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28話:兵(つわもの)集結…

 コリアノール侯爵率いるガルデア軍混成団は、ロロフォール領軍とスティフォール領軍との合流を待っているのだが…なぜか混成団の隣に陣取る冒険者パーティーがいた…


「お前も出世したのぉロマウよ…」

「ユリさんのお陰ですよ♪」

「ユリばっかり褒めんなやガキンちょめ…」


臨時混成騎士団の団長を任されているロマウと、小型飛空挺が動かなくなりフォール山脈を越えてきた(下りは崖を落ちて)マルヤマと、暇潰しで混成団に帯同しているローヌが談笑をしている。


「ローヌはカリカリしすぎじゃな…二人と会うのは……10年ぶりくらいかの?」


「はい、ラオヌさんの葬儀以来です」

「してへんわ…せやな、赤犬達の追悼した以来や…」


三人は顔見知り…というよりも、もっと深い関係の間柄だ…


「十年一昔とはよく言うが…ロマウは立派になり、ローヌは相変わらず……小さいの〜」

「やかましわ!好きで小さいわけやないわっ!!」


マルヤマが言う十年前とは、まだマルヤマが現役のS級冒険者でロマウが駐屯兵から冒険者になり、ローヌが雑貨店を始めたばかりの頃の話しになる。


「あははっ、立派になんて…皆さんに鍛えられたからですよ。今は亡き…ラオヌさん、ルーラさん、コロフさんにも色々と教わりましたから…」


「何が皆さんにーやっ!特にユリとは仲が良かったなぁ〜♪」


ローヌはロマウの脇腹をニヤニヤしながら小突き「姉さん女房はイヤやったか〜♪」と茶化す。


「ローヌはおばちゃんみたいな絡みをするのぉ、ロマウが困っておるから止めんか…」


「へいへい、オバハンは黙りますよ〜…」

「まあまあ…こんな絡みも懐かしいので、私も嬉しいですよ♪」


マルヤマに叱られふて腐れるローヌをあやす様に言うロマウだが、またローヌが脇腹を小突きなから言う。


「キモいわ!」

「うげっ!…理不尽ですよ〜」


「わははっ!懐かしいのぉ本当に…ラオヌ、コロフ、ルーラ、ユリ…それにワシらと解散前に少しだけだが、ユリが連れてきた弟子達との旅は楽しかったの…」


マルヤマは現役最後の旅の思い出を懐かしむように言葉に出した。


そんな楽しそうに談笑するマルヤマ達を見ていたカズキ達は遠目から眺めるに留めて、マルヤマ達をあまり知らない冒険者にカズキとハルナが説明している。


「赤狼の雷閃は、人魔大戦初期に発足したパーティーで、リーダーでS級冒険者だったラオヌと同じくS級のマルヤマさん、ヤマト宗武本流両手剣教士のコロフ、A級治療士ルーラ、史上最速でB級冒険者になったユリさんと生きる伝説ロージェンヌさんの6名と、発足後すぐにあそこで小突かれてるロマウさんが荷物係でパーティーに入ったんだ…」


「赤狼の雷閃が解散する前に、モニカとリースさん…セルビオさんとアマティセさん、あとはお馴染みの飛空挺を直してるメグミがユリの弟子になったんだよ〜」


伝説の冒険者パーティーを見つめているC級冒険者達は、二人の説明を聞いて納得している。

なんせあの三人の周りには誰も近づかない、ガルデア混成団の兵達でさえも話し掛けるのを遠慮しているようだ。


「メグミがあんなに自由奔放なのは、あのパーティーに居たからだよ〜」

「体力では〜、いまだについて行けないですね〜」


普通代表ハナコと天然トモエが、今はいないパーティーリーダーのメグミをディスる。


「まあ…間違いなくユリさんの弟子達はクセがある人達ばかりだけど…」


「メグメグは元からあんなんだったと思うよ?」


カズキもユリの弟子達をよく知る身なので解らなくもない様子だが、ハルナは弟子時代のメグミを知っているのでハナコのそれを否定する。


「冒険者ギルドで見かける時に、メグメグはよくセルビオさんと一緒に怒られてたのを覚えてるよ〜…メグメグはすぐ勝手にウロチョロするから、ユリさんに捕まって正座させられてたし♪」


