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これぞ運命の女神です!

私は……死んだのかな………あの津波だし……冷たかった……苦しかった……………小咲ちゃん……


『大丈夫です、安心しなさい』


……大丈夫?…津波よ?飲み込まれたのよ!?


『勿論、貴女は一度死んだわ…でも貴女には使命がある、だから安心して目覚めなさい』


…使命って……私は死んだの!……死んでどう目覚めるのよ!……っげ!?


「っげ!?」


いきなりお腹を踏まれ、その勢いで目も見開き声も出る。


「何するの!?痛いじゃない!」


『やっと起きましたね、とりあえず要点だけ言います。1つは――』


――待って!?と声を出し周りを見渡すが、真っ白い空間で目の前には美しい女性がいるだけだ。


「貴女は誰なの?私は死んだ筈だけど……」


『……自己紹介ですね?わかりました……私は運命の女神ノルン、貴女をここに転移させて治療をしました………残念ですが時間がありません。佐々木友里、使命を果たし、運命を背負う者を助けなさい!』


女神は、姿がだんだんと薄くなっていく、友里は突然の事に混乱し、それでも矢継ぎ早に質問する。


「っちょ!!ここは何処!使命!?助ける?なんで私の名前……っ!消えるなー!………最後に、お腹を踏んだ事くらい謝れーーー!!」


女神は完全に消える。



「何なの……」


友里は、どうしたらいいかわからず座り込むが、お尻にひんやりとした感触を感じ下を向く、着ていた服が無く裸であった。


「なななっ!なんで全裸なの!?………えっ!!」


全裸の自分を見て違和感に気づく、看護長までなり仕事に己の人生を費やした独身中年女性だった友里は、自分の体調管理や体力の維持に気を付けていたが、やはり年齢を重ねる毎にシワやシミ、たるみや贅肉が目立っていた。それでも、化粧して制服を着れば目立たない程度にはスタイルを維持出来ていた。


「……すべすべ、モチモチ……二十歳の頃のキズも無い……若返ってる……胸も…小さくなってる……」


友里は転移者だが、先の災害で大怪我を負っていた。ノルンが治療をしたが、次いでに友里の細胞を活性化させ身体か若返ってたのだ。なんで?どうして?とパニック寸前の友里の前に、スッとドアらしき物が現れると、少し内側に開いた。


「……ここに入れと?…」


周りを見渡すが、目の前のドア意外は真っ白な空間しかなく、よしっ!と気合いを入れてドアを開き中へ進む、ドアの中は6畳ほどの部屋でどこかの小屋みたいな造りだ。

「…ここは日本……じゃ無いわよね、っん?何かしらこれ?」


ざっと部屋をみて、目の前にある大きな木箱を開ける。中には服や靴、バックと何故か短剣が2本、それと、木箱の蓋の内側に封筒が器用に挟まっていた。


「……手紙?」


手に取り、日本語で「ゆりさんへ」とミミズの様な字で書かれた封筒を裏返し、差出人を確認する。ご丁寧にこちらも日本語で「うんめいのめがみ のるん」と書かれてたいた。


「日本語、下手ね……」


と友里は呟き封を切ると、ふっと頭に何かが入って来る感覚を覚える。立ちくらみ?と思ったが、あまり気にせず中の手紙を読み始める。



『異世界ラトゥールへようこそ!

あなたは神々に選ばれし者、神々に愛された者です――』


!?手紙の冒頭を読み驚く、手紙は日本語ではなく見たこともない言語で書かれていた。先ほど手紙を出した封筒を見ると、日本語のままだ…


「…日本語ね、こっちは知らない文字だけど……何故読めるの?」


手紙と封筒を見比べるが謎は解けず、諦めて手紙の続きを読む。


『――この世界は魔物や竜、魔族など地球上では存在しない危険な生物が住まう場所です――』


魔物!?竜!?と驚き声に出す友里、病院でも危険な思いをしたのに、ここでも危険に晒されるのか!と心の中で叫ぶ。


『――ですが安心してください。

この世界は魔法や身体を鍛えることにより、それらの脅威を多少は振り払う事ができるでしょう――』


「――多少って……――」


『――そして、ここからが本題です。

ラトゥールには邪神竜と呼ばれる敵がいます。

それを討ち滅ぼす事が出来る「光の女神の加護」持つ者を捜すのです。

あなた方転移者に「邪神竜を倒せ」とはいいません、加護を持つ者と出会い、その時あなた方に力があるのであれば、その者を助け、導き、守り、支えとなってください。


神々に選ばれ愛された者よ、ラトゥールで幸あらんことを



PS 箱の中に色々あるので使ってくださいです!




