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44話:日ノ出とともに

 「ここのボタンをね、長押し1回で普通の物理結界を発生できて2回押すと解除!3回は今のやつで〜、長押し2回で自爆するよ♪」

『じ、自爆ですかです!?』


操作の説明をするシネラが自爆と言うのでミリファナスは少しシネラから離れる。神なので死ぬことはないのだが…


『自爆じゃねぇだろ?物理衝撃だ…』

「そだった…局地的物理衝撃でね、自分も巻き込まれるけどこうやってボタンの真裏を相手に向けると――」


間違えを指摘されたシネラは説明をしながらミリファナスにボタンの裏側を向け、裏側を向けられたミリファナスは『な、なにするですか!?』と手を前に出して狼狽える。

なぜかダグナマグナはその場から消えてシネラの遥か後方に姿を現すと、シネラは「ポチ〜ポチ〜」とボタンを2回長押しした。


バッ!!


短い破裂音とともに物理衝撃とおもわれる衝撃波がシネラとミリファナス襲う。それは主にミリファナスへと一直線に力が伝わり、ミリファナスは一瞬にして記憶の間の端まで吹き飛ばされ『へびゃっ!?』と奇妙な鳴き声を発っして壁にめり込む。

シネラもミリファナスと同様に吹き飛ばされるが、先回りでシネラの遥か後ろに着いていたダグナマグナは音速ともとれる速さで飛んでくるシネラをキャッチして、抱き抱えながらその場で高速回転をして勢いを殺す。


