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35話:講習4日目、ユリ…敗北…

 ケイタ(ダグナマグナ)と対峙する捜索隊達…

ダグナマグナは不敵な笑みを浮かべ捜索隊本陣を見渡している。


『ふん〜、全部で58人かぁ…一番強そうな奴は……』


「…なに!」

「消えたぞ!?」


捜索隊と講習組の総数を言い当てたダグナマグナはヘクタ達の前から姿を消す。


『うぎゃー!』


姿を消した直後、ダグナマグナはシネラが仮眠する天幕から吹き飛ばされてきた。


『ぎ…ぐ、いっつぇーなぁ!?』


「女子の寝床に入り込むなど愚かな方ですね?」


間違いなくダグナマグナを吹き飛ばしたのはユリである。

両手に魔剣を持ち、魔力高めつつダグナマグナに詰め寄る。


『はぁん?ババアに用はねぇんだよ!』


ダグナマグナの一言に場は凍りつく…

間違えではではない…ユリは容姿こそ若いが年齢は五十歳を過ぎたオバちゃんなのだ。

ダグナマグナは魂の波長を読むことができるため、ユリの実年齢などお見通しだ。


「ババアより弱い方が、この先に行けるとでも?」


ユリを無視して先ほどの天幕に行こうとするダグナマグナを、ユリは双剣で牽制し行く手を阻む。


『殺んのかババアァ?』


「…殺れるものなら…」


ダグナマグナは背に負った剣を構える。

ユリがその隙を見逃さず、ダグナマグナの首をはねようと踏み込んだ。


『うわっ!?普通待つだろぉ!』


危うく頭と胴体が切り離される寸前のところで後ろに回避するダグナマグナ。


「知りません」


ユリの剣技はダグナマグナにかすりもしない、すでにダグナマグナは闇魔法を使用しておりユリが斬りかかっているのは影でできたダグナマグナだ。


『うぜぇよ!』


「きゃ!?」


影の後ろからダグナマグナがユリを蹴り飛ばす。

ユリは中央の天幕まで吹き飛ばされ、天幕が大きく崩れた。


「ユリさんが…」

「マジかよ!?」


ヘクタ達が驚くのも無理はない、ユリを吹き飛ばすほどの蹴りもそうだが、まずユリが吹き飛ばされるという光景があり得ないのだ。


「ユリさん!」


仮眠を取っていたシネラも飛び起きてユリの元へ駆け寄る。


「き…来ちゃ……め……逃げ…て」

「いや!逃げない」


ユリは上手く喋れないでいる…

ダグナマグナはユリ達へ近づきつつ話す。


『ははっ!どうよ、俺様の影縛りは?…喋ってる所を見ると、だいぶ抵抗してんなぁ』


「ユ…ユリさんに近づくな!?」


ケイタの顔でユリを見下すダグナマグナ…

動けないユリの前にシネラが立ちはだかる。


『……ふっ…ふはは!…もしかしてお前か!?白チビ…』


「うっ!?」


笑いだしたダグナマグナはシネラの襟首を掴みあげる。


「シ……ラ…」

『おぉっと…動くんじゃねぇよ、白チビが死んじまうぜ?』


「ぐ…ぎぐゅ…」


体の自由が効かないユリ…かろうじて動く右人指し指から魔法を練り上げるが、瞬時にダグナマグナが気づきシネラの首を絞める。


「…く……」

『それでいい…命は大事にしねぇとなぁ…』


ユリは魔法の発動を止め静観するしかない。

ダグナマグナはシネラを掴んだままユリから離れる。


『あっ!フォールの血族がいるらしいな?』


ダグナマグナはヘクタに向かい言う。

誰が隊長かをわかっているらしい…


「し…知らんな…」


訊ねられたヘクタはそう言うしかない…

今いる冒険者の中で最高戦力のユリを、蹴り一つで行動不能にさせるダグナマグナに、他の冒険者達が勝てる見込みはゼロだ。


『ウソはいけねぇ…なっ!――』

「――くっ!?」


ヘクタに注意がいっていたはずのダグナマグナに、透明マントを装備して魔銃を構えていたナカジマがユリと同じく影縛りにかかる。


『弱っ!?…まぁいいわ、おいお前!』


「な…なんだ!?」


