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50話:裏条委員会・裏事、カズキ・ヤマモト。

「いいか…タマの侍女が君主又は領主付に成るというのは、侍女長を経ずに侍従となったというこだ…」

「そして、"次代の王は、侍従の元主人である者から"と、タマも候補に挙がった事にもなりますね…」

「えっ…ぇぇぇえーー!?」


まさかの説明に、タマは顎が外れるくらい口を開けて驚き、叫び終わると「ヤッター!」と喜びだした。

ユリは「まだ、仮の話しですがね…」と、タマに釘をさが、タマは「私の次代がキター!」と意味不明な叫びをあげる。


「次期王ではなく、次代の王候補と言ったのですよ?」

「です〜♪ヴェラはタマの代で終わったです〜♪」


呆れるユリと、タマを小バカにするマリア。

タマが「マリアじゃないから終わりませ〜ん!」と言い返すが、マリアはユリとキゼドの言っている意味が分かっている。

それは4年前、マリアの姉であるネリアの侍女(現侍従長)が、父親であるローレス付の侍従になり、ネリアが次期領主として王立インデステリア高等学園に入学すると、当時のマリアでも分かるようユリが教えたからだ。


「長い…」


とは、ナナイの呟きだ。もうかれこれ十数分も無駄話をしていて、すでに捜索隊も講習組もこの場から退避している。


「…失礼した」

「ごめんなさいナナイ、つい熱くなりました。神殿に向かいましょう…」


ユリとキゼドがナナイに謝罪する。

ナナイは「謝罪はいい…、シネラちゃんが無事なのは聞いている…」と、我先にとマールウルフに跨がる。


「キゼド様は――」

「――私は走る。犬より速いからな…」


ユリが訊ねると同時に、大人しくしていたマルちゃんことマールウルフのマルにケンカを売るキゼド。マルは「グルルゥー!」と唸り、キゼドを威嚇する。


「そう言えば、マリア様…」

「なんです〜?」

「…お祖父様のことは、覚えてらっしゃいますか?」


マールウルフに跨がりながらユリはマリアに訊ねる。

ユリからの急な問いだが、自身の親族ごときに悩むことはないはず、なのだが…。


「えぇと〜です〜。う〜ぅ〜です〜」


両人指し指をこめかみに当てて、必死にお祖父様を思い出そうとしているマリア。

タマは「ウソでも覚えてるって言いなよ!?」と囁くが…


「覚えてないです〜」

「……」


マリアの発言にキゼドは言葉が出ない。


「マリア様も幼かったですし、約10年も見聞きしなければ、人は自然と忘れてしまいます…」

「ユリさん、よいしょ…それじゃ、お祖父ちゃんが悪いみたいな言い方だけど…」

「…現に、転移事故の件から死亡説が流れ。ローレス様も『先代は――』と、国王承認のもとで国葬までしましたからね…」


ユリの話をききながら、タマはマールウルフに跨がり「マリアも早く乗りなよー」と声をかける。


「うんしょ…お祖父様の記憶は無いですねぇ〜です〜」

「さすがはマリア様です。…残念ですね?キゼド様――」

「――ふん、知れたこと…神殿へ行けば、自ずと理解するだろう。では、先に行かせてもらう…」


ユリの言葉を特に気にするわけでもなく、キゼドは淡々と言葉を返し、そして魔抗布だらけのまま走り出す。目にも留まらぬ早さで姿が見えなくなり、ユリが「私達も行きましょう」と声をかけその後を追った。






 「タイガが"深"!?」

「間違いない、クレナの情報は確かだ…」


マルヤマと捜索隊の援護に向かったはずのカズキ達は、講習組にいるはずのアドラスとマーニ、それに何故か三日月のクレナとオリバに遭遇し、事態の急変を告げられる。


「マジだぜカズキ!セラは勇者の力を提供しやがった!?」

「だけど、魔力波を捉えただけじゃ――」

「――あのデカイのが証拠だ。波長はセラのと一致する…」


クレナは計測器らしき物をカズキに見せる。


「…確かに、タイガの波長と一致している。でも、これだけでは権限を行使するには証拠が弱いよ…」

「いや、証拠ではないが――」


大樹の根に腰かけていたS級冒険者兼混成団副団長のイオリが会話に交ざる。


「――ロロ領軍に帯同していたセラだが、本隊合流前で消息を絶ち、今現在も帰隊していないと、情報をえている。ヤマト方面軍付の彼が、何故、ロロ領軍に居たのかは不明だが、この樹海へ入るにはフォール3家の許可が必要だ。魔獣討伐に託つけて"正義の言霊"を使用したんだろう、ロロ領軍の兵達がセラだけの記憶が曖昧だったのはこのためだ…」


