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41話:私は、生きている…

 白黄樹海で一番神聖な場所は、二人の男女が言い争いをするような場所ではない。

しかしそんな事はお構い無しで二人は互いを蔑む発言を繰返していた。


『クソトカゲめ、です!』

『バカにクソと呼ばれる筋合いはねぇよ!話し聞けバカ!』

『バカは貴方です!』

『バカはお前だバカ!』


シネラは言い争う声に反応したのか、耳をピクッと動かして顔をあげる。

目を擦りながら二人を確認すると、シネラはボソリと呟いた。


「あっ、駄女子だぁ…」


まだ寝ぼけ眼なシネラだが、目の前にいるのがダクナマグナ(ケイタ)とミリファナスだとわかっているようだ。


『ミリファナスです!』

駄女子(バカ)だろ?』


シネラの発言にミリファナスが訂正するが、ダクナマグナが被せるようにバカにバカと言う。

シネラはまだ寝ぼけており、立ち上がるとすぐによろめきミリファナスのお尻に顔を突っ込む。


『シネラちゃん!?そこはお尻です!』

「…む〜」


お尻をわしづかみされるミリファナスはシネラを剥がす。

シネラはまた目を擦り、そしてミリファナスを見ると瞼を大きく見開いて驚く。


「だ、駄女子!?」

『ミリファナスー!』

『くくくっ、駄女子(バカ)に違いねぇ』


駄女子発言にミリファナスは激しく訂正する。

ダクナマグナには『黙れです!』と強気の口調で敵意剥き出しだ。


「なんでミリファナスがいるの!?…夢?でもダクナマグナがいるし、石像も…あれ?」


この状況に混乱するシネラにミリファナスはいつものように椅子とテーブルを出現させ、シネラを椅子に座らせるとため息をついてから話し始める。


『はぁ〜、本来ならここにシネラちゃんが来るのはずっと先になるんです。でもあのトカゲが…まあ、ある程度は聞いたと思いますですが、ここは試練を越えて初めて辿り着ける場所で、神から加護を受け取れる場所でもありますです…』

「うん、ダクナマグナから聞いたから知ってる…まずミリファナスはそのー、加護をくれる神なの?」


『バカが加護を?あり得ねぇよ…こいつを呼んだのは状況説明のためだ。早く説明しろ…』


シネラの質問にダクナマグナが答えるが、ミリファナスはダクナマグナに言われた途端に『黙れトカゲが、です!』とテーブルを叩きながら食ってか(掛)かる。

シネラが「うるさい」と静に言うがミリファナスは落ち着きを取り戻そうとはせず、ダクナマグナを敵対視する様子が伺えたので、それを知ったところでシネラには何も出来ないがとりあえず訳を訊ねてみる。


「ミリファナスは何で怒ってるの?」

『怒って当然です!このトカゲは長い間、異界の理を壊し続けた精神体だったです!

応竜だった時からクソトカゲだったですが、精神体になってまで神々をバカにしそのた所業!?許すまじですです!』

「そうなんだぁ」


ミリファナスの説明にシネラはチラリとダクナマグナを見るが、ダクナマグナは欠伸をしながら知らん顔をしている。

ミリファナスが壊したと言うが、たぶんダクナマグナにとっては遊びでやった事だと思ったシネラは、その理を壊した理由を当の本人に訊ねてみる。


「らしいけどぉ〜、どうなの?」

『バカは理解が足りねぇんだな…いいかシネラ、俺様は神と同等だ…遊びもそれなりになるし、そこにバカ共が作った物があれば壊したくなる。それが自然だろ?』

「私に聞かれてもぉ〜」


『自然だ、じゃないです!今までどれだけ苦労をしたことか…謝らないし、悪びれない態度はなんです!?ふざけろでーす!』

『お前、バカ…俺様、神!』


反省などしないと顔に書いてそうなドヤ顔で答えるダクナマグナ。シネラは戸惑い呆れているが、ミリファナスはその発言に再度熱を帯ながらバンバンとテーブルを叩いて激怒する。

