閑話:流行に乗る長女は思い知る。
ダリシアにいるマルヤマ家長女カナメロのお話し。
もう一人重要な方も出てます。
交易都市ダリシア・マルヤマ邸にて行われるは、お料理教室…
現在、家主不在のマルヤマ邸ではカナメロことカナ・マルヤマがラトゥール人類史上初めて、カレーを凍らせていただくという所業に出ていた…
「カレーライスならぬカレーアイス……不味い…」
当たり前である…
そもそもなぜカナメロは凍ったカレーを食べているのか?
それは父親で料理(家事全部)担当のヨシオ・マルヤマが不在で、一度も料理を手伝った事の無い(サクラとマーニは手伝う)カナメロは、調理用魔道具の使い方をいまいち知らないのだ。
いまいちとは…
「もう!なんで壊れるかなぁー…魔力を満タンにして、ちゃんと手順通りに押したのに〜」
壊れたと言うカナメロ…台所を見ると、いまだ白い煙を巻き上げている一台のオーブンの様な魔道具があった…
「お父さん何が『番号を振ったからの、それ通りに押すんだぞ?』、よ…ボケて振り間違えたんだわ!」
マルヤマが居ないところでボケ老人扱いするカナメロ…今ごろマルヤマは盛大にくしゃみをしているはずだ…
「にしても不味いわね〜、凍ったカレーって行けるかもと思ったけど…」
カナメロはスプーンでジャリジャリとカレーアイスをつつく…
マルヤマが不在中は外食すればいいのだが、そこはお父さん大好き(料理)カナメロが『居ない間分のカレーを作り置きしてー!』とマルヤマにお願いしていた。
初日の夕食はまだ常温だったのでそのまま食べて、次の日の朝もそのまま…
出かける前に悪くなると思い、自らの魔法で冷凍し、そして、その日の夜(現在)だがこんな感じだ…
「魔法で……ダメだー!?私、火魔法使えないんだーーー!ばたん……」
そう、カナメロは火属性の魔法が使えない…
このマルヤマ家で唯一使えるサクラが居れば別だが、サクラはある人物と同居を始め、半年ほど前から家に居ないのだ。
「サクラ〜」
名前を呼んでも来ない…サクラは愛する者と樹海にいる…
「サクラさーん!……せっかくマーニに買ってもらったのに……」
サクラは器用で居れば温めてくれるのだがサクラが同居を始めるのを期に、新たな魔道具がすぐに出回るガルデアで、巷で話題の自動魔道具『温めてルンルン』をカナメロが欲しがり、ガルデアにいるマーニに頼んで買ってきてもらったのだ。
ちなみに代金は銀貨40枚と意外と高額な魔道具で支払いはマーニだ…本人は使わないのに…
「あの人に頼むか…」
カナメロは立ち上がりマルヤマの部屋に行く。
引き出しを開け、中から朱色のプレートを取りだし魔力注いでから声を出す。
「ルールールールー…」
キツネが寄ってきそうな声を出すカナメロ…
すると返事が帰ってくる。
キツネかな?
「どうしたのマルヤマ!…緊急案件!?」
渾身のギャグを潰され悔しいカナメロ…でもなく、返事があったことに笑顔になるカナメロはプレートに向かい話す。
「ルーさんこんばんは〜♪カナです!」
「なんだ〜カナじゃん♪」
声の主はルーと呼ばれる女性で、エイジ・フォール、スミル・フォール両名の祖母であるルー・ルメア・フォールだ。
「びっくりしたよ〜、久しぶりに緊急用プレートが鳴ったから…何事かと思ったよ…」
「ごめんなさ〜い♪ルーさんと連絡取るならこれが早いから」
カナメロが使用した朱色のプレートはマルヤマとルーが緊急時に連絡用として使っている通信プレートだ。
このプレートは妨害魔法装置と自動暗号化魔法装置が組み込まれており、世界でも100器ほどしか無い特殊なプレートで、特に朱色のプレートを持つ者は限られた人物になる。
朱色の示す人物はS級の称号を持つ者となっており、インデステリア王国では12名・神聖ミナルディ皇国は15名・獣王共和国は6名・中央諸外国では各2〜3名ほどの者が所持している。
勿論引退者もそのまま所持しており、元S級冒険者のマルヤマも持ってはいたが引退してからは持ち歩く事が無いので、このようにカナメロが使用したりする。
「も〜…本来なら私用での通信はご法度だよ〜、次からは協会を通してね?」
「はーい♪」
まったく反省の色がないカナメロ…
所持者以外との使用と緊急ではない私用の通信は固く禁止されており、禁止事項を破ると、プレートを管理する団体『国際魔法通信連盟』という組織にプレートを取り上げられてしまう。
