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33話:三日月

 ガルデア平原ガルフォール領とロロフォールにまたがる町も村もない一帯に、ポツリと丘の様になっている高台がある。

星降りの丘…空には三日月浮かび、星が降る様な夜空ではないが、そう呼ばれる丘に転移陣が浮かび上がり、光の中からは一組の男女が現れる。

転移陣のすぐ横には、4人の男性と一人の女性が転移陣を囲む様に立っていた。


「…ようマーニ…」


「あ…うっ…」


転移陣から現れたアドラスは転移陣を囲んで立っていた男性の一人、講習筆頭教官であるマーニに挨拶をする。

挨拶されたマーニだが、相変わらず対人恐怖症なのか返事をまともに返せない。


「あ〜、ナナイとは初見だったな…まっ、慣れてくれ…コイツ、上がり症のうえ対人恐怖症で、特に女の前だとフリーズする…」


「ん…あぁ別に構わないが…」


頭を掻きながら言うアドラス…

ナナイは真面目な表情を崩さす気にしていない様子でマーニ達に近づく。


「ナナイだ…よろしく頼む」


ナナイの挨拶に皆は頷き返し(マーニは膠着して)、その中で唯一の女性がナナイに話しかける。


「貴女がナナイさんですね?神殿に同行するよう命じられましたエミリー・フェルナンデスです。よろしく…」


「…?」


エミリーに握手を求められたナナイは、握手の意味がわからない…アドラスが「手を握り返してやってくれ」と教え、ナナイはエミリーの手を握る。


「こ…これで、いいか?」

「はい♪よろしくお願いしますね…」


握手を返されたエミリーは笑顔で肯定した。

彼女はスペイン人で国連本部の元職員だ。そしてエミリーが笑顔の理由はすぐにわかった。


「おっ俺もいいか!?初めまして!マチコフ・マルツァワスだ!」

「次は俺だ!…ミス・ナナイ、ダニエル・カロライナと申します。ごきげん麗しゅう……ふべっ!」


エミリーの他にナナイに同行するメンバーのは、ロシアからの転移者マチコフとイングランドからの転移者ダニエルで、ダニエルはナナイの手の甲に口づけをした所を、ナナイ本人から反対の手で平手打ちを食らう。


