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27話:講習3日目、警戒…

 遅い昼食を終えた捜索隊の隊長と講習組の教官達以外の者は、先輩冒険者達と一緒に警戒の任務にあたっている。

勿論、冒険者に見えない幼女シネラも警戒任務の真っ最中である。


「シネラちゃん異常は有った?」


「有りません、異常なしですネミリさん」


シネラに声をかける人物は警戒班のネミリで、ベスと同じ鬼人族で妖艶な女性だ。


「了解…次はモビナが監視について、シネラちゃんは休憩してからマルヤマ班ね」

「シネラおつ〜♪」


「お疲れ〜、はい交換」


ネミリの後ろに隠れていたモビナは、シネラから赤色の腕章を受取とりシネラに黄色の腕章を渡す。

この腕章は各班ごとに色が別れており、赤色がネミリ班・青色がナカジマ班・黄色がマルヤマ班となっていて、各班に受講者達を研修の名目で配置されている。

他にも警戒にあたっている班もあるのだが

、他の班はシネラ逹よりも少し遠い場所で警戒任務にあたっていて、情況が情況だけに魔獣との遭遇率が高い前哨任務に就いているため受講者逹の訓練は出来ない。

シネラ逹を受け入れてくれた計三班は、前哨班と比べ比較的に陣地近くを警戒しており、何かあっても陣地からすぐに応援が駆けつけられる所で訓練を行っている。


「マルヤマさんってどんな人だった?」


「女のひと〜私の倍大きくて〜…金色の髪が長くて〜…あとね、おっぱいおっきかったよ!」


シネラが腕章を左腕に付けながらモビナにマルヤマの事を訊ねるが、モビナの抽象的な説明に苦笑いを浮かべる。


「あっ!?あとねあとね、会ったこと無いけど…マーニさんのお姉さんなんだって〜♪」


「へ…へぇ〜、そうなんだぁ…」


シネラは(マーニ…だれ?)と思いつつそろそろマルヤマ班に行こうとしたが、前から一体のマールウルフがシネラに向かって駆け寄ってくる。


「マルちゃん!お迎えに来てくれたの?」

「ワフッ!」


マルはシネラに「そうだよ!」と言ったと思う。

何故マールウルフのマルが居るのか…

それはすでにナナイが服従を解除しているのにもかかわらず、お昼寝をしているシネラに寄り添うように一緒に寝ていて、また、シネラとマルの間には主従関係の様なものがあるとナナイが言っていたので、そのままシネラの従属に成ったのだ。


「マルに乗ってくのはダメよ?マルヤマ班の所に行く間も周囲を警戒しなさい」


「あっ!?はい!……マルちゃん行くよ〜…」

「グフッ…」


マルに股がったシネラはネミリから注意され、ついやってしまった事に赤面しながら返事をする。

そしてすぐさま背中から降りて、小声でマルに告げてから歩き出す。

マルも小さな鳴き声を発したが、その鳴き声がシネラの父親が作っていた水色の機体で人型の○○○ムに出てくる敵の機体名と一緒だった。

シネラは少しだけ可笑しいと思ってクスクスと笑い、マルが笑っているシネラの周りをウロチョロしながらマルヤマ班の元へ向かうのだった。




マルヤマ班の警戒地点に着いたシネラだが、班長のマルヤマの姿を見て困惑していた。


「…マルヤマ…さん?」


「そうだよ?サクラ・マルヤマって言うの、よろしくねシネラ♪」


シネラが困惑するのも無理はない、サクラは日本名にし姿形は獣人そのものなのだから。


「サクラ…えっ!?転移者だとばかり…」

「あっ!名前で想像したんだねぇ…私は転移者じゃ無いけど、お父さんが転移者なの――」


サクラはシネラが口ずさんだ転移者という単語を聞いて、何故だか嬉しそうにしながらマシンガントークで説明をしてくる。

その説明をシネラは時折合図ちを打ちながら聞いていた。


「――それで現在は冒険者ってわけなのよ♪子は親の背中を見て育つって本当だったのね〜……」


色々と説明をしてくれたサクラは勝手に自己完結して感傷に浸る。

ちなみにマルヤマ家の事を聞かせれ続けたシネラは、サクラの父親で転移者のヨシオと姉のカナは凄腕の冒険者で、弟のマーニ(現在、ユリと一緒にいる)も講習教官をしていると解り驚いていた。


