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37話:追われる者の後ろには…

 「ユリさん!」

「ユリー!」


ユリを追いかけていたモニカとサクラは辺りを見渡す。

全速力で追ってきたはずが、未だにその姿を見つけることが出来ないでいた。


「モニカ、さっきから――」

「――えぇ、この先に何かいるわ…ユリさんと関係無いから後回しよ…」


「けど近づいて来てる。放っておけば後からくるセルビオ達には荷が重いよ!?」


こちらに少しずつ近づいてくる気を感じ取ったサクラは、セルビオ達では勝てないと思いモニカに自分達で対処するよう進言する。

サクラはB級だが実力はA級並みで、感じた気の強さから自分達なら倒せると踏んでいる。

そしてモニカは、実力もそのランクも正真正銘のA級なのだ、今はユリの事も大事だが、目の前の脅威にも対処しなければならない。

だがモニカは上級者であるがゆえに、サクラの進言を拒否する。


「ユリさんの覚醒を止めるのが先よ!みんな雷華に巻き込まれて死んでもいいわけ!!」


「そうだけど!…この気は高位魔獣だってモニカも気づいてるでしょ!?だったら――」


サクラはモニカの言葉には食い下がらない。

セルビオ達だけではない、ここで食い止めなければ捜索隊や講習組のいる本陣まで被害がおよぶ。

モニカもわかっているはずだが、今はユリを止めることだけに執着している。

そのモニカに対し怒りがこみ上げそうになるサクラは、こちらに向かってくる魔獣の方から誰かの声がするのに気づく。


「――声がした…人の…」

「……そうやって私を魔獣まで誘導するつもり?今大事なのはユリさん――」


「――いい加減にしろモニカ!!大事大事って言うけど、すぐ近くに助けを求めてるかもしれない人が要るのに、今、助けないでどうするのよ!?」


どこまでもユリに執着しようとするモニカにサクラは激怒する。

モニカは顔をしかめるが、自身にも人の声と魔獣の雄叫びが聞こえてくると表情を変える。


「……わかったわよ…」


モニカは苦虫を潰した様な表情で言ったが、どこか納得していない感じだ。

それでも目前と迫りくる魔獣を無視できなくなったモニカは腰に携えた剣を抜いた。

モニカが剣を抜いたのを確認したサクラも、魔剣カルフレアを抜いて構える。


「まだ距離がある…ギリギリまで魔獣が近づいたら覚醒するから、モニカは攻撃魔法で魔獣の動きを封じてくれない?」


「無理よ、なんのために剣を抜いたと思っているの?ここは神殿域外苑部なのよ?」

「そうだった…ごめん今のなし…」


そうここは樹海であり、さらに神殿に近づくにつれ魔法が使えなくなる神殿域外苑部なのだ。

ユリ達、転移者であるならば神殿域の魔力磁場を跳ね返せる魔力を持ち合わせているが、そうでないモニカにサクラの策は却下された。


「あと、覚醒は止めておいて…もし倒せなかったかったら…サクラをおぶって逃げるなんて私には無理よ?」


付け加える様に話すモニカは、サクラの豊満な胸を叩きながら言う。

サクラは覚醒の使用後に必ず全身に反動が出て、喋ること以外は自力で動けなくなる。

昔からサクラを知っているモニカもそのことは熟知しており、もしも魔獣を倒せなかった場合はどうなるのかとサクラに問いたいわけだ。

そんなサクラはモニカの問いに何故か驚いた顔をする。


「……そうだった…」


「そうだったって…あんたは相変わらずねぇ…後先考えずに行動すると早死にするわよ?」


今思い出したとばかりに呟くサクラにモニカは呆れた様子で言うが、サクラのお蔭か…先ほどまでの苛立ちが薄れ、目前の魔獣に注意を集中することができた。


たぶんサクラは素なのだろうが、こういった緊迫した状況下でもアドラスのボケ程ではないが周囲を驚かせる様なことを喋ることが多々あり、大抵の場合は言われた事や教えられたことを忘れていて、そのままその場で思ったことを口走るのがサクラなのだ。

サクラはばつが悪そうな表情で「りょ、了解です…」と言い、魔剣カルフレアを握り直し魔獣のいる方へ体を向ける。


「…さぁ、まずは私が魔獣の足止めをするから、追われている人の救助は頼んだわね…」

「追われている人をこっちに向かってくるセルビオ達に引き継いで、スグりんと一緒に戻ってくればいいのね!?」


「そう、愛しの同居人であるナカジマを連れてきてちょうだい♪」

「お、おちょくるなー!?」


モニカの指示に、これまた意外にもサクラは次にモニカが言うであろうことを訊ねる。

ついさっきまではユリのことで焦りを表しサクラのお蔭で心に余裕ができたモニカはサクラに嫌みの籠った言葉で返し、サクラは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