「下品です…いいなり何をするんですか?」


「下…品……」


ダニエルはこれ以上ない親愛の挨拶を下品と言われ、目を大きく開き口をパクパクさせている。

周りの者達は苦笑し、アドラスがナナイに説明する。


「彼の国の挨拶なんだ…すまんが、許してやってくれ…」

「そう…だったのですね?こちらこそ失礼いしました…」


ナナイは深々と頭を下げる。

ダニエルは「ありがとうございます!」と意味不明なお礼を言う。


「ドMかよ…ボクはクレナ・ワック。こんななりだけど…一応女性だよ?」


訂正する…男性が4人と思ったが、ボーウィッシュな彼女は女性だった様で、アドラスと同じアメリカ人だ。


「何が一応だよ…次は俺な、よろしくナナイ。俺はオリバ・スタージュってんだ!」


オリバはナナイの手を誰よりも握りながら振り回す…ナナイの腕は以外と華奢なのでアドラスがオリバに止める様に言うと、オリバは止めた。


「わりーわりー♪麒人族と会えて興奮しちまったわー」


オリバの言葉に紹介を終えた者も頷いている。

ちなみにオリバもアメリカからの転移者なのだが…


「元CIAとは思えん興奮ぶりだな…」


「おいおい!?CIAだって一人の人間だぜ?偏見反対!偏見反対!」


なんとオリバは元CIAだった…

アドラスは海兵隊、オリバがCIA、クレナはと言うと…


「だからCIAはクズの集まりなんだ…国防省にこんな奴は居ないぞ…」

「言い過ぎだぞクレナ……オリバだけが異常なだけだ…軍人でもこういった奴は沢山いるぞ?」


「……ボクの周りには居なかった…」


クレナもアドラス同様アメリカ軍人で、内局勤務の情報将官である。

イメージ通り真面目な性格なので、オリバの事は好きでも嫌いでもないが苦手な様だ。


「はぁ〜…まあいい、エミリー、マチコフ、ダニエルはナナイと共に、神殿へ早急に向かってくれ…」


「「「了解!」」」


アドラスの指示でナナイとエミリー達は転移陣に入り光に包まれ消えた。

残ったのはアドラス、クレナ、オリバ、そしてマーニだ。


「おーいマーニ?」

「…あっ!……生き…てる」


マーニを揺すり起こしたのはクレナで、マーニは生きてる喜びを噛み締めている。


「あれくらいで死んだらヤバイだろ…」

「なに言ってんだ!あの美しさに触れたらマーニなんて爆死するぞ!?」


アドラスの言葉にオリバがナナイの事を引き合いに出して、その美しさを説く。

クレナは呆れているが、マーニはオリバの言葉に「違う」と言いながら話す。


「爆死しない…たぶん…溶ける…」

「溶けると来たか!わははは!おもしれー♪」


たぶんマーニは恥ずかしさのあまり自身の熱で体が溶けると言ったのだろう…今笑っているオリバ以外にも、アドラスとクレナも笑っている。


「けどよー?クレナには相変わらずフリーズしねぇな?」

「おい…」


オリバは親指でクレナを指しながらマーニに訊ねる。

それ以上言うなとばかりにクレナは低い声でオリバに詰め寄る。

なぜだかマーニは、本当にクレナ(姉二人も)だけは緊張しないのだ。


「おいおい…時間が無いからお前達も頼むぞ?…マーニは疲れは無いか?ヘーテレから遠かっただろ…」


また言い争いが始まると言ったところでアドラスが話を切り換える。

そしてやっと、ユリに置いていかれてからのマーニの行動が明らかとなった。


「だ…大丈夫、お姉ちゃん…達に鍛えられましたから…」


「「「……」」」


アドラスの心配をよそに、マーニはうつ向きながら答える。

アドラス達はマーニの姉達を知っているのだろう…


マーニは常日頃から姉達の使いっぱしりで、よくガルデアとダリシアを往復する苦行を課せられている。

やれ『あれが無いから持ってこいだ』『あれが欲しいから買ってこいだ』と、特に長女からの呼び出しが多い事をアドラスはマーニから相談された事もある。

解決には至らなかったが…


そんなマーニを見つめる三人は、その苦労を理解してくれる転移者達だ。


「マーニ…これ、ボクの作った回復薬…」

「サンドイッチやるよ…」


心優しい仲間からの差し入れを渡されたマーニは素直に喜ぶ。

アドラスは軽装で無いも持って無かったが、それでも労いの言葉をかける。


「マーニは3才の時に転移したからな、俺達よりも大変だったろう…それでもこうして同じアメリカ人として、同じ転移者として再会できた……アメリカ人最初の転移者にして、元S級冒険者ヨシオ・マルヤマの息子のマーニ・マルヤマを、我々は誇りに思う…」


