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48話:時空魔法を操る者。

シネラは転移魔法によりゴーレムの間から地上に飛ばされた。

周囲を見渡すシネラ。仄かに朝日が差し込み、ここが地上にある偽神殿だとわかる。


「ダグナマグナ…」


自分だけ麒麟から逃れたからなのか、シネラはその場を動こうとはしない。入念な準備も、あの麒麟に対しては無駄なものだった。


「どうすればいいの…わかんないよ……」


シネラは結界装置を強く抱き締め弱音を吐く。

目まぐるしく変わる状況に、頭の回転が早いシネラでも情報処理が追い付かない。

どうすれば?何をしたら?シネラは考えるが答えは出ない。


本人はまだ気づいていないが、シネラは守りたいと想う気持ちが強いほど、そのずば抜けた頭脳を発揮する。

今もそうなのだが、あまりにも規格外な事や自身で経験していない事に遭遇した時は、想う気持ちよりも不安感が大きくなってしまい、弱音を吐くほど頭が回らなくなる。


「どうしよう…ユリさん…モニカさん…」


信頼しているユリとモニカの名を口ずさむ。

震える手足、今にも泣きそうな目で再度偽神殿を見渡す。


「…アイナ?、の石像…」


差し込む朝日に照され、薄暗かった広間はアイナの石像を浮き立たせる。

シネラは自分が立つ場所からアイナの石像に近づく。


「アイナ…私じゃみんなを助けられないよ。無理だよ…」


アイナの石像を見上げるシネラ。自分の前世で、ミリファナスの仲間、ダグナマグナの敵(親友)。

その記憶はシネラに無いが、心の奥底から懐かしいと思えるものがシネラには感じ取れる。


「アイナは……私、どうしたらいいと思う?」


シネラがアイナ像に語りかけるも、返事があるはずはなく、シネラの息遣いだけが場に流れる。





 「まるで、昔のお前さん達を見てるようでな…ちぃとばかし懐かしくなってな――もがもが!?」

「なっ!なにを言ってるんですか!?忘れてください!」


孫を見る様な目をモニカに向けるマルヤマだが、赤面したモニカに口を塞がれる。


「バカに聞かれたらどうするんですか!?」

「もが――ふぁっ!?なにを慌てているんじゃ…ただ、モニカとリースもああやって――」

「あぁあーー!?ダメダメダメッ!――」


マリア達の事を何も知らないマルヤマは話を続けようとするなで、モニカは慌ててまた口を塞ごうした。

しかし、その話はマリアとタマに聞かれており、特にマリアがタマの様な耳をピコンッと出しながら、マルヤマに駆け寄ってくる。


「なんです、なんです〜♪じぃはモニカの事を知ってるですー♪」

「マリア!?さん!さんが抜けてるよ!?」


タマがマリアに、"モニカ"ではなく"モニカさん"と言っていない事を指摘する。だが、もう手遅れだ。

真っ赤な顔のモニカがマリアの頭を鷲掴む。


「余計な事に、無い首を突っ込むな…」

「ガ、ガクブルですー!?」

「ありゃら〜…」


あれだけ大変なマットモンキーとの戦いがあったにも関わらず、モニカを怒らせる事が出来るマリアは、やっぱりバカ(マリア)だった。

しかし、いつもはひどい目に遇うマリアだが、そこは伝説のS級冒険者なマルヤマが庇ってくれる。


「こらこら、あまり下の者をいじめるでない…」

「あっ、いえ、その…」

「"叱る側も、時と場所を考えよ"と、ユリに言われてたじゃろ?」

「は、はい…」


マルヤマに諭されるモニカを、マリアとタマはポカーンと眺めている。

それもそのはず、モニカが他の人の言葉に(ユリは別だが)従うなど、二人は一度も見聞きした事が無いのだから。


「モニカが人の言うことを聞いてるですー!?」

「そ、そうだけど、マリア…さんを付けようよ…」


モニカを自分中心な人だと思っているのがバレバレなマリアだが、あらかた間違えでは無い。それはマルヤマが話している内容からも読み取れる。


「機械好きですぐに物を壊すメグミと、自分勝手で二言目には言い訳をするモニカ。年のわりには子供なリース。ガッツはあるがよく空回りするアマティセに、坊っちゃんなセルビオ…よく、ああしてケンカをしていたのぉ〜」

