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そしてガルデアへです

「私も持つです〜ユリばっかりズルいです〜!」


「ダメです。マリア様は力が無いのでこの子を落としてしまいます。あと物では無いので――」


マリアとユリは、泉で横たわっていた少女を保護し、ガルデアへと森の中を歩いている。少女を抱いて歩いているユリに、マリアは先ほどから、持つ!持つ!と駄々をこねていた。


「――私だって〜猫人族の少女を持つです〜!」


マリアは、白猫です〜!と会話にならない、もう何を言っても聞かない様子にユリも、少しだけですよ…と立ち止まり、少女をマリアに預ける。


「か…かわいいです〜♪暖かいですね〜」


「子供は体温が大人より高いので……獣人なら尚更ですね」


「そうなんですね〜、ユリは物知りです〜」


「……さて、先に進みましょう。ガルデアまであと1刻ほどで着くと思います」


とユリは、少女をマリアから取り上げ歩き始める。


「!?私のねこです〜!」


「マリア様の物ではありません、行きますよ」


「う〜意地悪です〜」


マリアはとぼとぼ歩きだす。ふてくさりながら歩くマリアと疲れ知らずのユリだが、ふとマリアが物知りなユリに疑問を投げかける。


「…どうして〜あの泉にいたですか〜?猫人族の村は確か〜魔王国に近い獣王国の〜ステレオ領ですよね〜?」


「……ステリオ領です。たぶんですが、人魔大戦の時に、魔王国が設置した転移トラップに引っかかった可能性が高いです。奴隷紋が無く、ステリオ領までは最短でも2ヶ月はかかるので転移陣しかあり得ません」


と、すらすら答える物知りのユリ、マリアはさらに詳しく聴く


「転移陣でさっきの泉ですか〜?戦争中なのに〜良いところに転移できるです〜?」


「普通の転移陣は場所を指定出来ます。ですが、設置者が知らない場所には転移出来ません、戦争中、ガルデアの周辺は魔王国の侵略を受けていませんので、あの泉へ直接転移は出来ないのです」


「じゃあ〜転移じゃないです〜?」


「いいえ、転移陣はもう1つあります。そちらを設置していたのでしょう」


もう1つですか〜?とマリアは首を傾げる。


「はい、転移強行陣があります。ダンジョンにある転移陣と同じく、ランダムで転移されるトラップの事です」


「成る程〜です!さすが物知りユリなのです〜!!」



屋敷にいた時からその博識さを買われ、伯爵直々にマリア達姉妹の教育係も兼務させられていたユリ、「また1つ賢くなりましたね」とマリアを褒める。

すると、腕の中で気を失っていた少女が、もぞもぞと動き目を覚ました。


「……あれ……寝ちゃってた?」


少女は目を擦りながら可愛らしい声をだす。マリアが「声も可愛い〜です〜!」と悶絶している。呆れ顔でマリアを見るユリは、少女に顔を向け声をかける。


「おはようございます。お気分はいかがですか?」


「えっ?お姉さんは…!ここどこ!?私は誰!!」


えっ?えっ?と周りを見回す少女に、ユリは優しく地面に下ろし頭をなで落ち着かせながら説明する。


「ここは人族が治める国、インデステリア王国の公都ガルデア周辺にある大森林の中です。この方は元伯爵家三女マリア様、私は元侍女のユリと申します」


ほぇ〜とした顔をする少女にマリアがたまらず抱きつく


「可愛いです〜♪やっぱり私の物です〜」


名前を付けるです〜!と言いながら、少女の顔に自分の顔をすりすりする。少女は嫌がりマリアの顔を両手で押し返すがマリアの方が力が強いので逃げられない、ユリが引き剥がすのを手伝い少女とマリアを離した。