「昔からか〜…」

「そういえば〜、ラオヌさん、コロフさん、ルーラさんという方々の名前は初耳ですが〜?」


ハルナの思い出話しにどこか残念そうに呟くハナコと、人魔大戦時代の事をあまり知らないトモエがハルナに訊ねてくる。

訊ねられたハルナは、くらい表情をしながらカズキを見る…その目はカズキから言ってほしいと訴えてるようだ…


「…リーダーのラオヌ、コロフ、ルーラは大戦初期に起きた『旧ヤマト領南東部、ヒューサンティ大規模転移による消失』に巻き込まれて…現在も見つかっていないんだ……」


「「大規模転移?」」


カズキの説明にハナコとトモエは首をかしげる。


「それを引き起こしたんが、アイツや…」


何時から居たのだろうか…ローヌがスティフォール伯爵を指差しながらハナコ達に告げる。

二人は少しだけ驚いていたが、ローヌは気にせず話を続ける。


「アイツやとゆ〜ても、あれは事故やった……まぁ、いまだに本人は自分のせいやと思ってるがな…」


「あの〜…事故とは?」


生きる伝説ローヌに、ハナコは恐る恐る質問する。


「剣神フォールの名はしてるな?…」


ハナコは首を縦に振る。

なぜか冒険者のも一緒に頷く…


「剣神フォールは時空魔法の使い手や…だがな、時空魔法はフォールしか使えんのや…」


それは皆が知っている事であり、今さらな事に冒険者達は興味を失うがローヌは続ける。


「でもな…一部の血縁者は使えるんよ、アイツも一応……そうやな〜使えると言うよりも、暴走させたっちゅうことやなぁ…」


「スティフォール伯爵様は、時空魔法が使えるんですか?」

「暴走って〜何をしたんですか〜?」


ローヌは「本人に聞いた方が早い」と言い、スティフォール伯爵を呼びにガルデア混成団の方へ走って(飛んで)いった。


「ローレス!」


「…はい、何かご用でしょうか?」


高官用天幕の前で部下に指示をしているスティフォール伯爵に、なんの前触れもなくローヌは言う。


「アイツらに昔話をしてやれや…」


「昔話って―うわっ!?」

「四の五の言わず行ってきー!」


説明無し主語無しのローヌの命令は絶対である。


「あれは…あれじゃな…」

「自分で話を大きくして面倒になった…いつものパターンです…」


その様子を眺めていたマルヤマとロマウは呆れ様に口々に言う。

そんな面倒くさがりなローヌに連れられやって来たスティフォール伯爵に、冒険者達は困惑の表情で立ちすくんでいる。


「こら!伯爵様が来たんやからビシッと整列せんか、ガキんちょども!」


「「「「はいっ!?」」」」


慌て整列しはじめる冒険者達を見て、スティフォール伯爵は「そのままで良いのですが…」とローヌに言うが…


「先輩の兄貴を敬えんもんはクソやからな、そこはケジメとゆーこっちゃ♪」

「エイヴィスは王都支部のギルマスですが…」


「っんなの関係無いわ!」とローヌは言いながらその場を去っていく。

残されたスティフォール伯爵と冒険者達は、どうしたら良いか解らず互いに見つめ合う。


「昔話をしろと言われたが…何を話せばいいんだ……」


全くその通りだが、ローヌからは『昔話をしろ』しか言われていないスティフォール伯爵はうつ向きながら呟く。

その呟きが聞こえたのかカズキがおずおずと前に出ながら話す。


「申し訳ありません…先ほどローヌさんから大規模転移の話を聞きまして……詳しい話しはスティフォール伯爵からと…」


カズキの話を聞いてローヌが何故、自分に昔話をしろと言ったのか合点がいき、スティフォール伯爵は苦い表情になりながらも平静を保つ様に言葉を出す。


「そうか…なら少しだけ軍の話をしても良いか?」


「……はい」


カズキ以外の冒険者達も頷き、スティフォール伯爵は皆に座るよう促す。


「領軍の合流までの時間は……あるな…」


魔時計で時間を確認しながらスティフォール伯爵も冒険者達の前にすわる。

「さてと…」と、ため息を漏らす様に呟いてから当時を振り返りつつ話しはじめる…


「11年前、当時のガルデア方面軍騎士師団6個騎士団、その中の1個騎士団の団長だった私は……





 白黄樹海ガルデア捜索隊メンバーの面々は、天幕の外でキレイに整列をしている。

先ほど前哨任務中だったスーから「アーゼン支部のセルビオ達と爆雷のユリを確認した」と慌てふためきながら報告があったのだ。


「そろそろか?」

「…たぶん、そろそろだと思います…」


隊長のヘクタと講習教官のサザクが軍隊の様な休めの姿勢でたたずみながら、今か今かと到着を待つ。

セルビオ達だけだったらこうはならない。

何故ならユリが来るのだ…ここに居るの冒険者達はC級以上の実力者であり、中にはユリのシゴキを耐え抜きその地位を手にした者もいる。

サザクは違うが、ヘクタやナカジマなど捜索隊にいる30過ぎの年齢の冒険者達は、ユリの地獄を味わった者達なのだ…


「スグりん震えすぎ〜」

「サクラもな…俺のは武者震いだ……」


実はサクラも駆け出しの頃に父親のマルヤマに、無理矢理ユリの地獄の特訓を受けさせられた事があるのだ。

そんな中、それを知らない受講組の面々はのんきなもので…


「たまに見かけたけどキレイな人だったよ?」