イオリからの補足でカズキ以外の者は、セラが"深"へ寝返ったと確信する。

カズキは「どうしたら…」と一言呟き、マーニとハルナを見る。


「…カズキ」

「…ハルナ、マーニ班長、勇者を捕まえることは出来ますか?」

「なにを言ってっ!?」

「正気かっ!?」


カズキからの突然の発言に、クレナとオリバが反発しだす。

いくら同じ転移者であっても、勇者の称号を持つタイガには敵わない。況してや、捕縛しろとは…隕石を素手で止めろと言われた様なものだ。


「中途半端に戦えば、みんな死んじまうぜカズキ!?」

「オリバの言う通りだ!裏切り者に手心などいらない!」


カズキに食い下がるオリバとクレナに、アドラスが「カズキの話しを聞け…」と、低い声でいい放つ。


「二人とも、まだカズキの話は終わっていない…カズキ、続けてくれ…」

「ああ、…いいかい?マーニに言ったのは、勇者の発する"魔力線"を捕まえられるかで、なにも、タイガ自身を捕まえろとは言ってないんだ」

「そ、そうか…」

「早とちりだ、すまない…」


カズキの説明に納得したクレナ達。アドラスの隣にいるマーニは、一本の矢を取りだしカズキに見せる。


「…い、今は…これだけ、しか……」

「大丈夫です。失敗しても、マーニ班長のせいではありませんから…ハルナ、補助を…」「…わかった」

「じゃっ、じゃぁ…射ちま…す……」


カズキ見せた矢をマーニが空高く射ち出し、矢は上空で形を変え、無数の魔力線を浮かび上がらせる。


「…いた!?」


ハルナがその無数に浮かぶ魔力線から、黄色に輝く一本を補助魔法で引き寄せる。


「まずは、居場所を探知だな…、オリバ――」

「――今やるよ…」


オリバがグローブをはめて魔力線に触れ目を瞑る。

カズキは「居ないでくれ…」と、険しい表情のままオリバを見守り、ハルナが「カズキくん…」と、カズキの右手を握る。


「…カズキ」

「やはり、ですか…オリバさん…」


探知魔法を使用したオリバが目を開けた。

カズキはオリバの声色でその意味を理解した。


「……あぁ、巨人兵の側だ…」

「くそっ!」

「…そうか、残念だ…」


憤慨するクレナ。イオリは顔を空へ向ける。

アドラスとマーニは何も言わない。カズキを見つめるハルナも言葉が出ない。

沈黙が場を支配し、数秒後にカズキが重い口を開く。


「裏事、カズキ・ヤマモトの名のもとに――」

「――カズキくん!?」


カズキが口に出した言葉に、隣にいたハルナが慌てる。

カズキは「…大丈夫」と、ハルナの手を固く握る。


「カズキ・ヤマモトの名のもとに、"裏条委員会・特別権"を行使する。以降、タイガ・セラを"深"と認定、"反乱者特別法"に基づき、このラトゥールからー―」


言葉に詰まるカズキ。

アドラス達は黙って次の言葉を待っている。


裏事・裏条委員会とは、国際転移者協会の協会理事会と同等の決定権を持つ特別機関であり、裏条委員会のカズキや他の裏事達は、協会理事会の裏の顔と言ったところの"裏協会理事"という立場になる。

委員会という名なら○○委員だと思うが、そこは裏条委員会が出来た理由が協会理事達への不満や反発からであり、半世襲制の理事会と相反する機関にするため理事の事を取り、表が協会理事会、その裏の意味で裏条委員会となった。

その裏条委員会の裏事選出方法は、理事会以外の機関員(三日月等の特殊部署)と協会職員(事務職、協会会員)の投票で選出される。

一応、民主的な選出方法だが、誰が裏事になるかは票の開票までは分からない。何故なら裏事になる者は、立候補制ではなく直接記名投票制と言う、半ば無理矢理に裏事へと選出されるからだ。

勿論、今ここで判断を下しているカズキも、皆の信頼を勝ち取って選出された裏事の一人である。


皆、何処と無く申し訳ないような表情をするが、カズキは意を決して言葉を出す。


「――異界へ追放する!」


カズキは懐から漆黒の羊皮紙を取りだし、右人指し指の先を短剣で刺して、印を描く。

そして漆黒の羊皮紙は黒い鳥に姿を変え、カズキの手の中から飛びさって行った。


「協会機関員の指揮は、裏条委員会の下へ入る…」

「…はい」


カズキの言葉にマーニが返事をする。


「カズキ裏議…、まだ協会職員の身である私はどうする?」

「イオリさんも、現時点より三日月・機動班に配置になります。今飛ばした物は、その強制転換を記したものです」

「了解した」


イオリの問いにカズキが答える。


裏事であるカズキは、本来なら理事会で行われる決議を単独で決定出来る権限を持っている。

特殊別働隊活動権限…、協会内では通称"特別権"と呼ばれ、緊急時や表の理事会が機能しない時、特殊部署に所属する機関員のみを指揮下に置くことが出来る権限であり、またその場の状況によっては、裏事が"転移者管理法"に準じた法的手順を踏まず、協会員や協会職員を特殊部署へ強制的な配置転換させることも出来る。

