閑話:学園へ行こう!
バルボネ家のお話し。
公都ガルデアには学園と呼ばれる教育施設がある。
公都ガルデア学園初等科…
7才から14才までの成人前の市民が通う5年制の学園であり、朝3の刻(8時)から5の次(17時)までの1日7限授業で、休みは週一回という地球の学校よりもハードな学校である。
公都ガルデア学園中等科…
12才から18才までの市民が通う4年制の学園、地球の大学に近い授業内容で単位制。
留年制度無しで、単位が取れない者はそく退学となる厳しい学校である。
そんな地球よりも厳しい学園に通うことになった双子の兄妹は母であるトリスティアに連れられ、学園内の応接室で男性の担当教員による説明を聞いていた。
「――以上で、学園の説明を終わります。何かご質問やご不安などごさいますか?」
「いえ、大変細やかな説明でした。二人をよろしくお願い致します……」
説明が終り、男性に深々と頭を下げるトリスティア…
男性教員は「あ…頭をお上げください!」と慌てふためく。
「これから二人の先生となる方ですから、母である私が頭を下げる事は当然にごさいます」
「い…いや、え…男爵夫人様に下げられると…きょ、恐縮です……」
なぜ男性教員が慌てているのか…
それは、この学校が市民が通う学校で名を公都ガルデア学園・初等科という所だからだ。
通常貴族は12才まで邸などで家庭教師や学歴の高い侍女などから教育を受け、王都にある王都インデステリア学園・高等科(貴族のみ)に入学するのが普通だ。
だが、トリスティアもそうだがボルドーも市民上がりの成り上がり貴族で、周りの貴族達からは疎まれている。
それでも他の貴族同様、高等科に入学するまでは家庭教師を付けるつもりだったが…なんと!マルスとティーナが学校に行きたいと言い出したのだ…
その言い出した理由は、シネラ達が泊まっていた3日間の最終日の夜まで遡る……
「シネラちゃん、なに書いてるの?」
「ん〜?、これはお金の計算をして残高を確認してるんだよ〜」
シネラとタマにあてがわれた部屋に居座るティーナが机で書き物をしているシネラに訊ね、シネラは計算しながらも返答する。
「シネラ姉は、金庫番?っていうのをユリさんから任されてるだよ〜…お金大好きだからねー♪」
フカフカのベッドに寝転んでいるタマは、からかう様にシネラに言う。
シネラも苦笑いしながらも「そだね」と肯定した。
「…なんでこんなに数字を書いてるの?今あるお金を数えればいいんじゃないの?…」
シネラが書いてる沢山の数字を見て言うティーナに、シネラは微笑みながら言った。
「これはね、収支の集計を表に表したものでね、こうする事で『いくら使った』とか『報酬はいくら』だっとか、がすぐわかって便利なんだよ〜♪」
「?」
シネラがティーナに説明するが、ティーナはまだ7才なのでシネラの言っている事がいまいち理解できない…
シネラも眉間にシワを寄せているティーナを見て「難しかったかな…」とこぼす。
「…シネラちゃん頭いい!?」
「え?…そんなに良くないと…思うけど……」
いきなりシネラの顔に急接近するティーナ。
シネラは聞かれた事を謙遜しながら返す。
そんな謙遜するシネラにタマは言った。
「えー!?シネラ姉が良くないなら、私なんてゴミ屑じゃん!実際頭いいんじゃんシネラ姉〜」
「そ…そんなに良くないってば!?ふ…普通だから、普通!」
ベッドの上で暴れながら言うタマに、シネラは先ほどよりは自分の評価を上げて普通と言う。
そんなシネラに、ティーナは対抗心の様な物を感じでいた…
いまだにシネラの事を同い年だと自ら思い信じて疑わないティーナは、以外とワガママで負けず嫌いだ。
そんな同い年のシネラに負けたくないし、友達(自称)として対等に接したいと思っている。
「ズルい…」
「「?」」
バルボネ家のお転婆娘が、負けたくない一心で口を開く。
「ズルいー!私もむつかしいの出来る様になりたいーー!」