運命の女神 ミリファナス』


ミリファナス?誰?と思ったが、大体の事は把握出来た。手紙を封筒に仕舞おうと封筒を取ると、中からカードが床に落ちる。


「メッセージカード?…」

拾い上げ、友里は内容を読む。


『ユリへ


治療を行うさい、力の加減を間違えました。

貴女の肉体は、13才頃まで若返りました。

せっかくなので、ラトゥールの生活を楽しんでください。


ノルンより 』



「…ありがた迷惑よ……」


と呟き、カードと手紙をしまう。


「裸のままだと風邪をひくわね…箱の中身も使っていいみたいだし、着替えよ」


ユリは服を漁り、「あ〜、う〜ん、これとか〜」と色々な服を着せ替える。

選んだ服を着てローブを身にまとい、両腰に短剣、背中にバックを背負い外へ繋がるドアへ向かう。


「…出た瞬間に、魔物とか出ないよね?」


と弱音を吐くが、意を決して外にでる。

異世界ラトゥールへ……



1年後、冒険者界隈で「凄腕の双魔剣使い」と呼ばれる様になるのはまた別の話しに……





『……行きましたね』


『……行きましたです』


ノルンとミリファナスが別空間でユリの出発を見届ける。


『ミリファナス、小咲さんはまだ起きませんか?』


『はいです……不甲斐ないです……』


ミリファナスは、しゅんとなりうつ向く


『仕方がないでしょう、私も言い過ぎましたが、貴女は先の大戦で力を使い、まだ回復していないのですから…』


ノルンは慰めの言葉を掛けるが、ミリファナスはうつ向いたままだ。


『……ふぅ、貴女は小咲さんの元へ戻りなさい、後は私がやっておきますから』


ミリファナスは、…はいです、とうつ向いたまま呟きその場から姿を消した。

ノルンはそれを見届け、自分も別の空間へ飛ぶ、そこには裸の女性が横たわり、だらしなくヨダレを垂らし、右手でお腹を掻きながら寝ていた。


『……』


汚い物を見る様な目付きで彼女を見下ろすノルンは右足を上げ顔に押し当てる。


ぐぎぃ〜!


『起きなさい…』


ノルンはドSだ、他の神々にもそうだか、転移者にも容赦がない。


運命の女神ノルンはこの作業を繰り返す。

地球で寿命を全う出来なかった者を救うため、ラトゥールを救うために……






「それで!その後はどうしたの!?」


『それで〜邪人の魔石をズバ〜ン!と突き抜いたです!!』


ミリファナス達は、シネラ(小咲)の前世アイナの話で盛り上がっていた。


「アイナ凄いじゃん!本当に私の前世なの!?」


『本当です!ラトゥールでは英雄として語り継がれてますです!』


へぇ〜!とシネラが感動しているとミリファナスの少し右後方が歪み、美しい女性が現れる。シネラは驚き凝視しているがミリファナスは気づかない


『本にもなってるです!私の名前も載っててっ!?――』


バシッ!と頭を叩かれるミリファナス、悪態をつきながら後ろを振り向くとそこには


『――ノノッ!ノルン様!?』


『ミリファナス…小咲さんが目覚めたら、私を呼びなさいと言いましたよね?』


『そそそっそれはですっ!?その〜、えーと〜、あれで〜――』



歪みから現れた女性は運命の女神ノルン。ミリファナスはアレコレと言い訳に言い訳を重ね、それに対してノルンは笑顔で説き伏せる。

勿論、目は笑ってない……上司に怒られる新米社員みたいな光景がそろそろ終わりそうだ。



『――ですね、わかりましたか?』


『…い、です……』


『わ・か・り・ま・し・た・か?』


『はっ、はいです!!』


終わった様だ…ノルンはシネラの方へやって来る。

『正座をして反省しなさい』と言われているミリファナスは、シネラの方へ向かうノルンに、『べーです』と舌をだし、こめかみの横で手をひらひらしている…反省していない……