「い、今はケンカしないです!こ、子供じゃないですから!?」


たじたじなモニカはまるでユリと話している時と一緒だ…と、マリアとタマは思う。


「分かっておる…モニカも成長したと、ちゃーんとアルバードから聞いておるぞ?」

「あ…うぅ〜」


真っ赤な顔が更に真っ赤になるモニカ。

マルヤマが「あれは…」と呟き、そのマルヤマが見ている方向をモニカも見る。


「何があったの!?」

「「「「ユリさん!?」」」」


足の早いマールウルフのマルと並走しながら捜索隊へやって来るのはユリだ。

ユリとマルが魔獣の処理を終えて本隊に合流したが、他の者がいない。


「あの巨人は何処から!?」

「わ、わからない!?今はグランドマスターが巨大な剣を――」


ユリがヘクタに向けて叫び訊ねる。

破壊された巨大な剣の破片の被害を確認していたヘクタが答えるが、それを元グランドマスターのマルヤマが説明を代わる。


「――大丈夫じゃよ。今、あのデカ物は動かん…まあ、あと5分はのんびり出来るじゃろう」


何処から出したのか…マルヤマは魔法瓶の様な物を手に持ちお茶を啜っている。

そんなマルヤマを見てユリは何時もの表情に戻り、落ち着きを取り戻しながらマルヤマに近づく。


「マルヤマさん?お茶を飲んでいる場合ではないですから…」

「つれないのぉ。冷静さを失えば、死はすぐそこじゃぞ?」

「貴方のは冷静さではなく、緊張感が無いと言いたいです。他の者が真似をしますので止めてください…」


何故かマルヤマに厳しいユリ。マルヤマは「すまんのぉ〜」と言いながら、魔法瓶を何処かへ仕舞う。

二人のやり取りに、近くにいたマリアとタマだけではなく、他の受講者達も疑問に思う。代表して訊ねるのはやはりバ…マリアで「じぃとユリは知り合いですー!?」と、ユリの顔に最接近したがら訊ねる。

ユリは「近いですマリア様…」とマリアの顔を左手で遠ざける。


「マルヤマさんの事は昔、マリア様にもお話ししましたよね?」

「…あー!ですー!?」


ユリの言葉にマリアは今しがた思い出したようだ。冒険者に憧れた幼き頃のマリアはユリから色々と聞いている。

マリアはいまさらになってユリから聞いた冒険の話を、頭の中で回想している。

そんなマリアを驚きの表情で見つめるマルヤマが口を開く。


「もしや、マリア様とはスティフォールの…」

「ええ、三女のマリア様です…」

「ユリは私の侍女ですー!」


マルヤマの問いにユリが答えるが、マリアは回想を中断して割って入る。


「ユリが言ってたですー!『マルヤマさんはすぐに弟子達を甘やかす。あの老人は老がいだ…』だったですー♪」

「「……」」


マリアの発言に、マルヤマとユリは視線を交わす。


「…手厳しいのぉ」

「事実ですし。今もメグミが真似したままだと、私は心配でなりません…」


また余計な事を言ったかと思うが、二人の関係からしたら何て事ないものだった。

そして残念なことに、マルヤマの真似をしたメグミはそのまま大きくなってしまっている…。


「そう言えば…あのしっかりした、白い猫のお嬢ちゃ…シネラちゃんだったのぉ、その子は一緒にいないのじゃな?…まぁまだ年若い娘じゃ、体が大きくなれば――」

「――シネラ姉の所に行くですー!ぐぇっ!?」


急に叫んで走り出そうとするマリア。ユリに襟を掴まれ、その行動を止められる。


「お待ちなさい…マリア様だけでは意味が無いのです。ローレス様も一緒に行かなければ――」

「――お、お父様です〜!?今は関係無いですー!シネラ姉を助けに行くですー!!」


父親であるローレスの名を聞いても、シネラの元へ行くことを優先するマリア。マリアの中ではシネラを助けることが一番なのだ。


「"試練の間"に入るには、剣神フォールの血を受け継ぐ者が二人いなければなりません…」

「シ、シネラ姉と関係無いですー!?ダ、ダググナガを見つけて、やっつけるですー!」「なっ!?マリア!?」


状況を理解していない、いや…知らないマリアはタマの手を掴み、また走り出そうとする。

しかし、今度はマルヤマに「待つのじゃ!」と止められ、早くシネラの元へ行きたいマリアは、苦悶の表情でマルヤマを睨み付ける。


「大体の経緯はわかった…シネラちゃんはダググナガ?という者が――」

「――ダグナマグナです…」

「…その、ダグナマグナが神殿へ連れ去ったのじゃな?」

「そうです」


まずはマリアを落ち着かせようと、マルヤマがユリやモニカに訊ねる。

マリアへ直接に訊ねないのは、極度の興奮状態にあるからで、会話にならないからだ。

マルヤマはマリアに睨まれ続けながら話を続ける。


「なら、適任がおる…」

「適任…ローレス様以外に、ですか?」

「そうじゃ。その者は姿は見えないが、声は聞こえる人物でのぉ――」


マルヤマは、時が止まったように動かない巨人を眺める。

ユリも釣られて巨人を見る。「時の断囲…」と呟くユリは何かに気づき、マルヤマに向き直る。


「フォールの血族で"高次元魔法"と"時間魔法"の両方を使える者は一時代に一人。アリア様とネリア様は"時間魔法"、ローレス様は"高次元魔法"だけ……まさか!?――」