「あ〜です〜」


「ななっな!名前はあるよ!勝手に考えないで!!」


解放された少女は、ふしゃーと言いそうな剣幕でマリアの提案を拒否する。


「先ほど、「私は誰」と申していましたが?記憶喪失では――」


「――ああっあれは!言葉のあやと言うか…えーと……言ってみたかっただけです……」


ちょっと可笑しな少女の様子に、滅多に笑顔を見せないユリが微笑んだ。マリアは「ユリが笑ったです〜!」と驚いているが、ユリは少女が記憶喪失ではないとわかり安心した。


「言ってみたい事もありますね。記憶喪失ではなくてよかったです、名前を教えていただけけますか?」


「こ……シネラです」


危うく前世の名前を言ってしまいそうになる。別に言っても知っている者はここには居ないのだが、せっかく自分で付けた名前だから、きちんと言い直して伝える。


「シネラちゃんですね?歳はいくつかわかりますか?」


歳?いくつだろ?聞いて無いよ〜と心の中で思うシネラ、う〜んう〜んと唸る様子にユリは、やはり一部の記憶に転移の影響が…と思い、再度、シネラの頭をなでる。


「無理して思い出さなくても大丈夫ですよ、やはり転移の影響が少なからず残っているようです。ですので、焦らずゆっくりと思い出していきましょう」


「!転移陣を知ってるの!?私、それに乗せられたら……いつの間にか気を失って…起きたらここにいて……」


騙された?とシネラは考えだす。ふたりのやり取りを観ていたマリアが興奮しながらユリへ詰め寄る。


「……ごい……すごいです〜!ユリが言ったこと、全て当たってたです〜!」


「……ありがとうございます。運よく私達と出会えなかったら、いくら魔物が出ない森でも彼女は猛獣に食べられていたでしょう。本当によかった…」


「…です〜、シネラちゃんを転移陣に乗せた人は〜最低です〜!」


喜んだり怒ったりと忙しいマリアに、そうですね…と呟くユリ、このまま立ち止まってもらちが明かないので、ガルデアへ向かう旨をシネラに伝える。


「シネラちゃん?私達はガルデアに向かっています。後半刻ほどで着くので一緒に行きましょう?」


「半刻?」


「1時間ですね、歩けますか?」


時間を教え、シネラの身体を心配する。シネラは軽く足踏みをして、「にぱー」と聞こえそうな笑顔で、大丈夫!と答える。後ろでマリアが「可愛いです〜!」と騒いでいるが、それを無視してユリはシネラの手を取る。


「では、いきましょう♪森を抜けるまで、足下に気を付けてください。もし疲れたら私が抱っこしますね♪」


「大丈夫です!頑張って歩きます!」


「うふふ♪そうですね、頑張りましょう」


ガッツポーズで気合いを入れているシネラが可愛いくて、ユリは笑顔になる。まだ後ろで騒いでるマリアを忘れて歩きだし、ガルデアへ向かう。




四半刻歩き森を抜けて街道に出ると、少し先に三重にもなる大きな壁に囲まれた街が見えてきた。

ユリがシネラの手を引いて歩いていると、後ろから声がする。ふたりが振り向くとマリアが走ってきた。


「待って〜くださ〜いです〜ひどいです〜!」


「……あぁ、忘れていました」


ユリは完全にマリアの存在を忘れていた。シネラはしょうがない……


「忘れてたです〜!?」


「忘れてました。さあ行きますよ、ガルデアまであと少しです」


「お疲れっ!…お姉さん!行こっ!……はいっ!」


謝らないユリを睨み、ぐぐぐっと唸るマリアの前にシネラが手をだすと、怒っていた事も忘れてその小さな手を取り、ニコニコ顔…もとい、ニヤニヤ顔を張り付けてシネラの隣を歩きだす。