「S級・A級・B級…C級もって、すごい家族ですね!?」


「でしょ!お父さんはヤバいけど…覚醒すればカナちゃんには負けないし、マーニなんてまだまだ弱いけどね♪」


家族の事を嬉しそうに話すサクラにシネラは思う…(この人は家族が好きなんだぁ)…

笑顔と真逆の表情にするシネラに気づたサクラは自分の事を喋りすぎたと感じた。


「ごめんごめんシネラ!?私の事ばっかり喋っちゃって…シネラは兄弟はいるの?」


「あ…私、実は――」

「――何時まで喋っている…着いたらまず引き継ぎをしないとダメだろう…」


シネラは(まためんどくさい説明をせねば)と思っていたが、受講者なのに警戒訓練の臨時補助教官をしていて、各班を巡回中だったアドラスがシネラの背後に立っていた。


「ごめんなさ〜い…」


シネラのせいではないが、引き継ぎをすると言い出さなかった事は事実なのでシネラは素直に謝る。


「うむ、可愛いから許す!…サクラも話し声が隣の班まで聞こえるぞ、ナカジマが『静かにしろ、気が散る』と苦情が出てる…」


「スグりんが〜?生意気ねー…」


「いやいや!?そうじゃなくて、訓練中の受講者が警戒に集中出来ないと言う意味だ…お喋りもいいが、声を小さくほどほどにな…」


サクラは頬を膨らませながら「アドラスも生意気ー!」と言っていたが、すぐさま元の顔に戻りシネラに目を向けて言う。


「ダイナと引き継ぎをしてきて、あそこの細い木々を真っ直ぐ抜けたら居るから。それと、引き継ぎが終わったらダイナは私の所に来るように言っといて…」


「わかりました!」


シネラはサクラの指示に元気よく返事をしてダイナが居る警戒地点に向かう。

その後ろを付いていこうとしたマルにサクラが声をかける。


「マルはお留守番」

「グルル〜…」


牙を剥き出しにして抗議するマルだが、マルの唸り声に気づいたシネラがマルに手を振り「いい子にしててね〜♪」と言うと再度ダイナの元へと歩き出す。


「移動間も警戒けいかい…」


足下の悪い道なき道を進むシネラだが、実は極度の方向音痴(本人の自覚無し)であり、先ほどサクラが言っていた細い木々を通る事は出来たが足下ばかりに目がいってしまい、真っ直ぐどころか大幅にずれて歩いていた。


「……いない…どこに居るんだろ〜?」


辺りをキョロキョロと見渡すが、ダイナの姿は見あたらない。

ここでシネラの悪い癖が出てしまう…


「…えいっ…こっち!」


悪い癖とは自分以外に誰もいない時や考える事が面倒になった時、全てを投げ出し自ら行動を運任せにすることだ。

今行ったのは棒を立てて手を放すだけのシンプルなもので、勿論当たった試しはない…

倒れた棒を拾い、ブンブンと棒を指揮者の様に振りながら進む。


「…真っ直ぐ来たんだよね?」


誰に問うているのか…たぶん道を示した棒にだろう…棒は何も言わない。

シネラは(もしかすると道に迷った?)と思ったが、前方から人の気配がした。


「なんだ〜やっぱり合ってたんだ〜♪」


真面目なダイナを驚かせてやろうとシネラは忍び足で近づく。

真後ろにきたであろうと思い、元気よく木の影から飛び出した。


「ダイナ!…な……え?」


そこに居たのはダイナではなく、血塗れで肌が焦げた様な色をした男性が倒れていた。


「……な…んで……ごど…も……が……」

「子供じゃ!…大丈夫ですか!?」


シネラを子供と言った男性が吐血し、言い返そうとしたシネラは慌てて近づく。


「ゴハッ…ボッ……もう駄目だ…ゴボッ!…ガバッ…ゼイロば……じんだっ!?ゴハッ!」


「喋っちゃっだめです!?今サクラさんを――」


男性は吐血しながら何かを伝えてくるが、尋常ではない程の血の量が口から出てくる。

シネラだけでは対処できないと思いサクラを呼びに行こうとしたが、男性の手がシネラ腕を掴む。


「――ぎり…ん…ぎりんが…グボッ!…まじゅ…う゛を…ガバッ!?……あやづ…て――」

「――いたっ!……ぎり…何て言ってるの!?」


男性のどこにそんな力が残っているのだろうか、シネラは腕を引き千切られそうな傷みになんとか耐えて聞き返しす。


「ガハッ!…ゴブァッ……『麒麟の輝きを取り戻し、今地上に統べる虫を喰らう』………」

「えっ?」


吐血を繰り返していた男性が突如流暢に喋りだし、そして……




「……セイローの冒険者だね…しかも――」

「――ああ、俺と同じ三日月(クレッセント)の者で、名はファイザだ…」


今はもうファイザは息絶えており、第一発見者のシネラはダイナと交代で警戒任務に就いている。

ここに居るのはサクラとアドラスの二人だけだ…


「ファイザが言った言葉が気になるな…」


「『麒麟の輝きを取り戻し、今地上に統べる虫を喰らう』…麒麟て本当にいるの?お伽噺じゃなくて…」


シネラから聞いた言葉に引っ掛かりを感じるアドラスと、何処か懐疑的な態度のサクラの二人は対照的な見解を示す。


「虫を喰らう…虫…害虫…」


「麒麟は5万年以上前の古代生物でしょ?聞き間違えとかじゃないの?」


「……そうだな、幻獣は確かに今は存在しない…」


アドラスは手を組みサクラは手の平を合わせ、二人はファイザの亡骸に冥福を祈る。


「……さて、俺は報告に行くぞ?」


「よろしく…あと、訓練は継続するのかをモニカに聞いといてくれる?」


アドラスは「了解した」と一言だけ言い捜索隊陣地の方へ走っていった。

その場に残るサクラは、ファイザの近くに魔剣で穴を堀はじめる…これは埋めるのではなく、木々に延焼させないための穴であり、肉を残したままだと亡骸に残る魔力が魔獣を呼び寄せる事があるので、この世界では土葬は禁止とされている。