「う〜ん…目がまわった〜」

『俺様もだ…』


二人して目を回し、千鳥足でふらふらと元いた場所へ戻る。

次第にふらつきが回復したシネラは、今の衝撃でも形を保っている結界装置を手に取り、ポケットから柄のついた先の細い工具でガチャガチャといじりだす。

その様子を、一緒に戻ってきたダグナマグナが横で見ている。


『耐久性はどうよ?』

「うん、大丈夫だった。基板も補填器も問題なく魔力が通ってる」

『内器の魔熱量を計っとけよ?』

「今やるとこ…」


ダグナマグナに言われた事を、今度は計器のついた虫眼鏡の様な工具を持ち出して結界装置に近づける。


「内器の魔熱量は…うわっ322だよ、どうしよ?」

『イニダイトしか無いしな、2つは入んねぇだろ』

「だよねぇ…魔力摩擦が大きいのは解ってたことだしイニダイトで融解温度までは上がらないからいいとしても、これだと連続使用は望めないね?」


工具をしまいシネラは結界装置をダグナマグナに渡す。

二人で話している間にミリファナスが復活していたようで、ダグナマグナの手に乗る結界装置を怒りの形相でぶん取った。


『いきなりなんです!?死ぬとこだったです!』


服も身体も傷一つ無いのに大袈裟に騒ぎ立てるミリファナス。

シネラとダグナマグナは冷ややかな目線を送り、なにも聞こえてないとばかりに二人で話し始める。


『今のは俺様がしゃがんでいたから背中に貼り付けれたが、一応棒みないなのも付けとくか?』

「いいよ、腰には届くくしボタンを押してから持ちかえるの手間だから…」


無視されたミリファナスが『私の話を聞けー!?です!』と騒いでいる。

それでも二人は各々が持つ設計図に数値や問題点を書き込み「ここは?」とか『これの値は…』など、ミリファナスの話しは聞きませんと言わんばかりの露骨なシカトをする。


「……」

『……』


わざと無視した二人はふて腐れるミリファナスを見ている。

ミリファナスは女神の名に似合わず床に寝そべり、勝手にケイタの鞄から取り出したのであろう乾パンをかじりながら、無視された事に対してブツブツと悪態をついている。


『ボリバリ…なんです…ボリバリボリ…死ねです…ボリボリ…』


女神のくせに他者への死を望むとは如何なものか、と思うシネラがミリファナスに近づき話しかける。


「ねぇ、なんで無視されたのか分かる?」

『ボリボリ、知らないです!まず謝るです!』

「謝る?違うでしょミリファナス…ダグナマグナから聞いたよ――」


シネラに問われるミリファナスは寝そべったまま怒っている。しかしシネラは謝らない、先ほどダグナマグナとの作業中に教えてもらった事をミリファナスに話し始める。


「――あの麒麟は"ヘイス"(神の世界)で管理されていた神獣で、500年前にヘイスからどこかに逃げたって…」

『え、あわ…その…です…』

「しかも、本来なら来れないはずのラートゥルに逃げられたのは…ミリファナスが門を開けたままにしたからだってね?」

『あわわわっ!?』


シネラからの問いにミリファナスは顔を青ざめその場から逃げようとした。

それをダグナマグナが『逃がすかバカッ!』と叫んで影縛りで拘束する。

縛られたミリファナスに近づき、シネラはミリファナスの耳を引っ張る。


「逃げるのはそれが事実だからかなぁ?なにか言い訳はありますかミリファナスさん?」『い、痛いです!?痛いです!は、話すですです!?』

『言い訳なんかねぇだろ、あの内戦時にラートゥルに干渉したのはお前だけだからな…』


ダグナマグナもシネラと一緒にミリファナスの反対側の耳を引っ張る。


『ご、ごめんなさいです!許してくださいでーす!!』


両耳を引っ張られながら許しを乞うように謝罪するミリファナス。

ダグナマグナが『だとよ』とシネラにいい、シネラは一つため息をつきミリファナスの耳から手を放す。


『逃がしたのはしょうがねぇが、あの麒麟を…あそこまで憎悪の塊にしたのは何処のどいつだろうな…』

「虫も殺さないほど温厚だったんでしょ、ミリファナスはなにか知らないの?」

『うぅ〜痛い…』


ミリファナスは耳を擦っていて二人の会話を聞いていない。シネラが「ミリファナス!」と名前を叫んでからやっと二人に顔を向けた。


『わ、わからないです!?私も今ここに来てから麒麟の所在を知ったです!』


私は悪くないと言わんばかりに逆ギレしながら言うミリファナス。


「でた、言い訳じゃん…ちゃんとラートゥルを管理してない証拠だね」

『全くだ、俺様が異界にいた時にはすでに気づいてたぞ?…どうせ言われるまで麒麟の事を忘れてたんだろ…』

『あぅ…えぅ…』


二人の言葉に思い当たるふしがあるのか、ミリファナスはばつの悪そうな顔になり目の焦点が合っていない。

そんなミリファナスにダグナマグナが一枚の紙を渡す。


『俺様が記憶している麒麟と接触があった人物のリストだ。500年分は多すぎるからな、ここ100年分を書いてやった…しっかり調べとけ…』

『貴方に命令されるなんてっ!?――』

「あっ、消えちゃった…」


ダグナマグナは一方的に話すとミリファナスに使っていた秘密の魔法なの神の技なのか解らないものの魔力を切り、ミリファナスをこの場から消してしまった。

ダグナマグナの隣に結界装置を抱えたシネラがやって来る。


「大丈夫かな駄女子?」

『知らね…まっ、麒麟を元の世界に戻せばどうだっていいわ…』

「そうだけど…夢の中でミリファナスの話しを聞くの私なんだよね…」


めんどくさいと顔に出ているシネラにダグナマグナは『適当に聞いとけよ♪』と笑いながら答える。

少しムッとしたシネラだが、今やることの再確認としてダグナマグナに訊ねる。


「麒麟を引き付ける場所はゴーレムの間…私は最下層で待機…」

『…俺様の後に麒麟が入ってきたら、すかさず装置を取り付けて扉が閉まると同時に前の部屋に避難しろ…』


単純な事だが、シネラとダグナマグナは真面目に確認し合う。

一歩間違えればダグナマグナはおろかシネラも麒麟に殺られてしまう作戦だ。


「取り付けに失敗…第2案への移行判断は私が決める…で、いいんだよね?」

『ああ、俺様も直線上にいるはずだ。あの速度を麒麟が避けれることは無い…シネラの支援は出来なくなるがな…』

「しょうがないよ、その時は自分でなんとかする」


支援が出来ないとは、先ほどシネラが飛ばされダグナマグナが物理衝撃波の力を逃がした事である。

シネラはなんとかすると言うが、なにか策があるわけではない。それはダグナマグナも分かっているが麒麟を元の世界へ飛ばすため、シネラを助けるために回すほどの力は無いとすでにシネラに伝えてある。