「シネラちゃんは〜私のことをマリアって呼んでいいです〜♪」


「うん!マリアよろしくね♪」


可愛すぎです〜!と叫ぶマリア、2度目だが、猫好きだ…もう目が逝っている。



そんなやり取りもありながら、今3人は、公都ガルデアの入門審査の列にならんでいた。


「…それが冒険者?」


「そうです〜!これから私も〜冒険者なるのです〜」

列に並びながらマリアはシネラに冒険者のいろはを教えている。今教えていた内容は、ユリがマリアに聞かせていたものだ。


「……さて、そろそろ門が近いので静かに並びましょう」


「「はーい!」」



10分ほど静かに並び、自分達の入門審査の番が回ってくる。

審査は3人の門兵が行っていた。、


「市民証か冒険者証を出してください。」


「あれです〜?ないです〜!?」


「私が持っています」


マリアの市民証はユリが持っていて、2枚を若い門兵に渡す。若い門兵はビー玉のような者を市民証にかざし何かを確認している。


「……はい、大丈夫です」


お返しします。門兵はユリに市民証を返し、その隣を見て出来るだけ優しく質問する。


「……お嬢さん、市民証は持っているかな?」


「あの…その…持って……無いです……」


シネラは市民証を持っていない、転移で飛ばされたのだから有るとしたら猫人族の村であろう、だが市民証の有無は問題にならない。


「……では銀貨3枚を支払い、滞在許可証を発行して入場しますか?」


「……銀貨3――」


「――銀貨3枚ですね、シネラちゃんのポケットにちょうど3枚ありましたね?それを兵士さんに渡してあげてください」


えっ!?とした顔をしてシネラはポケットの中を探る。中から3枚の少しくすんだ銀貨が出てきた。

これはユリ…!?とシネラは声を出すが、途中でユリの人差し指が唇に当たり言葉が切れる。


「それを兵士さんに渡せば滞在許可証をくれますね♪」


と笑顔でシネラに言い、ウィンクをした。シネラも笑顔になり門兵に向き直り銀貨を手渡す。


「これで、滞在許可証をください!」


「はい、確かに銀貨3枚をいただきました。許可証を発行しますので、あちらの窓口でお受け取りください♪」


「はーい!」


門兵も笑顔で受け取り、丁寧に対応してくれる。シネラはユリとマリアの手を引いて窓口へ向かう、窓口にいる門兵も笑顔で、滞在許可証をわざわざシネラの前まで来て、中腰になり「よかったな!」と言いながら渡してくれた、シネラも「うん!ありがと!」とお礼を言い許可証を受け取る。


「これで入れるです〜♪」


「ちょうど銀貨3枚があってよかったですねシネラちゃん」


「ユリさん、ありがとう!」


「シネラちゃんのお金で入るのですから、お礼は要りませんよ…うふふ♪」


素直に喜ぶマリア、おどけユリにお礼を言うシネラ、それでもとぼけるユリや事情を把握している門兵達は、知っているが言葉に出さない…


この国の入門審査では、市民証と冒険者証を提示すれば中へ入れるが、他国民はこの国の市民証を所持していないので銀貨3枚を徴収し滞在許可証を発行する事になっていて、銀貨3枚を払えない場合や他の者をからの金銭の譲渡又は借用した者は発行しない決まりになっている。


それを知っていながらも、シネラに許可証を発行した門兵達は満足している。銀貨3枚は大金とまでは言わないが子供が持つ額ではない、それでも嘘を突き通すユリの気持ちは解る。こんな可愛らし猫人族の少女が悪さをする筈がない、街へ入れずに泣く姿を見たくない、と思ったに違いない。


「さあ、行きましょう。シネラちゃん、兵士さんに挨拶してあげてください」

とシネラを促し、門兵達に目配せする。門兵達の目は「わかってるじゃないか!」「ありがとう!役得!」と訴えていたかは定かではない。


「兵士さん、ありがとうございます!バイバーイ!」

「「バイバイ!」」


シネラにお礼と挨拶を頂いた門兵達、街へ入っていくシネラ達を…主にシネラを見送りながら余韻に浸る。次の審査待ちの人に声をかけられるまでその後ろ姿を見つめ続けた。




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