透明化したナカジマに少しだけ興味がわいていたダグナマグナだが興味が失せたようで、先ほど種族をバカにされたダイナを指差し言う。


『フォールの人間を死なすんじゃねーぞ?…竜種なら、アリマの誓いを忘れんなよ?』


「アリマ!?なぜそれを――」


ダイナがいい終える前にダグナマグナは闇とともに姿を消した。

そしてシネラも…


「ナカジマ!」


ヘクタがナカジマに駆け寄り上体を起こす。

すでにダグナマグナの魔法は解けており、ナカジマは「大丈夫だ」と言いながら立ち上がる。


「ユリさんの方は…」


「モビナ!ユリはどうだ!?」

「大丈夫ー!左腕が折れただけー!」


治療魔法の使えるモビナはユリの方へ行っていた。

治療魔法をユリに掛つつモビナは叫んでヘクタに報告する。

モビナはユリに向き直り悲しそうな表情で声をかける。


「ユリさん…シネラちゃんが――」

「――わかってる…早く治してちょうだい」


治療をされながらユリはダグナマグナの消えた辺りを見続けている。

その表情は怒りに満ちて、殺気が漏れでていまにも誰かを殺しかねない目をしている。

そんなユリに声をかけたモビナは勇者だと思う…


「すまないユリさん…」


ユリの元へ来たヘクタが頭を下げる。

隊長として何もできなかったことがヘクタの罪なのだろうが、ユリはヘクタを見て言う。


「ヘクタさんは悪くない…全ては私が弱いから……」


モビナの治療は済んだとばかりに、ユリは立ち上がるとヘクタの肩に手を乗せる。


「マリアを頼みます…」


「…ユリさん?治療…」


ユリの手を引くモビナ…本当は治療が終わってはいないが、ユリはモビナの手を優しく引き剥がしながら言う。


「シネラちゃんを助けに行かなくちゃいけないから…」


「それならモニカが来るまで――」


ヘクタが行くのを止めようとするが、ユリはヘクタの胸ぐらを掴みあげる。

ユリらしくない焦りの表情をヘクタは感じ取った。


「――貴女ひとりでは危険です…」

「わかってる!それでも今すぐシネラちゃんを助けに行くわ!」


ユリをよく知る者は今のユリを見たら一目で解る…それは、弟子であるモニカもよく知っているユリ本来の感情なのだと…


「ヘクタァーー!?ユリさんを止めてー!!」

「!?」


遠くからモニカが叫ぶ声がヘクタに届く。

ヘクタがその声に気づくと同時に、ユリはその場から跳躍し暗闇に姿を眩ませた。


「ユリさん……バカヘクタ!何で止めないのよ!?」


「すまん…」


一足遅く到着したモニカはヘクタに激怒する。

ヘクタも申し訳なさそうに謝るだけで、モニカが叫んだ意味を理解していない。


「ヤバいわ…」


モニカはユリが消えた方向を見ながら爪を咬む…


「な…何がヤバいんだ?ダグナマグナに――」

「――違う…あのユリさんは本気でヤバいの、ダグナマグナだか何だが知らないけど……今のユリなら、島を消し飛ばすほどの魔力が使えるわ」


「いや意味がわからん……ユリさんはどうしたんだ?急に人が変わったようで…しゃべり方もどこか――」


モニカの説明がまったく理解できないヘクタは質問を変える。

モニカは「めんどくさい…」と愚痴をこぼしながらもヘクタに説明した。


「――あれは、覚醒した状態のユリよ…」


「覚醒!?」

「なっ!かか…」

「えー!?」

「……」


モニカが覚醒と言った途端、その場にいた者はさまざまな驚き方をする。

特に、竜人族であるダイナはモニカに詰めよりその訳を問う。


「覚醒は…人が覚醒するなど、聴いた事がない!?冗談でも…あり得ない!!」


モニカはダイナから目線を外し、ナカジマの顔を見る。

ナカジマはモニカが何を言おうしているのか解っているらしい。


「転移者にこの世界の常識は通用しない、覚醒が獣人族だけだと誰が決めたの?…獣人の先祖は確かに人よりも強かった…それは常に覚醒状態を維持できたからよ…今の獣人族は常時発動できないのは何故かしら?」