ノルンが振り返ると慌て手を引っ込め舌を戻すがバレバレであり、ノルンに頭を叩かれる。これを3回繰り返し、シネラの前にノルンがやって来きた。


『貴女が小咲さ…シネラさんですね』


「……」


『あのー、シネラさん?』


口を開けたままノルンに見とれるシネラ…


「…しい……」


『…しい?』


「神々しいとは、この事か…」


静止状態から復活したシネラは、思わず心の声を漏らす。ノルンはその言葉に笑顔、と言うより優しく包み込む様な微笑みを浮かべる。


『ふふっ♪…運命の女神ノルンです。ミリファナスも運命の女神ですが?神々しいのは私だけでしょうか♪』


私も神々しいです!とミリファナスが騒ぐが、シネラはチラッとミリファナスを見て首を振る。


「ミリファナスは女神なんだけど……なんか抜けてて、言葉足らずで子供っぽいです」


『うふふっ♪シネラさんは、素晴らしい洞察力の持ち主ですね。

貴女が目覚めからずっとふたりの様子を観ていましたので、そう思われるのは致し方がないでしょ……』



……ですが…、とノルンは表情を真顔にし、ミリファナスを少し見てからシネラに向き直り、語りだす。


『…あの様な女神ですが、常にと言うわけではないのですよ。先ほど聴いていた大戦の時は、本当に頑張っていましたし――』


――ノルン様…と呟くミリファナス、目に涙を滲ませる。


『…それに、今も……シネラさんが転生し、目覚めるまでは、ずっと頑張っていました』


えっ?とシネラはミリファナスを見て目が合い、ミリファナスは目を反らす。


『貴女が、その身体になった理由は知っていますね?』


シネラはコクコクと頷く。


『転生後、貴女は中々目覚めなかった。私はミリファナスに貴女を見守り、目覚めたら私を呼ぶ様にと命じました。』


さっきの…とシネラは呟く


『そうです。…私がシネラさんにお会いした今は、この日は、命じてから約12年後です』


「っ!あれから12年も経ってるんですか!?」


『…驚くのはいいですがシネラさん、貴女は転生して独りでに目覚めたと思いますか?』


いきなりの質問に考える。答えは「はい」か「いいえ」しかない、シネラは後者を選ぶ…


「…いいえ」


『…「いいえ」ですか……その通りです。12年もの間、ミリファナスは貴女の身体をずっと見守りました。眠り続ける貴女とふたりで…』


…想像出来ますか?そう言われ…12年…いつ目覚めるか解らない、喋らない私、見守るミリファナス……想像しただけで、気が狂いそうだった。


「気が、狂いそうです…」


『…人間の貴女がそうであるように、寿命の概念の無い私達でも根を上げるでしょう。ミリファナスは言わなかった様ですが……』


そう言われて返す言葉が無いシネラ、ミリファナスを見るが、彼女は正座を続けながら顔はうつ向いている。


『……貴女は今、その事を知りました。彼女は貴女が目覚めた事を大変喜んでいましたね?ですがそれは、12年間も見守り続け、待ち望んでいたからです……シネラさん、貴女はその事に対し言うことはありませんか?』


そうノルンに言われ、シネラはミリファナスの元へ行き、彼女と同じ様に正座をする。暫し見つめ合い自信の気持ちを伝える。


「ミリファナスさん……私を……『私達を見守っくれて、ありがとう!』」


ミリファナスは目を見開き、次第に大粒の涙を流し泣きだした。シネラは「そんなに泣かなくても…」とおろおろするが、ノルンはその理由がわかる。

シネラが言葉を詰まらせ言い直した時、一瞬だけシネラの身体がアイナに見え、声も変わったのだ。

シネラはラトゥールへ行ってから判る事だが、アイナが亡くなり小咲へと転生しするまで1780年かかった。転生した小咲は16年生き、転生して目覚めるまでに12年、ミリファナスは約1800年間も待った。