そして、特別権を行使され"反乱者特別法"を適用された反乱者は、5段階ある特別処置を実行される。


「まさか、一番重い"異界追放"とはな…」

「それしか方法はありません…。勇者の力に対抗するためですから…」


重い言葉がアドラスからカズキへ伝わる。カズキは険しい表情を崩さず、自分に言い聞かせるように言った。


"拘留"、"無期拘置"、"記憶抹消"、"人格改変"、"異界追放"処置と、本来なら段階的に適用される特別処置なのだが、カズキが下した処置はこの中で一番重い"異界追放処置"であり、文字通りラトゥールではない世界へと反乱者を追放するものだ。


「勇者への特別法の適用は、ヤマトが黙っていないぞ?本当に異界追放するのか?」


イオリがカズキを心配そうにしながら訊ねる。


「…"訝"の亜空間転移班が到着するまでは、手を出しません。早くても到着は正午――」

「――それまでに、セラを改心させればいいんだろ?」


話し途中のカズキにオリバが言葉を重ねる。

カズキは「…そうです」と答え、皆に順を追って説明する。


「タイガの所在があの巨人兵の側であり、その巨人兵の開発に勇者の力を提供したのは、魔力波から見ても明白…。今事案は特別権の適用となり、即時に行動に移ることができます。ですが、勇者の力を僕たちだけでは押さえきれない――」

「――そのための"異界追放処置"なのだろ?職員の私を機関員へ配置転換するためには、特別法の異界追放処置の発令が必要だからな…」

「…はい、特別法の重罰を発令しなければ転移者管理法に抵触し、僕だけでなく、イオリさん自身も罰せられます。現に、今いるメンバーでも勇者に対抗出来る戦力ではないので、協会の理事達に事の重大さを警告する意味合いと、協会機関員の支援要請を兼ねて異界追放処置を施しました。そして、亜空間転移班を含む支援隊が到着するまでに、タイガ自身に何が会ったのかを聞き出し、身の潔白が証明されたら、裏事の特別権を失効させます…」


カズキの言葉に各々が頷き覚悟を決める。

勇者であるタイガの身の潔白が証明されればそれでいい…、だが、タイガが深であったなら…。


「…大丈夫、大丈夫だ!タイガは頭でっかちだから、誰かに騙されてんだよ!なっ!?マーニ――」

「――そ、そうだと…僕、も思う…ます…」


重苦しい雰囲気の中で、オリバが気丈に振る舞う。

チャラチャラした性格な彼だが、皆の不安に思う気持ちを少しばかり払拭してくれる。


「私も…私も、タイガは無実だと思う!」

「僕もだ。セラを疑い過ぎた…だから、仲間であるセラを救いたい!」


ハルナとクレナがオリバの言葉に呼応する。イオリも「そうだな…」と同意するように言ったが、何処か浮かない顔をしている。

アドラスが「どうした?イオリ…」と訊ねると、イオリは溜め息をついてからオリバを指差す。


「今から、こいつの下に付くと思うと…はぁ〜…」

「あぁー」

「…なるほどな」


イオリの溜め息の理由を理解したカズキとアドラス。

先ほどイオリは、カズキから三日月の機動班に配置転換され、機動班班長のマーニの部下になった。そして――


「今いるのは、マーニ班長と班長代理の俺、間諜係長のオリバ、外報係長のクレナで、あとは新人のイオリだからな、そして、今任務はオリバの管轄になる…」


――イオリはオリバの部下になった。


「…負に堕ちないが、よろしくな…オ・リ・バ・先輩…」

「えぁ、あ、はい…」


あり得ない上司と部下の構図だが、特別権の発令にはいくらS級のイオリと言えど、命令を遵守しなければならない。

それが、イオリが嫌いなチャラチャラした男性の部下に成ろうともだ。


「では、行きましょうかカズキ裏事…」


上司いびりを終えたイオリがカズキに進言する。


「あ、はい。…特別権に基づき、今後の行動は僕が指示します」

「了解!」

「「はい!」」

「は…は…」

「はいよ〜」


カズキの言葉に各々が応える。

マーニはいつも通りだが、イオリにいびられたオリバは生返事な感じだ。





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