「それは……」


モニカの問いにダイナは言葉を返す事が出来ない。


「1200年前…獣を祖とする獣人族は、神より神罰が下った……」


「!?」


ダイナの代わりに話し始めたのは、警戒中であるはずのサクラだ…

他の警戒班も続々と本陣に集まっている。


「モニカ!さっきのは!?」

「セルビオ…不味いわよ、ユリさんが覚醒状態に入ったわ……」


セルビオも警戒をパーティーに任せて本陣に来たようだ。


「ほんと不味い……どうしたんだ?竜人の〜……」

「ダイナよ、ユリさんのことを聞いてこうなったの…」


セルビオがモニカと話している傍らで、ダイナが怪訝な顔をしているのをセルビオが気づく。

セルビオは「ふむ…」と言いながらダイナの前に立ち話しかける。


「常識に囚われるな…神が獣人族に枷をかけたように、転移者に力を与える事ができる存在だ。

貴様達はまだ覚醒の本質を知らないだけで、自分達の本来あるべき本能を出しきれていない。

覚醒は魂の強さ、思いが強いほどその覚醒した状態が高まる…」


「思いの…強さ?……」


覚醒のことを話すセルビオだが、要領を得ない説明にダイナはあまり理解できない。


「偉そうに言わないのよ…サクラ、準備ができるまでダイナに教えてあげて」

「わかった…こっちに来てダイナ!」


セルビオの話す態度が偉そうに見えたモニカがサクラにダイナを預ける。

セルビオは「普通に話しただけだぞ?」と自覚症状は無い…


「モニカ…何人で追う?奴が言っていた事も気になるが……」


「言っていた?……何を?」


ナカジマがモニカに訊ねるが、モニカはシネラを連れ去ったダグナマグナのことを知らない。

ナカジマはユリが覚醒状態になった経緯をモニカに説明した。


「…シネラちゃん……」

「やはりか…モニカ、あの時と一緒だ…」


説明を聞いたモニカとセルビオは険しい表情をする。


「間違いない…引き金はシネラが連れ去られてからだ……行くなら俺も行こう」

「助かるわナカジマ…雷舞らいぶ)を使われる前に止めないと――」


ナカジマが魔銃を背負いながらモニカに言う。

モニカも大剣を背負い直して後ろを振り向く。


「――どういう事かわからん、解るように説明してくれ!」


モニカが来た途端にいつの間にか隊長のヘクタは端へと追いやられていた。

ヘクタはモニカに説明を求めるが、モニカは苛つきながら言った。


「うるさい!あんたはマリアを守ることだけに専念しなさい!」

「そのマリアの事だって解るように説明しろ!?何が何だかわからん!!」


ヘクタ以外にも、ベスやナカジマもマリアの名が出てきた事を不思議がる。


「マリアちゃんがどうしたんだ?」

「以外に料理ができる娘がどうした…」


その問いに早くユリを追いたいモニカは、舌打ちをしながら話し出す。


「チッ……マリアは剣神フォールの血を引く、スティフォール家の氏族よ…チッ……」


モニカが舌打ちする理由をわかって欲しい…あのマリアが、高貴なる血筋であることを認めたくないモニカの葛藤を…


「アイツが、フォールだと!?…バカなのにか!?」

「バカな…バカぽいのに……バカ、フォール…」


ヘクタとナカジマは本人がいないことをいいことに、バカを連呼する。

モニカはその事を擁護するつもりも、弁明することも無い。


「バカなマリアは、冒険者証の登録時にバカ正直に家名まで書いて、自分の名を言うときもバカ丁寧にスティフォールの名まで叫んでいたもの…」


モニカは受付ではしゃぐマリアを思い出しながら話す…あの時受付にいたモニカには、はじめからマリアのバカさ加減を見抜いていた…


「モニカ、そんなことよりもユリさんだ!俺はベルトアを呼んでくる。モニカは他の覚醒者を集めて先に行け…」


セルビオは時間が無いと言いたげに焦りながら言う。

ちなみにセルビオはもしもに備え、すでにユリからマリアとシネラの話を聞いている…


「命令しないでくれない?……まあいいわ、ナカジマはケイとスーを呼びに行って…」

「了解した!」


モニカの指示にナカジマは即座にケイ達の元へ向かう。


「私はサクラと先行するわ……サクラ!」


「あとちょっとー!」


モニカはサクラを呼ぶが、ダイナへの説明がまだ終わっていない様だ。


「もう!早く済ませておきなさいよ……行くわよ!」

「うげぇっ!?」


モニカがサクラの襟首を掴み走り出す。

中途半端に説明が切られたダイナは、ただ立ちすくみサクラを見送る。




「慌てすぎだよモニカ!」


引きずられていたサクラは、器用に身をひるがえしモニカと並走しながら言う。

モニカはそんな言葉に聞く耳を持たず、ひたすらユリが消えた方へとひた走る。


「ちょっとー!なんか言いなよ!」


返事をしないモニカに、サクラは肩をつかんで走るのをやめさせる。


「……」


止められたモニカは何も言わない。


「…そんなに慌てってもしょうがないよ?後続が来るまでにユリさんを見つければ――」


サクラは、焦る気持ちを何とか落ち着かせようとモニカをなだめる。


「――それじゃ遅いのよ!?」


「えっ!?」


突然叫びだすモニカに、サクラは驚きを隠せない。


「あれを使えば…また、ユリさんは……っ!」


「モ…モニカー!?」


驚いて硬直していたサクラの腕をを振り払い、モニカはひとり駆けていく。


モニカは誰よりもユリを思い、誰よりもユリを尊敬している…


雷華…その魔法は広域に雷を降らせ、全てを焼き付くし、微生物でさえも跡形もなく消し去る魔法…


モニカは知っている…過去にユリがこの魔法を使い一つの街を住んでいた者達をも消滅させ、自らの意志で冒険者を辞めたことを……






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