつけませんよ。スミルを呼ぶのはですね、アリア様とは兵学校の先輩後輩で、後輩であるアリア様に関わることなら何でも知っているからです♪」


そう、マリアの姉アリアとスミルは兵学校の先輩後輩という間柄だ。

もちろんユリもスティフォール家の元侍女なのでアリアの交友関係は知っている。


「そうでしたね…では、明日のご夕食にアリア様をお招きさせていただきます。バルボネ男爵様のご恩情、平に感謝いたします…」

「ご温情、て…ユリさんらしいですね。不在中、二人のことを頼みます。たぶん、シネラちゃんに多大なご迷惑をかけるとおもいますが…」

「シネラちゃんなら大丈夫です。タスティア様によろしくお伝えください」


それだけ言うとユリは椅子から立ち上がり、「失礼します」とお辞儀をし書斎から退室する。

ボルドーもニコニコと会釈しユリを見送る。


「師団長が行って…くれないか…」


何かを諦めたように独り言を呟く。

明日から2日間、ボルドーはマリアの母で聖騎士師団副師団長のタスティアの元へ行かなければならない。

行きたくない訳ではないが先の事件がまだ気がかりで、ユリ達の滞在は3日間の約束だったが、今日からまた3日間の滞在をお願いしたのだ。


「…しかたない、早めに戻る努力をしよう!」


家族が心配なボルドーは、出来るイケメンなので明日の準備万端。それでも再度確認をするのは軍人の性だ…。





 「お腹すいたです〜♪」

「マリア!手ぇ洗ってないでしょ!?外から帰ったら手洗いうがい!」

「い、今やるとこです〜!」

「あと、食堂には着替えてから行くんだからね!」

「わかってるです〜」


シネラに指示されるがままのマリア。ガミガミとうるさいシネラだが、お嬢様育ちのマリアはあれこれ言わないと動かないので、何かと忙しいユリの代わりに現在シネラが担当している。

タマでもいいのでは?と思うだろうが、タマが注意をすると必ず二人はケンカをするので、やっぱりシネラだけが頼りになる。


「ちゃんと畳む!脱ぎっぱはダメよ!」

「うぅーです〜」


今回の部屋割りはシネラとマリア、ユリとタマが相部屋となる。

実は前回、最終日の部屋割りで発覚したのだが、マリアとタマは片付けが大変に苦手だったようで、たった一日で部屋が散らかり放題になった。


「ユリさんが何でもやっちゃうからって甘えない!並べ方が汚ない!」

「ですぅ〜」


防寒具を畳ませ装具一式をキチンと整頓させるシネラ。

ユリのように手を出したりせずに、自分の装具の整頓状況を見本としてマリア自身にやらせる。


「シネラ姉〜、先にごはんだってー」

「右に寄りすぎ――?ありがとう、タマ。すぐ行くね!」


タマがドアの隙間から顔を出して伝言を伝えてくる。シネラは返事を返し、口を尖らせて装具を並べているマリアに向き直る。


「むぅ〜です〜、まっすぐですー」

「まっすぐじゃないの、左右対称がキレイなの。はい!オッケー、行くよ!」

「ですー♪」

「走らないー!!ガミガミ――」

「です〜」

「シネラ姉の方が厳しそ…」


シネラから合格をもらい、腹ペコなマリアは我先にと部屋をでるが、すぐシネラに止められお説教だ。


食堂に向かう3人。シネラとマリアは仲良く手を繋いで歩いている。

お説教をされて塞ぎ込んだマリアだったが、シネラに「行くよ?」と手を差し出されれば、シネラが大好きなマリアは顔を綻ばせて喜び手を繋ぐ。


「ごはんです〜♪」

「ごはん〜」

「…マリアチョロすぎ」


ごはんの歌を歌うシネラとマリア。後ろでタマが呟くがマリアには聞こえない。

シネラは飴と鞭の使い方がうまい。それを知るタマは、シネラがただ者ではないと思っており、現にマリアをうまく懐柔させている。


「…タマ」

「ん?どたのシネラね、ぇ…!?」


呼ばれタマはシネラに顔を向ける。

シネラは言葉を発することなく目だけで語る。タマはコクコクと首を縦に振りシネラが何を言いたいのかを聡い、それ以降の発言はしない。




「お帰りぃ〜シネラちゃーん!」

「ふぇ?おぶっ!?」

「ぇぼしっ!!?」


食堂に着くやいなや、シネラは同じ背丈の少女に猛烈なタックルをくらう。ついでにマリアも巻き添えにされて、扉の角に頭を打ち付けた。


「もう、ティーナちゃん危ないよ〜」

「お帰り〜♪お帰り〜♪えへへー」


マリアを下敷きにシネラに抱きつくティーナ。

抱きつくのは毎度のことだが、今日は一段と抱きつく時間が長い。


「ティーナちゃん!私も付けてるよー♪」

「お揃いー♪」

「ありがとね、ティーナちゃん♪」

「……」


猫のブローチを見せあうシネラ達。下敷きになったままのマリアは不満そうにしている。


「あれ?ユリさんは?」


ユリが食堂にいないことに気づくタマ。シネラがティーナに抱きつかれたまま立ち上がる。


「今日はお客様がいるから、ユリさんが出迎えるって言ってたでしょ?たぶん、玄関先にいるよ」

「そだった。誰が来るの?」

「わかんない。ないしょって、言われたから…」


誰が来るのかを知らないシネラとタマは、同じポーズでお客様が誰なのかを考える。ついでにティーナも真似をして考えてるふりをする。


「誰でもいいです〜。早くごはんです〜」


何故か機嫌が悪くなったマリアが適当な席に座る。

しかし、座ったとたんシネラ達以外に、マリアの名を呼ぶ者が現れた。


「マ〜リ〜ア〜!!」

「ひぃ〜!?」


いつまに入って来たのか…、マリアの横にはマリアと瓜二つの顔を持つオレンジ色の髪を後ろ首あたりで束ねた女性が立っていた。


「ア、アリアお姉様!?」

「こら!家長より先に着席しないの、伯爵位はお父様だけよ?"他家に入れば礼に伏す"でしょ?」

「はいですー!?」


椅子に座っていたマリアが立ち上がる。

姉のアリアが言ったのは貴族の習わしで"親の威を借りず、真の貴族ならば義を通し、深く礼を尽くせ"というものである。


「良いではないか、マリア様は天真爛漫な方が――」

「――単に我が儘で自分勝手なだけです…」


アリアに続きボルドーの部下スミルと、この二人を出迎に行っていたユリが食堂に入ってくる。


「ユリの言うとおり!マリアは言われた次の日にはケロっとして忘れてるんですから、何回も言わないと分からない"おバカ"なんです!先輩は甘すぎです!!」

「ひ、ひどいです〜!?バカじゃないですー!!?」


「なにこれ?」

「さ、さぁ…」


騒然する食堂。シネラとタマは何が起きているのか理解出来ない。

一つだけ分かったことは、ユリの言っていたお客様はマリアの姉アリアと、マリアの家臣に成るのが夢のスミルだったことだ。





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