そして喚きながらダクナマグナに突進しようとした所をシネラが「落ち着けー!」とミリファナスにしがみつく。


「今それどころじゃなんでしょ!?ダクナマグナも火に油を注がないで!」

『こいつが悪いねぇ〜。俺様の力で呼んでやったのに礼の1つもしねぇからなぁ』

『誰も呼んで欲しいなんて言ってないです!大きなお世話です!』


もう埒が明かないとシネラ感じて大きな声で「ミリファナス!!」と叫びテーブルを叩いた。

ドンッ!とテーブルを叩く音にミリファナスとダクナマグナの言い争う声が止み、シネラが唸る姿に二人は渋々といった感じて着席した。


「もう、過去に何かあったかも知れないけど、今はミリファナスに聞きたい事があるの…まずは私はどうして日本語を理解できないの?」


ミリファナスが座るのを確認してからすぐに本題を話し始める。

しかしミリファナスは口をへの字にしたまましゃべろうとしない。

シネラが「何で?」と催促するように訊ねるが、声を出したのはダクナマグナだ。


『お前はまだ死んじゃぁいないって事だ…だろ?アーテラ…』

「え…」


『……』


その意味にシネラは頭が混乱する。

ダクナマグナは何も言わないミリファナスを見ながら鼻で笑い話を続ける。


『なにが理だ、お前等も理から外れてんじゃねぇか…わざわざ魂を離体させてこの身体に移した理由はあれか?前の身体に何かしらの欠陥があったんだろ?』


腕を組み直し『どうなんだ?』とダクナマグナはミリファナスに問う。

ミリファナスは下を向いたまままだ何も話さない。


「ダクナマグナ…それって、もしかして私の…」

『ん?ああ、お前は転生者じゃねぇ…奪生(だつせい)者だ。他者の肉体に無理矢理魂を埋め込まれた、言わば俺様と同じ異特な存在だな…』


そう言うとダクナマグナはミリファナスを睨み付ける。

ミリファナスはビクッと身体を震わせるがダクナマグナはおろかシネラとも目を合わせようとはしない。

シネラはそんなミリファナスの前に椅子を降りて横に立つ。


「そ、そんなの…嘘だよね?…ね、ミリファナス?」

『……です…』


あまりにも小さな声はシネラでさえ聞き取れない。シネラが「ちゃんと答えてよ!」とミリファナスの腕を掴む。


『本当、です…今まで黙ってて、ごめんなさいです…』

「そんな…じゃぁ私は無理矢理――」


シネラはミリファナスの腕から手を放して一歩ほど後退る。

それを今まで黙っていたミリファナスがシネラの手を取りその場に留める。


『――違うです!?これしかシネラちゃんを救う方法が無かったです!む、無理矢理じゃないんです…信じて――』

「――嘘つき!!私の身体…他人の身体に移して、私の身体は…魂だけ…うっ、うぅ…」


混乱するシネラは「放して!」と腕を払いのけて記憶の間の隅に行ってしまう。

ダクナマグナが『追うな』とシネラを追おうとしたミリファナスを止めて椅子に座るよう目で訴える。


『パルザイムどもの指示だろ…』

『…そう、です…』


ダクナマグナは『胸糞わりぃな…』と呟いて自身も椅子に座る。

ミリファナスの目からは動揺している事が伺えるがダクナマグナは話を続ける。


『神が人を殺すことはよくある事だ。そして転生もな…シネラ、小咲は生きていた、パルザイムは神祈を使い転生しろと言ったんだろ?だがお前は出来なかった。アイナを二度も自分の手で殺したくなかった…』

『……』


また黙り込むミリファナス。それをダクナマグナは肯定と受け取った。


『加護に適合する死者を何年も待ち続け、そしてその死者が現れ移魂し、奪生者を転生者として偽り報告…それまではノルン辺りが適当に報告してパルザイムの目を欺いた…だな?』

『その通り、です…シネラちゃんの重荷に成らないようにとノルン様と一緒に移魂の義を行い、実際にはまだ生きている小咲ちゃんの身体には記憶の一部…魂片を残し、そのときの影響で記憶の一部がシネラちゃんから抜け落ちているです…』


心の底から申し訳ないと思うミリファナスは隅にいるシネラを見て塞ぎ込む。

12年間もシネラが目覚めるのを待っていたと嘘をつき、実際には12年間もの間を小咲の身体を生き長らえさせることに費やして、今のシネラの身体を持っていた人物が死者となり、そして移魂したということだ。