そう言うとアドラスは、マーニに敬礼をし敬意をはらう。

他の二人も同様にマーニへ敬意を込めて敬礼をした。


「……ありがとう…頑張ります」


マーニは少しだけハニカミながらアドラス達と同じく敬礼する。


余談であはあるが、マーニが地球にいた頃の夢は消防士であり、今している敬礼も幼き頃に見たテレビに映る消防士を真似ている。

なぜマーニがラトゥールに転移したのか?それはまたの機会に……





 星降りの丘から白黄樹海へて転移してきたナナイ達…

小型の魔獣は行く手を阻み、その数は目視しただけでも数10体にもおよぶ。


「…あそこにいます」

「お任せください…」


神殿域外苑部で足止めをくらうナナイ達は、それでも少しずつ魔獣を減らして前えと進む。

ありがたい事に、捜索隊が陣を張る暗い場所とは打って代わり、白黄樹海特有の光る木々のお陰で魔獣を目視出来る事だ。


だが勿論、ナナイ達が見えるのであれば魔獣も同様で…


「上だー!エミリー!?」


「ちょっ!?…死にやがれーー!」


マチコフの叫びに上を見上げたエミリーは魔銃の銃口を上に向け、射てる限りの魔弾を射ち出す。

エミリーの上にいた魔獣は花火の様に爆散し、辺りに肉片が降り注ぐ。


「派手だねぇー、さすがスペイン女史♪」

「関係無いでしょ!?」


魔獣の四肢を切り落とし、頭部にある魔石を破壊しながらダニエルが言う。

ダニエルの偏見に異を唱えるエミリー。


「まだ来るぞ!倒したなら次を仕留めろ!」


すでに3体の魔獣を倒したマチコフから二人に叱責が飛ぶ。

ナナイはというと、1体魔獣を槍で突き刺し、穂先から炎が発生して魔獣を飲み込んだ。

炭と化した魔獣から穂先を抜くと魔獣の体がは崩れ落ち、ナナイは次の標的に向かい木々の根の上を滑走する。


「ナナイさん強くね?」

「転移者だけが特別な訳無いから…」


叱責された二人はナナイの姿に目を奪われている。

マチコフが4体目を倒し終え、二人に近づき頭に拳骨を落とす。


「いってー!?」

「いったーい!?」


「早く行け!!」


再度怒られた二人は涙目になりながら迫り来る魔獣と対峙する。

ナナイのことをなんだかんだ言っても、二人もそれなり強く、瞬く間に対峙した魔獣を倒す。


「次は――」


「えっ?……」


次の標的に移ろうしたダニエルの体が2つに割れる。

近くにいたエミリーはその光景を見ており、一瞬何が起きたのかがわからなかった。


「エミリー!!Aクラスだ、下がれーー!」


「ダ…ダニエル……」


マチコフが叫ぶがエミリーは足がすくみ動けない…

Aクラスとは…小型魔獣をCクラス、中型をBクラス、大型をAクラスと呼ぶ(三日月内で)…

エミリーの目の前にいるAクラスの魔獣は、今まで戦った小型魔獣の数倍も大きく、そして動きも段違いの速さだ。


魔獣は大きく口を開き、エミリーに襲いかかる。

マチコフからエミリーまでの距離は遠く、間に合わない…けたたましい轟音とともにエミリーは魔獣の口に飲まれた…


「エミ…リー……」


ただ立ちすくむしかないマチコフ…

ダニエル、エミリーを失い、次はマチコフ自身が殺られる…かに思えた。


「マチコフ!撤退!…撤退する!」

「!?」


マチコフは声がする方へ視線を向ける…

木の上にいたのはナナイに助け出されたのであろうエミリーが、ナナイに抱きつきながら叫んでいた。


「一時撤退!…早く!!」


「何が…早くだバカヤロ〜……了解!」


エミリーの無事を確認したマチコフは、目を潤ませる。

一瞬にしてダニエルを失い、エミリーまでも…と思ったに違いない。


三人はAクラスの大型魔獣から距離を取り、マチコフが丸い物を魔獣めがけて投げた。


「よし、煙幕が効いているうちに撤退する!!……すまん、ダニエル……」


辺りに煙幕が広がり、魔獣の姿を煙が覆う。

撤退するマチコフ達を追うように広がる煙幕からは、魔獣の雄叫びだけがこだました……





 神殿域内部…

闇を纏い、麒麟と戦うこと数回…

ケイタの力では麒麟は倒せない…ダグナマグナの力も攻撃力に欠ける。

それでもケイタは麒麟に立ち向かっていた。


『「影縛り!」』


「ふん、同じことよ」


麒麟の動きを封じようとケイタ達が魔法を放つが、影が麒麟に達する前に打ち消されてしまう。

だがケイタ達は、これまで逃げていた時以上に戦える術を編み出していた。


『「闇風」』


突如、無風であるはずの神殿に突風が吹き荒れる。

麒麟はその場を動かないが、ケイタ達は姿を眩ませた。


「……風を使い逃げたか…」


麒麟は目を凝らし、ケイタ達のいた場所を見る。

しかし、次第に辺りが暗闇に覆われ視界が奪われた途端、見えない斬撃が麒麟を襲う。


「ぐっ…なるぼど…視界を奪い、空気で我を閉じ込めたか…」


麒麟はこの術をすぐに理解する。

闇で視界を奪い、風で真空を作り聴覚を奪う。

頼れるのは勘と触覚のみだ…


「ふむ…面白い、人もまだ捨てたものではないな……なあ、ダグナマグナ?」


「『ぐわっ!?…な……』」


斬撃を受け続けながらも麒麟はケイタ達を捕まえる。

ケイタ達が捕まったと同時に、麒麟の魔法で暗闇が打ち消さた。


「貴様達は殺すには惜しい…我の僕となれ…」

「『誰が…ぐっ…僕になんか…』」


首を掴まれたままのケイタ達は、何とか逃れようと魔法を発動するが、麒麟の魔法妨害により発動しない。


「有無など不要…人は皆、我の僕なり…」


「……」


麒麟の手からケイタの体に魔力が流れ込み、抵抗していたケイタは沈黙した。

麒麟はケイタから手を放し、倒れこんだケイタに命令する。


「まずは、貴様の仲間を始末しろ…特に、フォールの人間はな……」


「……」


その言葉にケイタは立ち上がり、神殿の扉から出ていく。

麒麟は笑みをこぼし、両手を上げて言った。


「我が友の復活は近い!まやかしのラトゥールを!罪深き虫どもを!この手で――」



叫ぶ麒麟の後ろに祀られた、黒くくすんだ神聖なる光神アイナ像…先ほどの戦いでケイタ達が流した血が付着している…


その右目から頬にかけて一筋の赤い血が流れ落ち、アイナの悲しみを表した様に見えた……






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