待ち続けていた時の寂しさが喜び変わり、約1800年間溜め込んだ感情が涙となって溢れ出たのだ。


ノルンは、未だに泣き続けるミリファナスと、彼女の周りをおろおろと回るシネラを優しく微笑みながら見守る。

普段なら頭を叩き『泣き止みなさい!仕事をしなさい!』と叱責するが、今だけは、ご褒美…とまでは言わないが、約1800年も待っていた事への労いとして、彼女の気がすむまで自分が待つことにする。

ノルンはドSで怖い上司だか、アメとムチは使い分けれる女神なのだ……







『……さて、ミリファナスの喚きも収まりましたね?始めますよ?』


部下には厳しく!たまに優しく!のノルンは、仕事を再開する合図と、気持ちを切り替える意味でミリファナスにキツく言い放つ。ミリファナスも付き合いが長いので『はいです!』と言い立ち上がり準備にかかる。


「何をするの?」


とシネラはノルンに聞く。


『貴女をこの空間に、いつまでも居させる事は出来ません。ミリファナスが仕事をしなくなります』


「……それって、私のせいになるの……」


うふふっ♪冗談ですよ…と言いシネラの頭を撫でるノルン、しばらく撫で続けられながらミリファナスを見守っていると、こちらに戻ってきた。


『起動準備が出来ましたです!』


『…では始めましょう。まずは、転移予行陣を起動しなさい』


『はいです!』


外野感が丸出しのシネラは、ミリファナスの作業を観つつノルンに説明を求める。


「あの床の模様は?本当にこれから何をするの?」


『あれの模様は転移陣を表したもので、貴女をラトゥールへ転移させる魔法陣です。先ほど指示をだし転移予行陣は、彼女の力が弱っていて失敗する恐れがあるため、予行用の転移陣を使い安全を確かめるのです』


成る程〜と納得するシネラにノルンは説明を続け、ミリファナスが準備万端の合図をこちら送っているのを確認する。


『転移陣は肉体を持つ者しか転移出来ません……!準備が整ったようですね、シネラさん?貴女が予行陣に乗り、彼女の助手をするのですよ?』


さも当たり前の様に真顔で言い放つノルンは『早くお乗りなさい』とシネラを転移予行陣へ押し込み身体が乗ると紋様が発光する。


『転移!』


『転移!です!』


「…ちょっ!まっ!………」


ブンッ


シネラは転移したが、予行なので数秒ほどで元の転移陣に戻ってくる……筈だが、10秒…30秒………1分……………5分……


『……戻って来ないです』


『戻って来ないわね……』


ノルンは転移予行陣の紋様を見る…見る?…!?


『転移強行陣!』


『え〜です!?強行陣ですー!?』


ミリファナスも見る。

やはり強行と書かれていた。

予行は通常の転移陣と同じ魔力を消費し転移したところへ戻ってくる云わば練習用魔法陣だ。通常の転移陣は場所を指定できるが大量の魔力を消費する。それに対し、転移強行陣は場所の指定は出来ないが少量の魔力で転移できる魔法陣である。


『ささっ捜すです!?』


ミリファナスは慌てラトゥールの世界を視る。


『……安全な所にいればいいのだけど…』


ノルンは冷静にミリファナスが視るラトゥールを覗く、シネラは直ぐに見つかった。


『座標!座標です!転移陣を――』


『――そのままで良いでしょう』


『えっです!?あそこの森は猛獣がでるです!早く助けないとです!!』


焦るミリファナスに、ノルンは微笑みながら言った。


『よく見なさい、あの娘なら大丈夫…任せましょう』


『……あの娘は、シネラと一緒に……』


ノルンは頷き『もう安心ね♪』と言い残し姿を消した。

残ったミリファナスは、彼女達が映るラトゥールを見つめ、不安がっていた顔が笑顔になる。


運命とはよく言ったモノだが、これを見せられたら納得するしかない…運命の女神の力を……




しばらくシネラを眺めていたミリファナスは、静かに戻ってきたノルンに頭を叩かれる。

『これからやるつもりだったです〜』と言い残し襟を掴まれてその場から消える。

残ったのは、ラトゥールが見える空間魔法と、その中に映るシネラ達だけだった。





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