ミリファナスとノルンはシネラに他人の身体で生きられているという事を重荷に感じて欲しくないと思い、嘘をついて黙っていた。

まさかダクナマグナがシネラをここに連れて来るとは思いもしなかったようだが…


『なら、シネラにちゃんと自分の声で謝りに行け…アイツはどうせ聞こえてるがな…』


ダクナマグナは『耳がいいのも困んだよなぁ〜』とシネラに言ったんだろうか、ミリファナスに目で早く行けと言いう。

その意図は理解できたが嘘をついた事への罪悪感からか、ミリファナスは怖ず怖ずしながらシネラの元へ向かった。


「ぐすっ……なによ」


シネラはミリファナスが近づくのを足音でわかってたが、身体は背中を向けたままで用件を聞く。


『う、嘘をついてごめんなさいです!?』


行きなり謝るミリファナスにシネラは「理由が無い…」と、謝罪の明確な説明を求める。

本当は全て聞こえていたが、ミリファナス本人から聞きたいようでダクナマグナが言った通りになった。

ミリファナスは先ほどの話を丁寧にシネラに説明する。途中途中でミリファナスの想いが伝わる。

説明が終わり、再度シネラに謝罪するとシネラはぴょこんと立ち上がり、正座をしていたミリファナスの頬をペチンと叩いた。


『…え?』

「これで終わり!ミリファナスは私の事を想ってそうしたんでしょ?だからもう謝るのは無し!私だって、もう子供じゃないから…」


頬を掻きながら照れ臭そうにするシネラ。

それは途中からミリファナスが説明というよりもアイナと小咲、シネラをこれでもかと言うくらいの愛を語っていたからだ。

しかもシネラの耳にはダクナマグナが爆笑している声まで聞こえる始末で、聞いているこっちが恥ずかしくなるものだった。


『でも嘘を――』

「――いいから戻るよ、駄女子!」


まだ謝罪を続けようとするミリファナスを引っ張りダクナマグナが座るテーブルまで戻る。

テーブルに戻るとダクナマグナが『愛されてんなぁ♪』とニヤニヤしながらシネラをおちょくるので、シネラは「うるさい」と一言で釘をさす。

今までならダクナマグナは笑うのを止めないが、意外にも素直に笑うのを止めた。


『さてと…アーテラ、麒麟が動いたぞ?どうすんだ?』

『えっ!?麒麟がですか!?…ダクナマグナが魔獣を従えたてるのだとばかり…』


麒麟と聞いてミリファナスは椅子を倒すほど勢いよく立ち上がり驚いている。


『はあ?バカかお前は?ヤツはまだ魔力を集めてる段階だ、俺ばかり見てっから見落とすんだぞ』

「よくノルンさんにも言われてるよね?」

『うぐぐぅ…』


二人に言われて返す言葉が無いミリファナスは悔しさを滲ませる。

そして何かを言い返そうとするとシネラから「言い訳は無し!」と釘をさされてしまう。


『…まあいい…今、麒麟を送還出来るのは俺様くらいだ、アーテラは帰って寝てろ…』

『また自分勝手な…麒麟がいるなら私の四方神界が必要になるです。間違いないです!』


ダクナマグナに戦力外を言い渡されたミリファナスは鼻息を荒くしながら自らの必要性を説く。

しかしダクナマグナは『バカだな』と言ってから、ミリファナスを指差しながら言った。


『お前、ここから出られないだろ?しかも魔力は俺様のだ。考えてからものを言え…』

『わ、忘れてたです…ならどうするのですか!?麒麟は貴方と同じ精神体です。ラトゥールにいる結界魔法士では捕らえきれないですです!』


冷静な物言いのダクナマグナにミリファナスの話す口調に熱がこもる。

シネラはまた言い争いになるかもしれないと思いダクナマグナに質問した。


「麒麟は倒すんじゃないの?なんで送還?」


先ほどダクナマグナが送還と口にしたことに対しての疑問だ。

ダクナマグナはシネラに顔を向けて説明する


『神々を殺すことは出来ない。俺様もアーテラも一生死なねぇ…ただ唯一、シネラの持つ"神滅の光"だけが神を殺すせる訳だが…忘れたか?』

「わ…うん、今思い出した…」


忘れてたと言わない辺りがシネラらしい…と、ダクナマグナとミリファナスは思った。


「私はまだチンチクリンだから、麒麟を倒せないんだよね…」

『そうだ、だから俺様が異界へ送還する。気に病むなよ?俺様がいたことに感謝すればいい』

『…疫病神の間違いです…』


シネラが不甲斐ないと感じているのをダクナマグナは気にするなといった感じで言う。

ミリファナスがボソリと呟くがそれも気にしていないようだ。


「感謝感謝〜…で、私はどうすればいいの?自慢じゃないけどものすごーっく弱いけど?」


軽く礼を言うシネラの問いに、ダクナマグナは今まで以上のニヤニヤ顔を張り付けて不敵な笑い声を漏らす。


『いいか、よく聞けよ――』


ニヤニヤしながら説明しだしたダクナマグナの話を聞いたシネラは「…マジっすか」と日頃は使わない言葉で聞き返す。

ダクナマグナも『本気(マジ)だぜ!』と、おちゃらけたように返してくる。


なにがなんだか解らないミリファナスを置き去りに、シネラとダクナマグナは頷き合いケイタの鞄を漁り始める。


ミリファナスが『なんです?なんです?』と興味深く眺めているが、シネラとダクナマグナは黙々と何かを積立てている。


二人は何をするつもりなのか?その時は刻々と夜明けとともに迫っていた…






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