「――そのまさかだ。マルヤマ、私から説明しよう…」

「「「!?」」」


ユリの疑問に声をかけるのはマルヤマではない。

姿の見えない気を発する者が、マルヤマの横にいる事を感じ取れるユリは「そんな…あなた様は…」と驚きの表情をしている。

他の者は、それが何なのかさえ分からない。


「そうせい…ワシは巨人を倒しに行くでのぉ、お嬢ちゃん達を頼んだぞぃ…」

「ああ、そろそろ効果の上書き出来なくなる。さっさと処理してくれ…」

「うむ、ではなキゼド。皆も見えんかも知れんが、こやつは頼りになる人物じゃ。神殿に行くメンパーじゃが……手負いの者は連れていくでないぞ?」


姿の見えないキゼドと会話するマルヤマ。

手負いの者とはモニカと、会話を聞き付けてマリアの近くで聞いていたダイナに向けて釘を指したと思われる。


「…残念」

「わ、わかってます!?」


去り際のマルヤマと目が合った二人。ダイナは残念がるが、モニカは恥ずかしそうに返事をする。


「わかっているならよいのじゃ。そしてマリアよ…」

「な、なんですぅ!?」


最後にマルヤマは、興奮が少し治まったマリアに話しかける。


「妹思いの良い姉を助けに行く。その思いはすばらしものじゃが、少しばかり猛進気味かもしれんの…」

「でも、早くシネラ姉を助けたいですー!」

「それは皆も一緒じゃよ。周りをよく見るんじゃ、皆もシネラの名を聞いて、顔には出さんが不安がっとる…」

「…ですぅ」


マルヤマはマリアの肩を叩き「あとは、おじいちゃんに教えてもらうのじゃな♪」と言い残し、巨人の元へ向かってしまった。

マルヤマの言葉にマリアは「おじいちゃん、です〜?」と、興奮しているのを完全に忘れて、頭に疑問符が浮かんでいる。


「そうですね…まさか、マリア様のお祖父様がご存命だったとは思いもしませんでした…」

「うそっ!?あの陰険ハゲが――」

「――モニカ、地が出ていますよ。本人がいる前で、昔の陰口はおよしなさい…」


すでにユリはマルヤマの残した言葉の意味を知っているようだ。

モニカもユリの言葉からその人物を思い出し、嫌いな人物なのか、その本人の前でハゲ呼ばわりしてしまう。


「あっ…ご、ごめ…スミマセンでした…」

「よい…アリアの興味を取られた腹いせだ。私もいま振り返ると、大人げないと思っている…」


モニカも声の主を知っていて、浅からぬ因縁があるようだ。

キゼドは腹いせだと言うが、何があったのかはここでは語らない。


マリアまだ"おじいちゃん"と言われた意味を理解していないようで、ユリとモニカを交互に見て訊ねる。


「おじいちゃんです〜?ノーマンお祖父様は亡くなってるですー」

「それは…」

「ええ、お亡くなりになって…」


ユリもモニカも、キゼドがマリアの祖父であるノーマンだと言い切れる自信は無い。

10年前の大戦…当時幼かったマリアにスティフォール家は、あの"大規模転移"の経緯を伝えず、『お祖父様は戦争で亡くなった。』と教えている。当然、姉のアリアもネリアもマリアと同じように教えられたが、今は、時空魔法継承の時に本当の事を知らされている。

ユリもそれをローレスから聞かされ知っているのだが、ノーマン本人が生きているとまでは知らなかった。


「双剣の美少女よ…まずは移動をしようではないか。捜索隊の者も、早くここから離れるがよい…」

「は、はい。ヘクタさん、ガルデア軍の所に向かってください」


声のみで表情の読めないキゼドが話を中断する。美少女と呼ばれたユリも同意し、ヘクタへ指示を出す。


「りょ、了解!」

「講習組も、もたもたしないで!マルヤマさんの剣技に巻き込まれるわよ!?5分以内で出発!!」

「「「はい!」」」


ヘクタの返事に被さるように、モニカも講習組へ指示を出す。

「キゼドさんに魔抗布を…」、ユリがマリアとタマに指示をする。


「ナナイさん」


ユリがナナイを呼ぶ。呼ばれたナナイは、自分が何故呼ばれたかを分かっているようで、懐刀から犬笛ならぬマル笛を出し一息する。


「…10体、あと3分で来るだろう」

「ありがとう、ナナイさんには先導をお願いします」

「分かっている。あのダグナマグナに言われた事を確かめなければならないから…」


ナナイは首から下げたペンダントを握る。


「アリマの誓い…"剣神フォールと1000体の竜、10日間の戦い"に書かれているものですね?」


ユリの問いに「そうだ…」と答えるナナイ。

アリマの誓いのアリマとは、フォール山脈で一番高い峰で、竜種の聖地とされている。







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