三十路過ぎのサクラが恥ずかしがるのをモニカはある人物とは対照的だと感じ、声には出さないが心の中で笑いながら(ふふっ…行き遅れとは大違いね♪)と思った。


「ニヤついてる場合じゃないよモニカ!」

「…わかってるわよ…」


けたたましい雄叫びを発する魔獣は周辺の木々をなぎ倒しながら轟音とともに二人の元へ接近してくる。

その前にはサクラが聞こえた声の主らしき男女と、講習組の案内役として同行していたはずのナナイが真っ直ぐ向かってくる。


「な、なんでナナイが!?」

「麒人族の人……他の二人はダリシアの協会で見かけた事があるよ!」


こちらに逃げていくる3人の姿を視認した二人は驚きを隠せない。

本来ここには居ないはずのナナイと、ダリシアにいるはずの協会職員が魔獣に追われているのだ。

その内の一人の女性はナナイが前で抱き、右足の太股から下が無くなっていた。

男性の方も装備している防具がボロボロになっている。

戸惑う二人だが互いに目を合わせて頷き合うと、当初予定いた事は破棄して同時に地面を蹴る。

二人は木の枝をまるで忍者の様に飛び移り、ナナイ達の頭上まで来ると魔獣を警戒しながら下にいるナナイ達に叫ぶ。


「そこの3人!そのまま全力で真っ直ぐ行きなさい」

「私たちが足止めしている間にナカジマと合流して!」


「モニカ、何故ここに!?」

「いいから早く!?ナナイはその娘を拠点まで連れていきなさい!」


モニカ達の叫ぶ声にナナイ達は立ち止まる。

そのまま行けと言ったのに足を止めたナナイにモニカは苛立ち、ナナイの声に振り向きもせず叫びながら言った。


『ガギャァーー!!』


「早く!」

「行けー!」


魔獣の叫びが空気を振動させる。

モニカとサクラは目前に迫る魔獣との戦いに、今の自分達には負傷者を守りながら戦えるほどの強さが無いことを自覚している。

二人は怒鳴る様に叫び、ナナイ達へここから離れるよう促す。


「…わかった!必ず戻って来る。それまで死ぬな!」


ナナイはそう叫ぶと男性に声をかけ、瀕死の女性を抱え直してからモニカの指示通り真っ直ぐ走り始めた。

ナナイ達が去るのを気配だけで感じとった二人は、姿を見せた魔獣を見て額に汗を滲ませる。


「……まさか、Sランクだなんて…」

「足止めだけしか出来ないかも…」


お互いに剣を握り直し、超大型魔獣の姿をまじまじと見る。

その姿は樹齢1000年以上の木々と同等かそれよりも高く顔は人狼に近いが上半身は鋼の鱗を纏い、下半身は足の短い馬の様な形で4本の腕を持つ異様な姿の魔獣だ。

そしてモニカの言うSランクとは、魔獣の危険度を示すもので、それに伴う討伐依頼を受けられる冒険者パーティーのランクも同様であり、下から…


Cランク、旧ミ(ミュア族)級

※C級パーティー。


Bランク、旧マ(魔族)級

※B級パーティー又は三個パーティー以上のC級パーティー。


Aランク、旧災害級

※A級パーティー又は二個以上のB級パーティー。


Sランク、旧大災害級

※一人以上のS級冒険者、並びに二個パーティー以上のA級パーティー又は五個パーティー以上のB級パーティー。


SSランク、旧天災級

五人以上のS級冒険者、並びに十個パーティー以上のA級パーティーと師団以上の軍を帯同。


SSSランク、旧神罰級

※持てる全ての戦力を投入して対処しなければならない。


と、示されている。


「…サクラ」

「なに?」


「覚醒していいわよ…」

「…そのつもりだよ」


さすがにサクラの覚醒を禁止したら即死してしまうと思ったモニカは横目でサクラを見ながら言う。

許可が下りたサクラは「覚醒!」と叫び、金色のオーラが身体を包む。

モニカは気を練り上げ集中力を高める。


「もって8分!」

「それだけあればセルビオ達がこっちに到着するはずよ」


「了解、行くよ!」

「死ぬ気で止めるわよ!」


二人は淡白く光る大樹の枝から跳躍し、モニカとサクラだけの超大型魔獣との戦闘が始まる。






 「うぐぐぅ〜!?」


シネラは石造りでできた壁に彫られている古代文字を眺め、広い部屋の中央にある円状の台によじ登り、台の真ん中にある石碑の前まで行く。


「これは?」

『んあ?御歌呉みかご)碑だぞ?…お前達、人族が作ったんだぜ?』


石碑にも古代文字が彫られ、シネラは声に出してそれを読む。