とは言っても、大体のプレート所持者は私用に使用しているが…
カナメロはルー意外にも使用した事があるかと言うと、この手慣れ具合だ…察して欲しい…
「もう!反省してな〜い♪…で、どうしたの?」
「あのね、温めてルンルンが――」
カナメロは事の経緯説明する。
説明を聞いたルーは、何やら興味津々な様子で「すぐに行くから!」と言って通信を切ってしまった…
待つこと10分…てか早すぎるがルーはマルヤマ邸にやって来た。
エイジとスミルの祖母だがエルフなので、その容姿はどこか孫のスミルに似ている。
ルーが似ていると言うより、スミルがルーに似ている…
「温めてルンルンはどこかな〜♪」
意気揚々やって来たルーは、ずけずけと家に上がり台所へ向かう。
いまカナメロは、お手洗いに行っていてルーの到着を知らない。
「おおー!君がルンルン君かぁ〜♪」
魔道具に君付け呼びで撫で始めるルー…次に始めるは勿論…
「構造はどうなっていますかね〜♪」
ルーは自宅から持ってきたであろう工具箱から色々と取りだし、ルンルン君の解体を始める。
言っておくが、ルーは解体に来ただけで直しに来たわけでもない。
また、カナメロのために料理をしに来たわけでもない。
すべては最新の魔道具をバラすためにマルヤマ邸に来たのだ。
「あ〜あ…来るとか言ってたけど『食べ物を温める?無理だよ〜♪家をまるごと燃やしちゃうから♪』って言ったくせに、来る意味あるのかなぁ〜?」
お手洗いから出てきたカナメロは、ルーに頼んだが無理だと分かり落胆していた。
しかしルーはマルヤマ邸に来ると言っていて、何しに来るのかは不明なのだ…
「ん?台所から気配が…」
さすがギルドマスターでA級冒険者なだけはある。
気配を探る様に台所へ音を立てずに向かう…
台所を覗きこんだ先には、温めてルンルンをがちゃがちゃと音を立てて解体しているルーの後ろ姿があった。
「ルー…さん?」
「ふぉ〜♪すごいすごい!」
一心不乱で解体に勤しむルーはカナメロの声など聞こえない…
ルーの背後から温めてルンルンを見たカナメロは、口を大きく開けて無惨な姿になったルンルン君の製品名を叫び出す。
「あー!温めてルンルーーン!?」
「うわっ!びっくりしたー」
どちらが一番驚いたのかは、言うまでもなくカナメロの方だ。
「マーニからもらったのに…」
やはりカナメロは、高額な支払いをマーニさせたままの様だ…
色々とむき出しになったルンルン君を触り、カナメロは悲しみに暮れる。
最初に壊したのは自分のクセに…
「なはは……ごめんね〜つい見たくて…直るかな?」
ルーは工具を指で弄りながらカナメロに謝る。
最後に直るかなと聞いたのは、カナメロが魔道具専門店に修理に出すと言っていたのだ。
修理に出される前に中身を見たいと思いバラシに来たルーは、少しだけ申し訳なさそうな表情である。
「わからないですよ〜…取り敢えず元の形に……」
「ごめんねカナちゃ〜ん」
その後二人は何とか元の箱の様な形にルンルン君を戻したが、次の日にカナメロが魔道具専門店に温めてルンルンの修理を依頼すると、店員からこう言われたそうだ…
『すべての魔法圧が抜けてます。解体又は魔力を規定量以上注ぎましたか?』
…思い当たる節が多すぎたカナメロだが何とか誤魔化し、店員に温めてルンルンを預ける。
夕方、魔道具専門店に寄ると修理は完了しており、代金支払おうと値段を聞いた。
「銀貨20枚です」
「え?」
聞き間違えかも知れない…カナメロはもう一度店員に値段を聞く。
「い…いくら…ですか?」
「はい、銀貨20枚です」
ルーは魔道具や魔法の話しが大好きでオタク域に達している。
そして、その探求心は留まることを知らず…魔道具だと物が粉々になるまで調べつくす。
今回は早期に発見出来、解体のみですんだが…それでも、修理代金は元値の半分もかかってしまった…
カナメロは思った…
勝手に通信プレートで、ルーに連絡しない様にしよう…
ちゃんとマーニに立て替えてもらった代金(修理の半分)を返そうと…
「ありがとうございました〜」
店員の言葉が嫌味にしか聞こえないカナメロは、重い温めてルンルンを両手で抱えながら帰路につく…
日頃の行いが仇となったと…この苦い出来事を恨めしく思いながら……