どちらに転んでもシネラが危険に晒されるのには変わりはない。


『…くくっ、ミリファナスが聞いたらぜってぇ止めてるな…』

「かもね…でも、私に出来ることはしたいからさ。ミリファナスは関係ないよ…」


覚悟は決まっているはずだったシネラだが、結界装置を持つ手が震えているのをダグナマグナは見逃さない。しかしダグナマグナはその事を指摘しようとはしなかった。

何故なら、この結界装置を作動させるには特殊な魔力を注がなければならず、その魔力を持つ者はシネラしかいないからだ。

ダグナマグナはシネラの首から下げられた少し膨らみ小さくなった小袋を見る。

いつか夢見た宿敵との共闘が、今、この場で始まろうとしていた。





 「日ノ出か…」

「そろそろか?」


アドラスの呟きにクレナが訊ねる。アドラスは「注視しろ」とだけ言い、目を凝らして神殿の方向を監視し続ける。


「アドラス!?左、14時の方向だ!」


オリバの声に他三人が反応する。

オリバの示した方向に、この世界で古くから語り継がれている物が姿を現した。


「あれが、邪神竜の…」

「邪神の鱗から造られた人型兵器"巨人兵"…デカすぎるな…」


圧倒的なスケールの人型兵器を遠目から確認したアドラス達は、ただただ立ち尽くしかなかった。

それは巨人兵が樹海の木々よりも倍近く大きく、両手には燃え上がる短剣を持ち、背中には巨大なハンマーを背負っているからだ。


「ほんとに現れるとは…」

「クソ野郎ども!なに考えてんだよ!?」

「やつ等、復活派の気持ちなんて知りたくも無い…ほんとムカつく」


アドラス以外の三人が訝しい表情のまま巨人兵を眺めながら言葉にだす。


「情報の裏は取れた…クレナとオリバは協会に戻りマスターに報告。俺とマーニは捜索隊と合流してあれを対処する…」

「あいよ!」

「了解」


アドラスの指示にクレナとオリバは敬礼をしてその場から立ち去った。

残ったアドラスとマーニはまだ巨人兵を見ている。


「この世界と地球…どっちも滅んでほしくない…」


巨人兵を睨んでいるマーニが自身の想いを言葉に出した。その想いにアドラスも同意のようで「俺もだ…」とマーニの肩に手を乗せたながら言った。


「…まずは冒険者達とこの危機を脱出しないとな」

「うん…お父さんも来てるし、サクラ姉さんにはまだ勝てて無いから…絶対に死なせない」


マーニに熱いものが込み上げる。

マーニは、大好きな家族を守るために三日月に所属していて、冒険者になったのはそのあとだ。

実を言うと、アドラスよりも三日月に所属している期間は長く、三日月内の役職では"機動班班長"と、幹部役職に就いている。

この機動班は、全班員が冒険者との二足のわらじであり、三日月という組織の実働部隊となる。


「帰ったら必ず、(しん)を炙り出そう。アドラスさんが頼りだ…」

「おう、任せろブラザー。俺達の故郷を消滅させやしねーぜ」


二人の会話はここまでだ。

マーニとアドラスは捜索隊と合流すべく行動を開始する。


あの巨人兵は誰が何のために樹海へ送り込んだのか…

その事を知る三日月と、マーニの口からでた(しん)と言うものはいったい……





 薄暗い会議室のような部屋に、7名の人影が揺らめく。

中央にはラートゥル用の地球儀だろうか、ラートゥル義なるものが光とともに映し出されている。


「"巨人兵"の転移に成功した。あとは麒麟が旨くやれば…」

()殿、それは私の術が完璧ではないと仰いたいと言うことですかな?」


対面で座る二人が会話を始める。

最初に話し始めた伊という者がこの会の議長のような人物のようだ。


()殿、そう言う事ではないぞ?素晴らしくよい術じゃ」

()殿の言う通り、貴方の術が優れているのは皆が知っている。あまり熱り立つではない…」


老人のような口調の呂と女性の声の尼が渡に諭す。


「熱り立ってなどいませんよ。()殿の方はまだ何もしていませんからね、優雅に構えられて羨まし…」

「ええ、貴方のお陰で優雅に過ごせております」


渡は相手を苛立たせるような発言をするが、尼は取り合わない。

それに対し他の者も分かっているようで会話に入ってこない。


「其処らでよい、今はあのマルヤマの事だ。ヤツがいては巨人兵も無事ではすまんぞ…」

伊はラートゥル義をヨシオ・マルヤマの全身映像に変えて話す。

他6名は各々が言いたい事を言い始める。


「あの大戦で殺しておけばよかったな…」

「なんなら()殿が行けばいいのでは?」

「私でも勝てん、ヤツは人ではないからな…それなら()殿の方が――」

「俺がか?言い出した()殿が行けよ!」


元S級冒険者のマルヤマをめぐり、擦り付けあいが始まる。

それだけマルヤマが人外であり、ここにいる7名が足踏みするほどの人物なのだと改めて認識する。


「もうよい、すでに手は打ってある……あの勇者は正直者だが、ものは使いようだ…」


伊が映像を変えて勇者を映し出す。

他の6名もその映像を見て頷いているようだ。


「さあ、これだけでは復活は望めない。各々のやるべき事をやって頂きたい…散会」

「「「「「「解…」」」」」」


解散を告げた伊を残し、部屋からは6名の気配が消える。

そして伊もまた、その部屋から姿を消した。






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