「『償い悲しみ背負う成れば苦国を生まず。

苦して死するは我が心。

亜しき心の悪心を断ち、深き罪の我が心を民に捧ぐ。

照し差すは義の光。

民の意、この身滅びるまで…』」


誓いの言葉ともとれる石碑の文字に、シネラは心の奥底からモヤモヤしたものが込み上げる。

罪悪感に近い感情がシネラの心を揺さぶり、シネラはその場にうずくまる。


『ソコに彫られてんのは、アイナが邪神竜から人間側に寝返った時に書いたやつを、フォールがあちこちに作らせてたぜ!』


ダグナマグナは円状の台の一部を器用に外しながら話す。

シネラがうずくまるのには気づいてはいるが、外した所から小さな木箱を取り出してシネラの前に置いた。


「木箱…」

『開けてみろ』


シネラはダグナマグナに促され木箱の蓋を開ける。

中には黄色の透き通るキレイな石が一つだけ入っており、それをシネラが手に取り感触や色合いを確かめる。


「高そうな宝石〜…」

『…それはお前にやる…いや、返すわ』


「私に!?…た、高そう…」


返すと言われ、高そうな石を渡されて困るシネラ。

ダグナマグナはその場に座り、あぐらをかいて石を見ながら話し出す。


『そいつはアイナの光魔法を凝縮して出来た石だ…しかもその石にはとんでもねぇほどの魔力が入ってる…

たぶんだが、一回だけなら魔法を発動できっかもしんねぇからシネラが持ってた方がいいだろ…まあ、お守り代りだな!』


「この魔力がアイナの…なんか懐かしいかも…ありがとう♪」


アイナの魔力を感じ取り、何故だか先ほどの罪悪感は薄れていった。

シネラはありがたく石をお守り代りに頂こうと思いダグナマグナにお礼を言う。

ダグナマグナは嬉しそうにしているシネラを見ている。

だがダグナマグナはニヤつきながらシネラが知りたくなかったことを口走った。


『応竜だった頃に糞をしたら出てきたぜ♪』


「……うわーー!?」

『いでっ!?』


ダグナマグナの発言に数秒間思考が停止したシネラは、持っている石をダグナマグナに向けて投げつける。

見事、シネラの投げた石はダグナマグナの額に当たって額に張りついた。

的の小さい頭部を狙うのは至難であるが…まあ、シネラのコントロールが抜群に良いから当たったのだろう…


「その石、ダグナマグナのウンコじゃん!?」

『糞と一緒に出てきただけで、こいつは俺様の糞じゃーっねぇ!!』


ダグナマグナは熱り立つシネラにウンコ呼ばわりされた石を投げ返す。

シネラは身を屈めてウンコ…石を避ける。


『避けんな!やるって言ってんだろ!』

「さっき糞と一緒にて、言ってたじゃん!?汚い!要らない!臭い!!」


『ちゃんと洗ったわ!?匂いなんてしねぇだろがっ!』

「獣人族の嗅覚は優れてるの!私が臭いって言ったら臭いの!!」


臭い臭く無いと言い争う二人。

数分ほど続けたが、さすがに年長のダグナマグナが折れて石を拾いにいく。

一方シネラは木箱を足で蹴りつつ、ダグナマグナが開けた穴に木箱を押し込んでいる。


『おいシネラ…』


汚らわしい物を見た目付きでダグナマグナを見るシネラ。

ダグナマグナの右手には小さな巾着袋があり、膨らんでいるところを見ると中身は石が入ってるのだろう。


『睨むんじゃねぇよ…一応はお前のために保管してたんだ、首に下げて持っとけ…』


「……ありがと…」


嫌がるシネラに、配慮と言う言葉が似合わないダグナマグナからの少しばかりの心遣いを大人げなく突き返すのは気がひけると思ったシネラは、差し出された巾着袋を受け取った。


『そういや〜、ここに来た理由を伝え忘れたな…』

「御歌呉の石碑とウン…この石だけじゃないの?」


『くくくっ…そんなちんけな物はただの前座だ…ここにはバカに会いに来た…』

「…バカ?」


ダグナマグナは軽々と台から石碑を外し、その石碑が有った場所には地下へ続く階段が現れる。


「階段…この下にバカがいるの?」

『今はいねぇが、下に行けばバカを呼べんだ…とりあえずおりるぞ…』


促されるままシネラはあとをついていく。

ダグナマグナはいったい誰に会いに来たのか…

薄明かるい長い階段を降りきると、そこは……






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