「えぇ!?どど…どうしたの急に!」
「シネラ姉に負けたのが悔しいんじゃない?」
驚くシネラに、冷静にティーナの思いを語るタマ…タマは意外と人の感情を読むのが上手い…
「ねー、どうして頭いいの!?デルワの勉強も…たまにサボるけど…やってるのにシネラちゃんみたいな、しゅうくい?なんて習ってないし!ねーどうして〜」
「しゅ…集計だよよ〜」
シネラを揺すりながら聞いてくるティーナに、シネラは訂正しながらも一つだけ教える。
ちなみにデルワとはティーナ達の家庭教師のことである…
「がが…学校で…習ってたたたあー……ふぅ〜…」
「学校?」
その言葉を聞いたティーナは揺するのを止める。
内心ホッとしたシネラに、こんどは学校について聞いてくる。
「そう、学校に行けば色々学べるし……友達も一杯出来るよ!」
「…!?友達はシネラちゃんがいるもん!……でも、学校に行けばシネラちゃんみたいに頭良くなるの?シネラちゃんも一緒に行く?」
返答に困るシネラだが、正直に「行けない」と答える。
「えぇー!行こうよ〜」
「冒険者だから行けないよ〜」
「ティーナはワガママだなぁ…」
それでもシネラの腕を左右に振りながら言ってくるティーナ…
シネラもタマも困り果ててしまう。
「よし!学園に行こう!!」
「「「!?」」」
急に部屋の扉が開き、この邸の家主で男爵のボルドーが入ってくるなり言い放つ。
「途中から話しは聞いたよティーナ…向上心がある事は良いことだが、シネラちゃん達を困らせるのは良くないよ?」
「…ごめんなさ〜い…」
父親のボルドーに叱られ素直に謝るティーナ…
ボルドーは「いい子だ♪」と笑顔で抱き上げ親バカ全快だ。
「ボルドーさん…学園ってガルデアにある学校ですか?」
シネラが親バカに訊ねる。
「えぇ、市民が通う学園があるんです。本来なら入学させたいのですが……」
「本来なら?」
……時は戻り、慌てふためく男性教員は恐る恐る訊ねる。
「ご子息様が、もしも市民の子供達に…嫌がらせ…とか、イジメ……に合ったとなると、お困りになりま……せんか?」
「大丈夫ですよ♪私もこの学園を卒業しましたし、その息子と娘が通っても何ら違和感は誤差いません」
男性教員は「そうでは…」とボソボソと言うが、トリスティアは満円の笑みを浮かべている。
「あ…え…貴族様は、高等科に直接行かれた方が〜……よろしいかと〜…ひっ!?」
男性教員の言葉にトリスティアの顔つきが変わる…まるで氷のような目に、男性教員はたじろぐ。
「主人の意向です。
12才まで家庭教師のみの教育では得られない、同年代の子供達と学ぶ喜びと、学園で過ごす楽しさを学ばせたい…と、私も同意です。
学長様からも色好いお返事を頂いておりますので、今から取り下げる訳には参りません」
「はっはいー!?仰る通りでごさいますー!」
男性教員は床に頭を擦り付けながら土下座をする。
そのやり取りをトリスティアの両隣で見ていたマルスとティーナは早く授業を受けたくてずっとそわそわしていた。
「ママー、まだ行かないの〜?」
「話しなげーよ!もう行っていいでしょ!?」
我慢の限界を越え双子の兄妹は、トリスティアを両脇から揺する。
トリスティアは笑顔で言った。
「あらあら♪今日は、ご挨拶とご説明に来ただけよ♪」
「「ボク(わたし)達いる意味ないじゃん!?」」
トリスティアの言葉が引き金となり、マルスとティーナは声を揃えて言った…
いまだ男性教員は「すみません!すみません!」と頭を床に擦り付けている。
マルスとティーナもトリスティアを揺すり続け、揺すられるトリスティアは笑顔のまま「あらあら♪」と言い続ける。
笑顔のトリスティアは思いに更ける…
我が子がこれから通う学園でのこと…
自身も通った学園…そして、ボルドーも通った学園…
ボルドーと出会ったこの学園で、我が子に素敵な出会いがあることを願いながら……