「カルフレアって土を掘るのには的さないよね…」


ガシガシと剣先を地面に刺して柔らかくなったら自分の手で土を退く…繰り返すこと計14回ほどで膝上が埋まるくらいの穴が掘れた。


「…こんなもんかな?」


本来なら腰の深さまで掘らなければいけないのだが、掘り飽きたサクラはファイザの亡骸を穴に入れる。


「さてと…成仏しろよファイザ…」

「穴が浅いぞサクラ?」


ファイザの亡骸を燃やそうとした所にナカジマが注意する。

後ろにはナカジマ班に配置されていたトット・ブルーム・マリアがいる。


「こんなもんでいいじゃない?」


「肉を燃やしきり骨を埋めて掘り出されない深さは、概ね腰の位置だ…」


サクラはカルフレアを握り地面に突き刺す。


「またこれで掘れと言いたいの?」


「自分で始めた事だ、責任を持って遂行しろ」


売り言葉に買い言葉と言うべきか…二人は次第に険悪な雰囲気になる。

たぶん二人は仲があまりよろしくない間柄なのだろう…今にも殺し合いを始めそうな殺気を放っている。


「まぁまぁ!穴は僕がやりますから!」


一色触発な情況を何とかしようと魔法士ブルームが穴堀を買ってでる。

しかしここで空気の読めないマリアとトットが余計な事を言う。


「どっちが強いのです〜?」

「たぶんーナカジマさんじゃないのにゃ?」


空気の読めない発言にブルームさえも凍りつく…ナカジマとサクラは二人して不敵な笑みを浮かべて殺る気満々のご様子だ。

ブルームはヤバいと思いファイザの亡骸を穴から出し、穴に向かって魔法を発動させる。


「レッジロス!……うわ!?」


ブルームの魔法は慌てていたため盛大に土を巻き上げる。


「わわぁーです〜!?」

「にゃにゃにゃー!!」


天罰が下ったようにマリアとトットに土が降り注ぐ…トットが先ほどからにゃーにゃーとうるさいと思うが、これはマリアの入れ知恵と言うことを教えておく…

マリア達に土が降り注ぐ中、サクラとナカジマは全ての土をかわす。


「どろどろです〜!」

「ふざけろにゃブルーム!」


「ご…ごめんなさい!?」


ギャーギャーと騒ぐ二人に謝るブルーム…土を被らなかったサクラとナカジマは不敵な笑みを浮かべている…


「私の勝ちね、左肩に土が付いてるわよ?」

「貴様の目は節穴だな、背中に土が付いてるぞ?」


ナカジマに言われて背中を探る…サクラの手には土が付いていた。


「スグりんごときにー!?」

「俺には覚醒しないと勝てないだろうな…」


喧嘩をするほど仲が良いと言うのだが…実はこの二人も類に漏れずといったところなのだ…


「何をイチャイチャしてんのよ〜?モニカが訓練を切り上げて戻って来いって言ってたわよ〜」


やって来たのはネミリ班の一行でモビナとヒーテとダイナ、次いでにマルヤマ班のシネラとタマも合流する。

ニヤニヤしながら言ってくるネミリに、二人は反論する。


「イチャイチャしてないよ!」

「場は弁えてるつもりだ…」


「ふ〜ん…」


まだニヤニヤしているネミリに勘の良いシネラが「二人は…」と訊ねる。

ネミリも「これよ!」と言いながら小指を立てる…シネラは(それ、意味違うけど…)と思いながらも大体の事情を察した…


「まあいいわ…早くファイザを火葬し……あなふかっ!?」

「うわー…下が見えない…」


「ブルームが掘ったです〜」

「すみません!すぐに埋めます」


驚くネミリの隣でシネラも覗きこんでいる。

ブルームに埋め戻された穴は調度シネラの体がすっぽり隠れる深さになった。


「今度からシネラちゃんの身長が基準だね〜」

「シネラ姉が基準です〜♪」


事の経緯を最初から見ていたマリアとトットがシネラを見ながら呟くが、シネラにはマル聞こえなので「握り潰すよ♪」と手を振るシネラに脅されすぐに黙る。


ブルームとヒーテがファイザの亡骸を穴に入れる。

火入れもブルームが任された。


「冥福を祈りましょうか…」

「そうだな…黙祷…」


サクラの言葉にナカジマが同意し黙祷の号令をかける。

各々がそれぞれの国や宗教のやり方で祈りを捧げる。


「フレアー」


ナカジマの号令とともにブルームが火魔法で亡骸を燃やし、穴の中から炎が上がる。

人の燃える臭いと、パチパチとファイザが身に付けていた衣服が燃える音だけが、静寂した樹海に流れた……





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