「そうなのか…爆雷様にやっと会えるなぁ」


ヒーテとブルームは、まあまあ普通の反応だろう…正直つまらない…


「伝説の双魔剣士!」

「手合わせ…出来る…か?」

「美少女?美人?」


ユリと初対面の女性陣はこんな感じで期待を抱くが、シネラ達(主にマリア)はそうではない。


「二日ぶりに会えるね♪」

「シネラ姉はのんきだな〜」

「ガクブルです〜…」


モニカは確実に、ここ二日間の事をユリに報告するだろう…しかもマリアの事ばかり…


「ガクブルうるさいよマリア〜」

「ガクブル、ガクブルです〜」


「マリアの事は、ちゃんとフォローするから…ガクブル黙って…」

「ガクブルブルですー」


恐怖に震えるマリアは、シネラとタマに注意されるが一向に震えが治まらない…というよりもうるさい…

整列をして待つこと10分、皆が恐怖する(一部期待な面持ち)一行が到着をする。


「な…なんだコイツらは……」

「きちんと整列して…お偉いさんでも来るのか?」


先頭を歩いていたセルビオとマサアキは物々しい面々のガルデア捜索隊に困惑ぎみだ。

マサアキは何事なのかをヘクタに訊ねる。


「ようヘクタ、俺達の後に偉い人でも来るのか?」


「あ…いや、来ないが……ユリ嬢がいると聞いてな…あは…あはは…」


ヘクタの挙動がおかしいが、マサアキは「ユリさんがか…」と言いヘクタの様子を窺う。


ピッピィーーー!


ピッピィーーー!


前哨の警戒班からの警笛が鳴った。

それは受講者達も教わった警笛音で、1回の警笛音が2秒以上の場合は魔獣もしくは敵と交戦したとなり、今回の警笛は2回2秒以上で、戦闘が終了して警戒を強化するという警笛音だ。


「警戒強化?…いつ戦闘してたんだ…」


「今さっきだな、戦闘の邪魔だからセルビオの護衛で避難してきた…俺は戦えないからな…」

「護衛とは名ばかりだな…厄介払いされた気分だ…」


ヘクタはいつの間にか敵に襲われていたかを知らない様子だったが、マサアキとセルビオが先に来た理由から推測すると、つい先ほどのようだ…


「てか3分も経ってないぞ…セルビオ、お前のパーティーは強いのか?」

「…いえ、間違いなくユリさんの単独ですよ…仲間はただの見学だと思う…」


ユリの実力を知るセルビオは使えないマサアキと伴に捜索隊に合流させて、セルビオのパーティー仲間にはリハビリがてら見学させる。

スマートなユリらしい行動だが、マサアキはあまりにも早すぎる展開にセルビオに確認してしまうが、セルビオは平然と言った。


「単独って…開敵したのは魔獣だろう?しかもセルビオのパーティー達は見学とは…いくらユリさんでも…」

「ユリさんは化け物なので大丈夫です」


セルビオは遠い目で警笛の鳴った方を見ている。

何やら騒がし一団がこちらにやって来るが、中心にはユリの姿が確認でき周りをセルビオのパーティー仲間が興奮しながら歩いていた。


「マジヤバい!?神だ、神!」


パーティー最年少で人族のマークはユリを崇め始めた。


「ユリ殿の剣技は凄まじい…一つ一つが流れに逆らわないように…」


牛人族のベルトアは冷静に技の分析をしている。


「剣よりも足蹴りだけで腕が吹っ飛んでたよ!?」


豹人族のキャミーはユリの蹴りを真似ながらその威力を力説している。


「相変わらず無詠唱ですか〜、私も精進しないといけませんかね〜……」


エルフのラテラは杖を握り絞めながらユリの顔を覗きこんでいる。

ユリは正直ウザそうにしている…


「…叔母に習いなさい…」


「あの方は教えるのが下手なので〜…ね〜?」

「ね〜って、俺に聞くな…エイジに聞け…」


いつの間にか捜索隊が整列した所にやって来たユリ達、ラテラはセルビオに話を振るが冷たくあしらわれる。


「お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」


「お久しぶりですねヘクタさん、それと…サザク…ですね、お疲れ様です……」


腰を90℃まで曲げて挨拶をしたのは隊長のヘクタと筆頭教官代理のサザクで、ユリも二人に習い深々とお辞儀をする。

別に意外でもないが、ユリは礼儀は人一倍あるので端から見ても普通の挨拶に見える。


「はっ!ご健勝で何よりでごさいます!」

「ありがたき幸せ!」


「……ユリ」


ユリに労われ感無量の二人の横からアドラスが話し掛ける。


「マーニはどうした?」


「……マーニは…」


ユリは暗くなる空を見上げながら一番星を探す様に言った。


「……忘れてたわ…」


「忘れてた…え?」


アドラスはユリの顔を覗きこむが、ユリは顔を背ける。

まさかとは思う…ユリがマーニを街に置いてきたのだとは誰も思わないだろうが、ユリは澄まし顔で言う。


「忘れていました。マーニは街にいるでしょうから一緒にいません…そのうち来るでしょう……」


「「「……」」」


自分は悪くないと言わんばかりの表情のユリに、誰が何を言えようか…

そんなものは誰も言えるわけ無い事は決まっており、この中で一番マーニの到着を待ち望んでいたサザクは肩を落とした……






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